【リグミの解説】
「倫理」はどれぐらい大事なのでしょうか。ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の講義は日本でも人気を博していますが、対話型の講義で教える政治学の背景には、常に「倫理」のテーマがあります。特に「経済倫理」に関わるテーマが多く示されます。お金で何でも買えてしまうのは良いことなのか、人としてやって良いことと悪いことがあるのではないか。いや、経済活動として合理的に成立し、法律や規制にも抵触しないことであれば、何をしても自由ではないか。この2つの立場の間のどこに自分はいるのか。実際の社会生活で、特定のテーマに直面して初めて、きれいごとや建前でない、本当の判断基準や「主義」が顔を出します。
今日の読売新聞のトップ記事は、簡単な血液検査でほぼ100%ダウン症の診断ができる画期的な検査システムが、国内の医療施設に導入されるニュースを伝えています。約20万円出せば、妊娠10週間前後という初期段階で、安全に簡単に、ダウン症といくつかの他の重度障害を診断できるようになります。問題は、わかった後です。障害児は欲しくないと、中絶をする人が出るのではないか、と読売は問題提起をしています。他人として、倫理や道徳を説くことはできます。でも、「当事者」であるお母さん(妊婦)やお父さん(配偶者)であったとしたら、どうでしょう。あなたは20万円出しますか?検査結果がもしも陽性だったら、どうしますか?
朝日新聞と毎日新聞は、野党から出されている野田首相への問責決議案が、今日にも参院で可決されることを報じています。ここでわかりにくいのが、自民党と民主党の動きです。自民党は、「問責理由ではなく問責自体に賛成か反対だ」という立場で、消費増税法を通した野田首相を問責する自公以外の決議案に合流する構えも見せます。でも、自分も賛成票を投じた法案なのに、そのことを叱責する考えに合流するのは、政党の「倫理」としてどうなんでしょうか?一方の民主党も、自民党の変節を理由に、「近いうちに衆院解散・総選挙」と表明した野田首相の約束は破棄すべき、との声が相次いでいます。こちらも、国民の知るところとなった約束を、状況が変わったといって簡単にほごにするのは、政党の「倫理」としてどうなんでしょうか?
「倫理」の問題は、結局何を大切にするか、根本的な価値観を問いかけています。「当事者」としての構えを明らかにするために、あえて「価値観としての倫理」がよくわかる、二者択一の問いを投げかけます。まず、お母さん(妊婦)とお父さん(配偶者)へ。「命は選択するものですか?それとも授かるものですか?」次に自民党と民主党へ。「政治家の目的は次の選挙に勝つことですか?それとも国家100年の計を立てることですか?」
讀賣新聞
【記事】 妊婦血液でダウン症診断
- 妊婦の血液で、胎児がダウン症かどうかがほぼ確実にわかる新型の出生前診断を国内の5施設が、9月にも導入する。染色体異常の確立が高まる35歳以上の妊婦が対象で、日本人のデータ収集などを目的として臨床研究として行う。導入予定施設は、国立成育医療研究センター、昭和大、慈恵医大、東大横浜市大。
- 米国の検査会社「シーケノム」が確立した検査で、妊婦の血液にわずかに含まれる胎児のDNAを調べる。ダウン症が99%以上の確率でわかる。羊水検査に比べ5週間以上早い、妊娠初期(10週前後)に行うことができる。妊婦の腹部に針を刺す羊水検査は、100%の精度だが、流産の確率が0.5%(200人に1人)ある。
- 新型の出生前診断は、血液検査でほぼ確実に異常がわかるため、検査を希望する人が増えると予想される。安易に広がれば人工中絶の増加も懸念される。国立成育医療研究センターの左合治彦・周産期センター長は「出生前診断の概念を変える新技術だが、安易に実施されれば、倫理的な問題にもつながる。適切なカウンセリングの下、慎重に運用したい」と話す。
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事】 首相問責、きょう可決
- 自民党と公明党は28日、野田首相への問責決議案を参院に提出した。自公両党は、民主党が28日の衆院本会議で赤字国債を出す特例公債法案と、衆院選挙制度改革法案を、与党単独で通過させたことに反発しており、問責決議案で採決を強行した首相の指導力を批判した。
