【リグミの解説】
エリートの自負と戸惑い
本日の朝日新聞の1面トップは、「EUエリート」に関する調査記事です。EU機関が集中するブリュッセルで、EU官僚とその子供たちは、地元商店街などとの交流も少なく、別世界の住人と思われている様子を、記事の冒頭で描写しています。欧州レベルで政治を議論する場がないため、欧州統合はEUエリートが推進しています。「そのEUエリートたちは、自らが背負い込む責任の重さに、自負と戸惑いを交錯させている―」。
戦争の歴史から学んだ欧州
EUの理念の源は、第1次世界大戦後に起きた欧州統一思想にあると言われます。特に、クーデンホフ・カレルギー伯が1923年に出版した『汎・ヨーロッパ』において、平和的世界統一の第1段階としてのヨーロッパ統一を呼びかけ、第1次大戦の傷跡の残るヨーロッパに希望をもたらしました。
しかし欧州は再び世界大戦の戦場となり荒廃しました。第2次世界大戦後、欧州が一致団結することで再興をはかろうとの動きが活発化します。カギを握るのは、対立していた独仏の和解でした。欧州はここで、経済の協力と融合をテコにしました。独仏の石炭・鉄鋼産業を超国家機関の管理のもとに置き、他の欧州諸国も参加するECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)が、1952年に設立されました。
1958年には更に経済協力の領域を広めたEEC(欧州経済共同体)が設立され、1967年の欧州共同体(EC)につながります。そして、1993年のマーストリヒ条約で、ECはEU(欧州連合)へと進化します。EUは、(a)「域内国境のない地域の創設」、(b)「共通外交・安全保障政策の実施」、(c)「欧州市民権の導入」、(d)「司法・内務協力」、(e)「共同体に蓄積された成果の維持」を目的とする、と同条約は定義しています(以上、「外務省HP」参照)。
問われるEUの真価
このように見ていくと、EUの背景には、①「欧州を2度と戦場にしない」、②「そのために経済融合を先行させ、それを政治統合へと高める」、③「共通の理念・価値基準・行動規範をもつ参加国を増やしていく」という考え方やアプローチがあることがわかります。
経済のメリットは大きいですが、それだけでは互いのポケットが潤う限りにおいてしか、融合メリットはないことになります。経済が厳しいおりにも、政治的な安定と協力を保ち、地域全体の平和と発展を目指すという強い政治的意志があってはじめて、EUは荒波を乗り越えていくことができます。EU参加国の国家財政が破綻するリスクを抱えた「欧州危機」が叫ばれる今、EUの真価が問われています。
EUから学ぶ
朝日新聞の記事を読むと、政治統合の前段の経済統合でつまづいてしまっているEUの課題を解決するために、EUエリートたちが国境をまたいで活動している様子が垣間見えてきます。官僚組織は、政治・経済・社会を支える大切な基盤す。優秀で志の高い官僚は、EUに限らず、どんな地域や国家にとっても、生命線となる資源です。
EUは、世界史的に見れば、カレルギー伯の本にあるように、「平和的世界統一の第1段階」と位置付けられるべきものだと思います。高邁な理念に基づき実践されてきたこの壮大な実験は、領土問題に揺れる東アジアにとっても大いに学ぶべきものがあります。日本をはじめ、アジアの政治家の責任は重大です。それと共に、各国の官僚がどれだけ国際的な連携を取れるかも問われています。
政治の表舞台に姿を現しはじめたEUエリートが、どのように行動し、どんな「声」を発していくのか。EUの今後を占う大事な視点です。東アジアの域内問題を抱え、政治機構と官僚制度の両方が息詰まっている日本は、そこから何を学べるでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「日台漁業協議再開へ」
- 政府は、台湾との漁業協議を年内に再開する方針を決めた。2009年2月以降3年以上中断されているもので、尖閣諸島周辺での操業を主なテーマとする。
- 交流協会の今井理事が9月25日に訪台した際に、外交部長(外相)に提案したものに基づく。台湾側も再開を強く希望しているという。現在は漁業協定がないため、日本の排他的経済水域(EEZ)で操業する台湾の漁船は、取り締まりの対象となる。
- 政府は、尖閣諸島の領有権問題とは切り離して交渉を行い、漁業協定をの締結に結び付けることで、台湾との関係改善を急ぎたい意向がある。対日圧力で連携を深めている中国と台湾の関係にくさびを打ち込む狙いもある。
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「欧州エリート、自負と戸惑いと ~カオスの深淵」
