2012.10.09 tue

新聞1面トップ 2012年10月9日【解説】ノーベル賞の価値

新聞1面トップ 2012年10月9日【解説】ノーベル賞の価値


【リグミの解説】

山中教授ノーベル賞
本日の新聞1面トップは、読売、朝日、毎日、日経、東京の5紙とも「山中教授のノーベル賞」を大きく報道しています。データ
を見ると、ノーベル医学生理学賞の受賞者は、7割以上が30代までの研究業績が評価されたものです(1987~2006年までの43人の分析、参照:文部科学省)。山中教授は、2006年の研究発表が評価された受賞ですので、40代半ばの業績となります。何より、研究発表から受賞まで6年という異例の速さが注目されます。

山中教授は、ロベルト・コッホ賞、ラスカー賞、ミレニアム技術賞、紫綬褒章、日本学士院賞、恩賜賞、京都賞など多数を受賞し、2008年の米誌タイムの「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれています。しかし、業績を称えられるたびに、「まだひとりの患者さんも救っていない」と臨床応用への熱意を語ってきました(読売1面)。

ノーベル賞が決まっても、「私たちの本当
の仕事はしっかり研究を進め、iPSの医療応用を果たすこと。これからも本当の仕事を進めていかなければならないと思った。難病を持っている患者さんには、希望を捨てずにいてほしい」(毎日1面)と語ることを忘れない山中さんに、研究者としての矜持と医者として志の高さを感じます。

日本の研究環境づくり
「名目上、私に贈られたことになっているが、日の丸のご支援がなければ、こんな賞は受賞できなかった。まさに日本という国
が受賞した賞だと感じています」(朝日1面)。

山中教授は、米国留学から戻ったあと、日本の研究環境の劣悪さに絶望し、臨床医に戻ることも
考えたそうです(毎日新聞「余禄」)。世界中の研究者が、潤沢な資金と恵まれた研究環境に惹かれ、米国などに渡る中、山中教授は、日本で研究開発を続けました。

自分ひとりのことを考えるのでなく、国全体の研究環境の底上げと、未来の世代の育成まで考えてのことだと思います。決して潤沢でない研究資金を集めるために、積極的に広告塔の役割も担い、相手が門外漢であれば専門用語を一切使わず、iPSの意義をわかりやすく説明。今年3月には、京都マラソンの完走を条件にiPS基金への寄付を呼び掛けると、約1000万円が集まったそうです(東京新聞「筆洗」)。

日本の復興と再生は、山中教授のような志の人々のコミットメントによって加速していくのではないか
と勇気づけられます。

ノーベル賞の歴史
ノーベル賞をオリンピックのようにとらえ、受賞者数の多さを先進度、文明度、文化度の高さとみなす感覚があると思います。
今回の5紙の報道もすべて、日本人で19人目といった報道をしています。

ノーベル賞などは、欧米中心の賞であり、研究成果も欧
米の専門書掲載が条件だと思います。歴史的に見て受賞者に国・地域の偏りがあるのは致し方ないでしょう。今後は、中国やインドなど、人口が多く経済が発展していく国や地域から、多くの優秀な研究者が出てくることと思います。

アインシュタインがノーベル賞を受賞したのは、90年以上前の1921年。受賞理由は「光電効果の発見」でした。アインシュタインが構築した相対性理論については、「人類に大きな利益をもたらす様な研究と言えるのかと言えば疑問」との声があり、更には「ユダヤ的」とするノーベル物理学賞受賞者らの批判があったそうです。ノーベル賞委員会は、これらの批判を避けるために、光電効果を受賞理由に挙げました(参照:Wikipedia)。

人類史的な視点
今日、アインシュタインがドイツ人であることを何人が意識しているでしょう。ましてユダヤ系であることを否定的に見る理由
はどこにもありません。アインシュタインの発見は、まさに人類史に輝く成果であり、狭量な国家主義(ナショナリズム)や民族主義を軽々と超越しています。

アインシュタインは、光速度一定の原理により、時間の進み方は相対的であることを理論的に明らかにしました。それは人間の時間観念と空間観念を覆し、意識をシフトするものでした。

山中教授のiPS細胞は、細胞は受精卵の状態に戻らないという常識を覆しました。細胞が若返るという事実に、「タイムマシンに乗ったようだ」と世界は驚愕しました。山中教授の研究成果も将来、アインシュタインにも匹敵する人類史的成果と評価されるようになるかもしれません。

時間は一定方向に進み、肉体は老化し続けるという観念をも覆す可能性を秘めたiPS細胞
。そこには、「肉体と精神」とは何か、という壮大な哲学的・倫理的テーマも抱えています(参照「リグミの解説2012年10月6日」)。今後、iPS細胞の研究と臨床への応用は、世界規模で加速していくと思います。90年後、100年後の世界は、2012年のノーベル賞を振り返り、あそこが人類史の転換点になったと語るのでしょうか。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「山中教授ノーベル賞」

