【リグミの解説】
いじめ緊急調査
本日の毎日新聞の1面トップ記事は、文部科学省による「いじめ緊急調査」についてです。文科省は、小中高と特別支援学校を対象に毎年「問題行動調査」を実施し、いじめの認知件数を調べています。2011年度は、7万231件のいじめが報告されました。
現在の学校数は、小学校21,460、中学校10,699、高校5,022、特別支援学校1,059で、合計38,240校になります(参照:政府統計)。ものすごく単純化した計算ですが、昨年度に認知されたいじめは、1校あたり2件だったことになります。これ、多いと思いますか、少ないと思いますか?
年間7万件と聞くと大変大きな数と感じますが、長い年月に渡っていじめが問題視されてきたことを考えると、1校あたり2件という内容は、氷山の一角だという気がします。大津市立中学における「いじめ自殺」が社会問題化した今年度は、いじめの認知数が半年で7万件を超えたわけですから、1校あたり年間換算で4件と倍増したことになります。これで実態に近づいたのでしょうか。
いじめの発生率
小学校の生徒数は約699万人、中学校が356万人、高校で336万人で、合計1391万人です。これも単純計算ですが、総生徒数に占めるいじめ認知率は、2011年度で0.5%、2012年度半期のペースだと1.0%になります。今や生徒の100人に1人がいじめの対象になっているとすると、現在認知されているだけでも、相当の頻度と言わなければなりません。文科省は、今年度半年のいじめ認知数のうち、「重大ないじめ」は250件あったと言います。これはいじめ認知数の0.3%(300件に1件)です。
労働災害における経験則のひとつであるハインリッヒの法則では、「1件の重大事故・災害」の背後に「30件の軽微な事故・災害」があり、さらにその背後に「300件のヒヤリ・ハット」があると言います(ヒヤリ・ハット=重大な災害や事故には至らないものの、直結してもおかしくない一歩手前の事例:Wikipedia)。この法則に当てはめれば、「重大ないじめ」の0.3%(300件に1回)は、ちょうど当てはなる比率になります。
ヒヤリ・ハット
元より事故・災害といじめはまったく違う事象ですが、意図せざるところで過激化する要素を秘めているいじめは、ある意味で事故や災害にも比することができるかもしれません。いじめはあってはならないもの、という前提を置く道義的な立場だけでは限界があると思います。事故・災害は起きるもので、どうやって予防し減災するかを考える方が現実的な段階に来ているかもしれません。
そういう意味で、文科省の統計の「いじめの認知数」は、ハインリッヒの法則の「300件のヒヤリ・ハット」ではなく、むしろ「30件の軽微な事故・災害」に近いと想定することもできます。仮にそうだとすると、「重大ないじめ」は発生率0.3%の250件ではなく、3%の2500件ということになります。年間なら5000件という計算になります。この想定でいくと、調査で認知された「いじめ」の7万5千件(半年)はまさに氷山の一角で、実態は10倍の75万件、年間で150万件になります。
日本の刑法犯認知件数は、約20万件(2012年2月現在)ですので、成人人口で考えると、刑法犯認知率は約0.2%になります。ハインリッヒの法則から勝手に推測した「重大ないじめ」の潜在数2500件は、小中高の生徒数1391万人の0.02%です。今や警察が関与しなければならない事象になっている「重大ないじめ」の実態を考えると、2500件でもまだ少ないかもしれません。
子供のいじめは大人社会の投影
子供たちのいじめが大人の刑法犯罪に比する状況になっている、と推測するのは行き過ぎかもしれません。しかしひとつだけ言えるのは、いじめは大人社会の投影だということです。子供たちだけが特殊な社会に閉じ込められているわけではありません。仕事の現場でもハラスメントという名のいじめが社会問題になっています。
子供たちのいじめをなくす方策として、閉じた学級制度を開放すべき、という議論があります。同質なもの同士で閉じた社会は、同調圧力を高め、少しでも異質なものを排除しようとします。開かれた社会は、多様なものを受け入れ、連動していこうとします。
子供たちを本当に守り、豊かな心を持った人間として育てたいなら、まず大人が範を垂れる必要があります。異質なものを受け入れ、多様性の価値を積極的に認め、そうした開かれた社会の中で自己の潜在的な可能性を開花させていく。そういう価値観と行動規範をもった大人がたくさんいれば、小さな社会に閉じこもり、いじめ合う子供たちを開かれた社会に招き入れることができるはずです。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「『特例公債』成立に全力」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「政権、見えぬ機能強化」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「重大ないじめ250件」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「解散巡り攻防再び」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「安全軽視、見切り配備」