- 自公以外の野党は、消費増税反対を理由に首相問責決議案を7日に提出しているため、いずれかの採決で各野党と調整し、29日の参院本会議で可決する。自民党の脇参院国対委員長は「問責理由ではなく(問責自体に)賛成か反対だ」と述べ、他の野党の決議案に賛成してでも可決させる考えを強調した。野党は可決後、今国会が終了する9月8日まで参院で政府提出の法案の審議拒否に入る。
- 野党は今国会での衆院解散要求を強めているが、民主党は野党の姿勢を批判しており、野田首相が民自公の3党首会談で消費増税に協力を得るために表明した「近いうち」の衆院解散の約束を破棄すべきだ、との声が相次いだ。解散をめぐる与野党の攻防が激しさを増している。
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事】 首相問責きょう可決
- 自民党と公明党は28日、野田首相の問責決議案を参院に提出した。決議案は「内政・外交上の数々の失敗により国益を損ない続けている。国家運営能力と責任感が絶対的に欠如している」などを問責理由とし、解散総選挙により「国民の信を問う」ことを求める内容となっている。
- 民主党は単独で、衆院選挙制度改革関連法案と、赤字国債の発行に必要な特例公債法案の採決を強行したが、参院は野党が多数のため法案成立の目途は立たない。それでも強行採決した背景には、自公両党の問責提出を誘い、事実上の「閉会」状態に持ち込むことで、自民党の求める今国会中の解散を回避する狙いがあるとみられる。自民党は、特例公債法案を「人質」に問責決議で揺さぶるしか野田政権を追い詰める手段がない。
- 問責決議案は29日の参院本会議で可決される見通しであり、国会は30日から会期末の9月8日まで空転することが確実になった。与野党双方は、世論の批判覚悟で「チキンレース」を展開している。
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事】 ダイキン、米社を買収
- ダイキン工業は、米国の家庭用エアコン首位、グッドマン・グローバルを約3000億円で買収する。米投資ファンドのヘルマン・アンド・フリードマンが保有するグッドマンのほぼ全株式を買い取る。買収資金は低利融資と手元資金や社債発行などで賄い、増資はしない。国内製造業で今年最大規模の買収となる。
- ダイキンは2010年度に空調事業で米キャリアを抜き世界首位に浮上したが、ここにきて中国勢の追い上げが激しい。ダイキンの2011年度の空調部門の売上高は1兆400億円で世界1位だったが、売上高1600億円のキャリアご合計すると1兆4000億円となる。手薄だった米国市場を開拓し、世界首位の座を固める。2位は、珠海格力電器(中国)。
- 買収額は当初3500億円程度まで膨らむ可能性があったが、円高の進行で最終的に約3500円で折り合った。円高を追い風に、日本企業が海外企業を買収し、事業拡大を目指す動きが一段と加速しそうだ。
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事】 安全装置、ベント妨げる
- 東京電力福島第1原発事故で、配管の途中にある安全装置の設計問題でベント(排気)が妨げられ、早い段階での原子炉への注水が遅れる原因となったことが判明した。東電の社内テレビ会議映像から分かった。放射能を閉じ込めるための安全装置が、逆に事故を深刻化させた。
- 事故では、2号、3号機とも高圧で注水する装置が使えなくなり、消防車で注水しようとしたが、原子炉(圧力容器)の圧力が高く難航した。ベント(排気)配管の途中に設置されている「ラプチャーディスク(破裂版)」がベントの障害となった。ベントの設計圧力が高すぎ、なかなかディスクが破れず、対応が遅れた。その間にも核燃料が過熱していく悪循環を起こした。
- 東電の宮田原子力グループマネジャーは「ベントしたいと思った時にできなかったことが最もつらい状況だった」と振り返る。経産省原子力安全・保安院は、事故の反省を踏まえ、ディスクがベントの妨げにならないよう見直すべきだとの考えで、原子力規制委員会に対応を引き継ぐ見通しだ。
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
【本日の新聞1面トップ記事】アーカイブ