  • スウェーデンのカロリンスカ研究所は8日、京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授にノーベル生理学・医学賞を贈ると発表した。英国のジョン・ガードン博士との共同受賞となる。山中教授は、全身のあらゆる細胞に変化できる「多能性」があるiPS細胞(新型万能細胞)を作成した。
  • 授賞理由は、「体細胞のリプログラミング(初期化)による多能性獲得の発見」。受精卵から脳や皮膚、内臓などに変化した細胞(体細胞)は、元に戻ったり、他の細胞に変化しないのが常識だった。山中教授は2006年にマウスの実験で、わずか4種類の遺伝子を細胞に入れるだけで、皮膚の細胞を受精卵に近い状態まで若返らせること(リプログラミング)に成功した。
  • 山中教授は、マウスのiPS細胞作製を報告した2006年8月の論文発表からわずか6年での受賞となった。授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれる。賞金800万スウェーデン・クローナ(約9500万円)は、2人の受賞者で分ける。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「山中教授ノーベル賞」

  • スウェーデンのカロリンスカ医科大は8日、京都大の山中伸弥教授にノーベル医学生理学賞を贈ると発表した。山中教授は、皮膚などの体細胞から、さまざまな細胞になりうる能力をもつiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作りだすことに成功した。日本のノーベル賞受賞は19人目。
  • 授賞理由は、「成熟細胞が初期化された多能性をもつことの発見」。細胞は、受精直後は体のあらゆる細胞になる「万能性」をもつが、特定の役割を持つようになると、元の状態に戻る「初期化」はしないと考えられていた。山中さんはこの生物学の常識を覆した。2006年に、マウスの体細胞に4つの遺伝子を導入することで、iPS細胞を作ったと発表した。
  • 授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれる。英国のジョン・ガードン博士との共同受賞となる。経済危機で今回から2割削減された賞金800万スウェーデン・クローナ(約9400万円)は、2人の受賞者で分ける。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「山中伸弥氏ノーベル賞」

  • スウェーデンのカロリンスカ研究所は8日、京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授にノーベル医学生理賞を贈ると発表した。英国のジョン・ガードン博士との共同受賞となる。日本人の受賞は2010年以来で、総数19人。授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれ、賞金800万スウェーデン・クローナ(約9800万円)が、両氏に半分ずつ贈られる。
  • 授賞理由は、「成熟した細胞を、多能性を持つ状態に初期化できることの発見」。1個の受精卵から、心臓や筋肉の細胞に「分化」した細胞は、「分化前」の状態に戻らないと考えられていた。山中教授らは、再びあらゆる細胞に分化できる「多能性」を呼び戻すのに必要な遺伝子を4つに絞り込み、細胞を初期化。多能性と増殖能力を持つ「iPS細胞」を作った。
  • 2氏の業績についてカロリンスカ研究所は、「細胞や器官の進化に関する我々の理解に革命を起こし、教科書は書き換えられ、新しい研究分野が開かれた」と評価する。山中教授は、最初の成果発表から6年余りという異例のスピード受賞となる。拒絶反応の少ない再生医療や難病の仕組み解明などにつながる革新的な功績が評価された。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「山中氏にノーベル賞」

  • スウェーデンのカロリンスカ研究所は8日、京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授にノーベル生理学・医学賞を贈ると発表した。英国のジョン・ガードン博士との共同受賞となる。日本人のノーベル賞は2010年以来2年ぶりで19人目。医学賞では、1987年の利根川進氏以来、25年ぶりで2人目。
  • 授賞理由についてカロリンスカ研究所は「細胞や器官の進化に関する我々の理解に革命を起こした」と説明。山中教授は、2006年に世界で初めてマウスの皮膚細胞からiPS細胞を作った。iPS細胞は受精卵のように体のどんな部分にも再び育つ。細胞の時計をリセットする「初期化(リプログラミング)」と呼ぶ研究成果は、生物の常識を覆すものとなった。
  • 授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれる。賞金800万スウェーデン・クローナ(約9400万円)は、2人の受賞者で分ける。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「山中教授ノーベル賞」

  • スウェーデンのカロリンスカ研究所は8日、京都大学の山中伸弥教授にノーベル医学生理学賞を贈ると発表した。英国のジョン・ガードン博士との共同受賞となる。日本のノーベル賞受賞は19人目。医学賞では、1987年の利根川進氏以来、25年ぶりで2人目。
  • 授賞理由は、「成熟した細胞を、多能性を持つ状態に初期化できることの発見」。山中教授は2006年、マウスの皮膚細胞に4つの遺伝子を入れると、体のどんな細胞にも変化させられる多能性幹細胞に変わると発表し、iPS細胞と命名した。iPS細胞は、倫理的問題のない形で再生医療に応用可能で、新薬の開発や難病の原因解明などにも役立つ。
  • 授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれ、賞金800万スウェーデン・クローナ(約9800万円)が、両氏に半分ずつ贈られる。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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