【リグミの解説】
乗っ取られるPC
本日の読売、朝日、毎日の1面トップ記事は、そろって「PCの遠隔操作問題」についてです。大阪市と津市のPCから「大阪市のHP」と「インターネット掲示板」に、大量殺人と爆破の予告メールが送られた事件で、2人の男性が逮捕されましたが、「なりすましウィルス」に感染し、第3者に遠隔操作されていた可能性が高いことがわかりました。
ネット社会になり、すべてがつながる時代には、どこで何がされているかわからない怖さがあります。情報処理推進機構は、「パソコンユーザのためのウイルス対策 7ヵ条」を提示しています(「ウィルス対策7ヵ条」)。第6条「ウイルス感染の兆候を見逃さないこと」で、以下の現象に注意するように呼びかけています:
(1) システムやアプリケーションが頻繁にハングアップする。システムが起動しない。
(2) ファイルが無くなる。見知らぬファイルが作成されている。
(3) タスクバーなどに妙なアイコンができる。
(4) いきなりインターネット接続をしようとする。
(5) ユーザの意図しないメール送信が行われる。
(6) 直感的にいつもと何かが違うと感じる。
個人情報の扱い―各紙の「違い」
ネット社会の便利さの陰で、高まるリスクのひとつとして、個人情報の漏洩や、間違った情報・誹謗中傷がネットで拡散していく問題があります。今回の事件報道でも、逮捕された大阪市の男性は実名報道されました。誤認逮捕の可能性が高く、釈放された現在も、新聞によって個人情報の扱いに差があります。
読売新聞: 匿名で報道。「大阪府警に逮捕された男性を当初、実名で報道しましたが、第3者による犯行の可能性が高まったため、匿名に切り替えます」との説明を添付。
朝日新聞: 大阪府の男性については、市名と職業、氏名・年齢を明記。「○○○○被告」と表記。
毎日新聞: 記事の冒頭に、男性の職業と氏名・年齢を明記。「○○○○被告」と表記。その後の記事の中では、「○○さん」と記述(3回)。
日経新聞: 社会面の記事で、市名と年齢を表記。男性とのみ表記し氏名はなし。
東京新聞: 社会面の記事で、本文の冒頭に職業と氏名・年齢を明記。「○○○○被告」と表記。その後の記事では、「○○さん」の記述が4回、「○○○○さん」の記述が1回。
実名は必要か
記事比較をすると、読売新聞が誤認逮捕の可能性を重く見て、その関連の情報を比較的詳細に出し、匿名にすることで容疑者の人権に配慮しています。朝日は容疑者の人権については特段の配慮がない印象です。毎日と東京新聞は、「○○さん」の記述をすることで、容疑者の容疑が晴れたことを印象づけています。
この事件で逮捕者が出た時点で、新聞は実名開示をしていますので、毎日新聞と東京新聞のように、あえて「さん」付けで本人の名前を明記した続報を出すのも、本人の名誉回復に役立つ面もあり、ひとつのアプローチだと思います。ただ、本日の記事ではじめて実名に触れる人もいるはずで、個人情報が拡散し続ける状況を結果として作っていることも否めません。
忘れない義務、忘れられる権利
NHKの「クローズアップ現代」の2012年6月26日の放送は、『“忘れられる権利”はネット社会を変えるか?』でした。「悪意を持った第三者が、Facebookやブログなどのネット上に蓄積した個人の情報をかき集め、住所や家族関係、過去の恋愛経験までを、ネット上に晒すプライバシー侵害」の問題を扱っています(NHK)。
EU(欧州連合)の執行機関である欧州委員会は1月下旬、利用者がネット事業者に自分の個人情報の削除を要求できる「忘れられる権利(rights to be forgotten)」を盛り込む法案をまとめたそうです(引用:「サイバー閑話」)。悪意や不正によるケースの救済、あるいは誤認逮捕などのケースでの名誉回復、さらには事実ではあるが更生や再起をしているケースなど、「忘れられる権利」が考慮されるべきと思われることは少なくありません。
傷を負っても、それを癒し回復する力が、生命にはあります。社会もまた生き物であり、傷を負った社会の一員を排除したり、叩き続けたり、晒し者にし続けるのは、健全なこととは言えません。問題が起きた原因については「忘れない義務」があります。その上で、共に良き未来を創るために、「忘れられる権利」もあるのだと思います。
(注:リグミでは、事件のポイントはネット犯罪のからくりの解明にあり、個人を特定することにはないとの前提で、容疑者の個人情報はできるだけ回避する形で、各紙の記事要約をしました。)
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「PC乗っ取り犯罪予告か」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「別人がPC遠隔操作か」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「ネット殺人予告、遠隔操作」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「日本経済踊り場に」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「『日本の再生』拡大解釈」