【リグミの解説】
「虎の尾を踏む」
虎は古来たいへん危険な存在と見られたようで、危ないことの喩え(たとえ)によく使われます。「虎の尾を踏む」は、無謀なことをして事態を炎上させるときに使いますし、「虎の口」といえば、きわめて危険な場所や場合を意味します。危険を冒さなければ功名は立てられない喩えとして、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」があります。
グローバル化しネットで世界中がつながる時代には、世界中いたるところに「虎」が潜んでいるようです。今朝の読売新聞、朝日新聞、毎日新聞はそろって 1面トップに中東を中心にイスラム圏で広がる反米デモの様子を伝えています。米カリフォルニア州に住むユダヤ系の人物が、「Innocence of Muslims(イスラム教徒の無邪気さ)」と題した14分間の動画をユーチューブに投稿したのが発端のようです。映画では、ムハンマドが女好きの詐欺師として描かれており、これがイスラム教徒の「虎の尾」を踏みました(参照:REUTERS)。
日本も、日韓、日中の関係で、領土にまつわる「虎」が出没しています。韓国の李明博大統領が竹島上陸に続いて、天皇謝罪要求発言をして、日本側は一気に態度を硬化させました。今日、天皇は日本国の象徴とされ、平成天皇は取り分けそのような存在として国民に敬愛されています。印象として、李大統領は無自覚に日本の「虎のを尾」踏んでしまったように見えます。
「目覚めた獅子」
ところで、獅子(ライオン)もまた、たいへん危険な存在ですが、喩えとなると、虎ほど恐ろしくはないもの。「獅子身中の虫」は、内部にいて恩恵を受けるものが害をなすこと。「獅子に牡丹」といえば、取り合わせの良いもので、「獅子の子落とし」は、自分の子を困難な環境に置いて器量を試すことを意味します。
西欧列強が東アジアに進出し、日本の開国圧力が高まった江戸時代末期、中国は清の時代でした。チャイナ(China)は清の英語読みですが、その中国は19世紀末には国力がすっかり衰退し、「眠れる獅子(Sleeping Lion)」と呼ばれました。
経済開放路線を成功させ、21世紀初頭の今日、米国と対峙する超大国に成りつつある中国は、さしずめ「目覚めた獅子」。あるいは、もっとストレートに恐ろしさを感じさせる「虎穴より出ずる虎」でしょうか。領土問題で度重なる衝突をする日本にとって、中国は「獅子」よりも「虎」に見えます。
「恐れと不信」か、「興味と親しみ」か
石原都知事の尖閣諸島買上げ宣言に端を発した尖閣の国有化の動きにより、中国で再び「虎の尾を踏む」騒ぎになっています。2009年の中国漁船衝突事件の時、中国は次々と「ハードパワー」的な外交手段で民主党政権を揺さぶりました。今回も同様のヒートアップをしていくのか、注視する必要があります。
世界目線で見れば、領土問題は「喧嘩両成敗」の世界です。「ハードパワー」で争って最終的に得るものは何もありません。なぜならそこには、相手への「恐れと不信」があるからです。イスラム圏を揺るがすユーチューブ画像の製作者も、きっとイスラム教やイスラム教徒に対して、「恐れと不信」を抱いているのでしょう。それが悪意や軽蔑の表現になったのだと思います。
今や世界の2大国となった中国、そして米国には、「百獣の王」である獅子の振る舞いを期待したいと思います。そして、どのような国や地域、宗教的立場も、自分と異なる相手を「恐れと不信」で見るのをやめる必要があります。そこからは争いの種しか生まれません。解決手段は常に「ハードパワー」に依存するものとなり、結果は泥仕合であり、「Lose x Lose(喧嘩両成敗)」です。
しかし、自分と異なる相手に「興味と親しみ」を持てたとき、負のスパイラルは、かならず正の方向に動き出します。「Win x Win(相乗的繁栄)」を生み出す「ソフトパワー」の妙味を体験する猛獣は、「虎」でしょうか、「獅子」でしょうか。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事】 反米デモ、中東全域に
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事】 反米デモ、中東で拡大
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事】 反米デモ8ヵ国に
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事】 火力発電、参入促す
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事】 「コピー広がれば本物の価値増す」
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
【本日の新聞1面トップ記事】アーカイブ