2012.10.08 mon

新聞1面トップ 2012年10月8日【解説】忘れない義務、忘れられる権利

新聞1面トップ 2012年10月8日【解説】忘れない義務、忘れられる権利


【リグミの解説】

乗っ取られるPC
本日の読売、朝日、毎日の1面トップ記事は、そろって「PCの遠隔操作問題」についてです。大阪市と津市のPCから「大阪
市のHP」と「インターネット掲示板」に、大量殺人と爆破の予告メールが送られた事件で、2人の男性が逮捕されましたが、「なりすましウィルス」に感染し、第3者に遠隔操作されていた可能性が高いことがわかりました。

ネット社会になり、すべてがつながる時代には、どこで何がされているかわからない怖さがあります。情報処理推進機構は、「パソコンユーザのためのウイルス対策 7ヵ条」を提示しています(「ウィルス対策7ヵ条」)。第6条「ウイルス感染の兆候を見逃さないこと」で、以下の現象に注意するように呼びかけています:

1) システムやアプリケーションが頻繁にハングアップする。システムが起動しない。
(2) ファイルが無くなる。見知らぬファイルが作成されている。
(3) タスクバーなどに妙なアイコンができる。
(4) いきなりインターネット接続をしようとする。
(5) ユーザの意図しないメール送信が行われる。
(6) 直感的にいつもと何かが違うと感じる。

個人情報の扱い―各紙の「違い」
ネット社会の便利さの陰で、高まるリスクのひとつとして、個人情報の漏洩や、間違った情報・誹謗中傷がネットで拡散してい
く問題があります。今回の事件報道でも、逮捕された大阪市の男性は実名報道されました。誤認逮捕の可能性が高く、釈放された現在も、新聞によって個人情報の扱いに差があります。

読売新聞: 匿名で報道。「大阪府警に逮捕された男性を当初、実名で報道しましたが、第3者による犯行の可能性が高まったため、匿名に切り替えます」との説明を添付。
朝日新聞: 大阪府の男性については、市名と職業、氏名・年齢を明記。「○○○○被告」と表記。
毎日新聞: 記事の冒頭に、男性の職業と氏名・年齢を明記。「○○○○被告」と表記。その後の記事の中では、「○○さん」
と記述(3回)。
日経新聞: 社会面の記事で、市名と年齢を表記。男性とのみ表記し氏名はなし。
東京新聞: 社会面の記事で、本文の冒頭に職業と氏名・年齢を明記。「○○○○被告」と表記。その後の記事では、「○○さ
ん」の記述が4回、「○○○○さん」の記述が1回。

実名は必要か
記事比較をすると、読売新聞が誤認逮捕の可能性を重く見て、その関連の情報を比較的詳細に出し、匿名にすることで
容疑者の人権に配慮しています。朝日は容疑者の人権については特段の配慮がない印象です。毎日と東京新聞は、「○○さん」の記述をすることで、容疑者の容疑が晴れたことを印象づけています。

この事件で逮捕者が出た時点で、新聞は実名開示をしていますので、毎日新聞と東京新聞のように、あえて「さん」付けで本人の名前を明記した続報を出すのも、本人の名誉回復に役立つ面もあり、ひとつのアプローチだと思います。ただ、本日の記事ではじめて実名に触れる人もいるはずで、個人情報が拡散し続ける状況を結果として作っていることも否めません。

忘れない義務、忘れられる権利
NHKの「クローズアップ現代」の2012年6月26日の放送は、『“忘れられる権利”はネット社会を変えるか?』でした。「悪意を
持った第三者が、Facebookやブログなどのネット上に蓄積した個人の情報をかき集め、住所や家族関係、過去の恋愛経験までを、ネット上に晒すプライバシー侵害」の問題を扱っています(NHK)。

E
U(欧州連合)の執行機関である欧州委員会は1月下旬、利用者がネット事業者に自分の個人情報の削除を要求できる「忘れられる権利(rights to be forgotten)」を盛り込む法案をまとめたそうです(引用:「サイバー閑話」)。悪意や不正によるケースの救済、あるいは誤認逮捕などのケースでの名誉回復、さらには事実ではあるが更生や再起をしているケースなど、「忘れられる権利」が考慮されるべきと思われることは少なくありません。

傷を負っても、それを癒し回復する力が、生命にはあります。社会もまた生き物であり、傷を負った社会の一員を排除したり、叩き続けたり、晒し者にし続けるのは、健全なこととは言えません。問題が起きた原因については「忘れない義務」があります。その上で、共に良き未来を創るために、「忘れられる権利」もあるのだと思います。

(注:リグミでは、事件のポイントはネット犯罪のからくりの解明にあり、個人を特定することにはないとの前提で、容疑者の個人情報はできるだけ回避する形で、各紙の記事要約をしました。)