- ブリュッセルの北にある「欧州学校」は、欧州連合(EU)27ヵ国からきた子供たちに、母国語での教育をする。幼稚園から高校まであり、生徒たちは3~5の言語を身に着け、卒業後は欧州全域の大学に進学する。その後、世界中で仕事をすることになり、1割ぐらいはEUの諸機関を動かす欧州官僚となる。
- 欧州債務危機で、欧州官僚の影響力がにわかに高まっている。イタリアのモンティ首相や、一時母国ギリシャの首相を務めたパパディモス元欧州中央銀行副総裁も、欧州官僚だ。EUが求める改革を進めるが、国ごとの民主主義との間に摩擦ももたらしている。選挙で選ばれたわけではない欧州官僚が、法律など国の制度改革にまで踏み込むことに強い批判もある。
- 平和と繁栄をめざして欧州は統合を進めてきた。経済は国境を超えるが、政治は国内に留まる。その隙間を、選挙の洗礼を受けないEUエリート集団が埋める。欧州レベルで政治を議論する場がないため、欧州統合は専門家レベルでしか起きていない。欧州統合を推進する欧州エリートも、自らが背負い込む責任の重さに、自負と戸惑いを交錯させている。
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「オスプレイ配備完了、運用ルール機能不全」
- 垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが3機、米軍岩国基地から配備先の普天間基地に到着し、全12機の配備が完了した。米軍は4日から、普天間を拠点とした飛行訓練を開始しており、今月内の本格運用を目指している。
- 日米政府が合意した運用ルールでは、「ヘリモード(回転翼を上に向けた垂直離着陸モード)」は必要な場合を除き米軍施設・区域内とし、「転換モード(回転翼を斜め前方に傾けるモード)」での飛行時間は可能な限り短くすることになっている。しかし、市街地上空で「ヘリモード」や「転換モード」で飛行していたことが、沖縄県の目視調査などで確認された。
- 運用ルールに反した可能性が高い飛行が繰り返され、沖縄は反発を強めている。仲井・沖縄県知事は「(運用ルール)が役立っていない感じがあり、(オスプレイを)押し込んでくるのはかなり問題だ。政府にクレームをつける以外にない」と語る。
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「スマートフォン高速化」
- 携帯電話3社は、スマートフォンの契約者向け通信サービスを高速化する。各社が速度を引き上げるのは、「ロング・ターム・エボリューション(LTE)」と呼ばれる新型携帯電話サービス。
- LTEは、現在主流の第3世代携帯電話に比べて速度が3倍となる。理論上は、約700メガバイトの音楽CDを1分以内、数ギガバイトの容量がある2時間の映画も数分でダウンロードできる。
- 冬モデルからスマホ全機種を高速通信対応とするほか、料金を据え置いたまま、家庭用光回線に匹敵する高速通信網を整備する。携帯各社の高速化対応により、インターネット端末の主役がパソコンからスマホやタブレットに移行するとみられる。
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「復興予算届かない」
- 「第5次中小企業グループ補助事業」の申請に対して、約63%がで却下されていた。「中小企業グループ補助事業」は、津波で被災したり、原発事故で避難を余儀なくされた商店街や漁港などのグループに、施設や設備の修理にかかる費用の4分の3を国と県が補助する制度。補助金交付の是非は、各県が申請内容を審査し判断する。
- 「第5次中小企業グループ補助事業」の申請状況は以下の通り(岩手、宮城、福島、茨城、千葉の5県計)。▽「申請グループ数(カッコ内は事業者数)」=365(6068)、▽「却下グループ数」=231(3572)、▽「申請額」=2245億円、▽「却下額」=1540億円、▽「却下率」=63.3%。
- 「計画の中身が補助の要件を満たしていない」「国の予算が足りない」などが主な却下理由という。日本政府は復興財源で「日本再生」に取り組む方針を決めたため、被災地と無関係な地域の工場への設備投資や、核融合エネルギー研究など復興予算になじまない使途に多くの資金が使われ、被災地への予算が圧迫されている。
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
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