【リグミの解説】
小さな報酬、大きなリスク
本日の朝日新聞の1面トップ記事は、「愛知県警が探偵、携帯電話販売員、警察官、司法書士ら計30人を逮捕」という記事です。理由は、「個人情報の売買」です。ネットワークでつながる社会を象徴する事件といえます。全国の依頼者が数万~十数万円で情報を求めると、それが末端の公的な情報源にアクセスできる人物に、1件当り2千円から1万円程度の報酬となって渡り、欲しい情報が吸い上げられる仕組みです。
「個人情報ビジネス」と朝日が呼称する闇市場は、公的機関や企業が個人情報の管理を強化すればするほど、情報価値が上がり商売繁盛になる、という逆説を抱えているようです。末端で情報提供したのは、行政書士、司法書士、貸金業者、労働局職員、携帯電話会社の従業員、警察官、運輸支局職員。殆どの容疑者の職業は、普通に生活する上で何らかの接点があり、信用して情報提供をする相手です。本人たちは、ほんの小遣い稼ぎのつもりだったかもしれないですが、やったことの影響は甚大です。
社会の健全度
こうした違法行為やモラルを問われる行いをする人がどれ位いるかは、「社会のまとも度、健全度」を測る指標にもなります。似た行為に賄賂(贈賄と収賄)がありますし、接待や付け届け(意図をもった贈り物)もグレーとなるケースがあるでしょう。業界によって商習慣の違いもありますし、企業ごとに行動規範などの考え方にも違いがあります。
社会の潤滑油として社交のレベルでなされることと、特定の人や組織の利益と損失に直結する行為は、案外と敷居が曖昧で、気づくと一線を踏み越えている可能性があります。違法行為に手を染めた人たちは、悪意や罪悪感をどれぐらい持っていたのでしょうか。最初はいけないことをしていると思いつつ、積み重なる報酬に目が眩み、いつか感覚が麻痺していったのかもしれません。
モラルを高める方法
モラルを高める方法は、①「罰則制度」、 ②「相互監視」、③「自己規律」の3つが考えられます。①の「賞罰制度」は、法律や企業の職務規定などで、調査・検挙・処罰の仕組みとセットなので、一番効果があると普通は考えられます。でも、厳罰化は案外効果を発揮しません。人間を動機付けるのに、「恐怖」や「損失」は嫌だ、という「ネガティブな感覚」は、限界があるからです。
②の「相互監視」はどうでしょうか。全体主義的な国家の中には、コミュニティーの中にスパイを送り込み、告発を奨励するケースもありますが、これは①と同様にものすごくネガティブで、モラルが低下します。日本社会に伝統的に見られた「お互い様で助け合い、相互に関心を持ちあう」ケースはどうでしょうか。そもそも個人情報が共有されてしまう鬱陶しさはありますが、「迷惑をかけられない」「恥ずかしいことはできない」という「社会的なバランス感覚」をもたらします。「恥」や「世間体」は、相手の事を気遣うモラルの在り方につながります。日本人は、特にこの点に秀でていると思います。
③の「自己規律」は、仕事においてプロフェッショナリズム(職業倫理観)を貫く姿勢に現れます。不正はしない、顧客情報など機密情報は絶対に漏らさない、クライアントのために最高の仕事をする、そのために常に最新の知識を身に着ける、など自己研鑚(けんさん)を怠らない。それがプロの仕事の流儀です。そのことで、応分の報酬と名誉を得るというもので、「自己をしっかり保つ軸」を持つことで、自己成長し、クライアントや社会により貢献できる喜びがあります。
こうして比較してみると、「罰則制度」は現状から「下がる」、「相互監視」は現状を「維持する」、「自己規律」は現状から「上がる」仕組みともいえます。
仕事の報酬の本質
昨日の「リグミの解説」で、生活保護制度の見直し案に関連して、「働く=傍(はた)を楽にする」の含意がある、という話をしました。本来、どんな仕事も「自己規律」というプロの流儀を必要としておりますし、そういう仕事の仕方をすれば、相手が喜び自分の価値も高まる感覚を得ることができます。
日本人は、職業に貴賤なし、という世界にも稀に見る社会感覚を持っているように見えます。どんな仕事も、一所懸命やる。現場でチームで創意工夫し、改善していく。個人も高い目標に向けて、コツコツと鍛錬を積んでいく。お互いに助け合い、教え合ってより良い環境を目指す。「道」を極める感覚が、どんな縁の下の仕事にも備わっているのです。
「傍を楽にする」仕事の本質は、「自己を無限に成長発展させる喜び」と一対のものです。これに気付いた人は、不正な報酬といった、つまらない誘惑に負けることはありません。1人でも多くの人が、仕事の報酬の本質を体感できる社会でありたいと思います。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「工場爆発、消防士死亡」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「個人情報の闇市場拡大」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「化学工場消化中に爆発」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「設備投資、世界で抑制」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「ビートルズにHELP!」