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「PC乗っ取り犯罪予告か」

  • 犯罪予告メールを送信したなどとして、大阪府警と三重県警に逮捕された男性2人のパソコンが、「遠隔操作ウィルス」とみられるウィルスに感染していたことが判明した。誤認逮捕の可能性が高く、大阪地検と津地検は、2人を釈放した。
  • 遠隔操作型ウィルスの仕組みは以下の通り。①第3者のパソコンにウィルスを送りつける(ウィルス付きのメール開封や、ウィルスが仕込まれたサイト閲覧によって感染)、②第3者パソコンを遠隔操作する、③ネットで殺人や爆破予告などを書き込む―。不正行為のあと証拠隠滅のため、遠隔操作でパソコン内からウィルスを削除することも可能。
  • 男性2人は「身に覚えがない」と主張していた。大阪の男性のパソコンからはウィルスが削除されていたが、感染の痕跡が確認された。警察庁は全国の警察に対して、サイバー事件の捜査はパソコンが第3者に遠隔操作されている可能性も想定し、慎重に行うよう異例の注意を行った。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「別人がPC遠隔操作か」

  • 無差別殺人などを予告する書き込みをしたとして、威力業務妨害容疑で逮捕された2人が使用していたパソコンが、ウィルスに感染し遠隔操作できる状態だったことがわかった。何者かがウィルスを送り込み、遠隔操作で書き込みをした可能性があるため、2人は釈放された。
  • 「なりすましウィルス被害」の構図は以下の通り。①第3者がウィルス(不正プログラム)をパソコンに送り込む、②送り込まれたパソコンのIPアドレスを使い、遠隔操作で書き込みをする、③その後、ウィルス(不正プログラム)を削除する―。
  • 大阪府警は、何者かがなりすまして書き込みをした可能性をがあるとして、不正指令電磁的記録作成や同供用容疑で、感染経路を調べる。警察庁は全国の警察本部に注意を促すとともに、このウィルス情報を民間のウィルス対策ソフト開発者に提供した。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「ネット殺人予告、遠隔操作」

  • 大阪市のホームページに無差別殺人予告を書き込んだとして逮捕されたアニメ演出家のパソコンが、ウィルスに感染し、第3者に遠隔操作されていた疑いが強いことが判明した。演出家は事件に無関係だった可能性が高まり、大阪地検は勾留取り消しを請求し釈放した。
  • ウィルス感染の構図は以下の通り。①第3者が演出家と津市の男性のPCにウィルスを送りつける、②感染したPCを遠隔操作し、大阪市役所のHPと、インターネット掲示板に書き込みをする、③送信後にウィルスを削除する―。演出家が感染したウィルスは、キーボードの入力状況も外部から監視できるようになっていた。
  • 大阪地検幹部は、「第3者が書き込みをしたことの確認、解析には時間がかかる。起訴を取り消すかどうかすぐには結論を出せないだろう」と語る。警視庁は、都道府県警にサイバー捜査では成り済ましに十分注意するよう指示した。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「日本経済踊り場に」

  • 4~6月期まで4四半期連続でプラス成長が続いていた日本経済に急ブレーキがかかり、景気が踊り場局面に入った。中国などの海外経済の減速で輸出が鈍る一方、日本経済を牽引してきた個人消費の伸びも鈍っている。補助金政策などで支えられてきた自動車販売は、反動減が懸念される。
  • 最大の貿易相手国である中国への輸出は、8月まで3ヵ月連続で減少。韓国、台湾、シンガポール向けの輸出も振るわない。特に厳しいのが中国の内需に関連する産業機械などの輸出だ。中国経済は、第1段階の欧州向け輸出の鈍化を経て、第2段階の内需減速に入った。
  • 一方、米国経済は好材料となる。日本から米国への輸出は、自動車を中心に好調が続く。クリスマス商戦が好調に推移すれば、日本経済の下支えとなる。日中関係の悪化が景気を下押しする懸念も強まる中、日本経済は再び勢いを取り戻せるか。政治が政策実行の先送りを続ければ、景気はさらに下振りする可能性もある。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「『日本の再生』拡大解釈」

  • 東日本大震災の復興予算が、被災地復興と関係なく、「何でもあり」の使われ方をするカラクリは、政府の復興基本方針に書かれた2つの文言にある。(1)「日本経済の再生なくして被災地の真の復興はない」、(2)この考えの下で「被災地に一体不可分として緊急に実施すべき施策」の実行を認めた。
  • 「日本経済の再生」の文言は、震災後に海外からの風評被害などで全国の産業が影響を受けたことで、政治サイドの要求で追加された。日本経済を支える狙いがあり、幅広い事業の予算化に道を開いた。ある官僚は「霞が関の人間は旗が立てば、わーっと群がる。頭を使い、財務省の目の届かないところでうまく事業を滑り込ませるのがわれわれの習性だ」と語る。
  • 財務省幹部も「当時は復興を優先させるため、足りないより過分であった方がいいと査定を甘くした」と認める。復興と震災対策を名目に「予算の獲得合戦」に明け暮れる姿勢は厳に正すべきだ。「被災地に寄り添う」との誓いを空虚にしないためにも、復興予算の精査が必要だ。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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