【リグミの解説】
竹島の領土問題に端を発した野田親書が、宙に浮いています。韓国側が返却をするに及んで、日本側が受け取り拒否。親書という高度な外交文書が、ピンポン球のように双方を打ち返される事態です。中国は、1970年代初頭のアメリカとの「ピンポン外交」で、当時のニクソン大統領の中国訪問を実現し、その後、100を超える国と国交を樹立しました。しかし、2010年代に入って日韓両国を飛び交うピンポン球は、あらぬ方向に飛び出しそうな勢いです。
本日の読売新聞と毎日新聞は、この野田親書の扱いを1面トップ記事で報道しています。日本側から見ると、韓国の李大統領の竹島訪問から天皇謝罪発言、さらに国家首脳からの親書の返却は、異例続きのことで、対応に苦慮していると見られます。一方の韓国側もまた、国際司法裁判所(ICJ)への共同付託や日韓通貨スワップ協定の見直し言及など、日本外交の従来の流れを逸脱する日本側の強い反応に戸惑っているのではないでしょうか。日韓双方は、互いの「本音」を探り、「建前」というピンポン球を強打し合うパフォーマンスを早く収束させることが肝要です。
一方、朝日新聞の本日の1面トップ記事は、少年犯罪への厳罰化を求める市民感情に押されて、法務省が少年法の規定をより厳しくする方針を固めた、という内容です。2009年から始まった裁判員制度は、司法の世界に市民感覚を取り入れ、法律のプロの理論や解釈に社会の「常識」を反映させようとするものであったと思います。理屈上は、個々の裁判で、量刑が厳しく判断されるケースと、より寛大に判断されるケースがあるはずですが、傾向としては厳罰化になるのはなぜでしょうか。かつては裁判所に届かなかった被害者や被害者の遺族や関係者の声が、判決に反映されるようになったことが、厳罰化の動きに大きく影響していることは間違いありません。
さて、一見関係のない日韓問題と少年法の厳罰化ですが、「被害者感情」という一点で象徴的につながっています。韓国の国民に根深く存在する日本に対する「被害者感情」が、李大統領の竹島訪問を後押ししました。李大統領自身も、前回の日韓首脳会談で野田首相に従軍慰安婦問題への誠意ある対応を強く求めたのに対応してもらえなかった、という「被害者感情」をひきずったことも、背景にあると推測されます。こうした感情は、強い対応を求めるものです。両国の政治外交においても”厳罰化”を求める動きになってもおかしくありません。日本側も大同小異です。韓国の突然の異例の動きに対して、「被害者感情」を募らせています。
ここで気を付けなければならないこと。それは外交においては、一方的な被害者はいない、ということです。それは当然、一方的な加害者がいないということと一対です。被害と加害の程度の差はありますが、どちらか一方だけ、ということはありえません。特に、今回のような「ピンポン外交」が始まってしまうと、自国は被害への対応であっても、相手国にとっては加害行為であり、このやりとりは負のスパイラルとして止まらなくなります。
司法において、被害者や被害者遺族の感情を尊重することは、社会正義を求める動きとして自然であり、納得できることです。しかし一方で、刑法の厳罰化や厳格適用によって、本当に社会が良い方向に進むのかどうかは疑問もあります。外交においては、「被害者感情」にとらわれない冷静さや大局観は、司法の場以上に重要です。真に国家の責任を負う為政者は、「被害者」でも「加害者」でもありません。国を導くリーダーは、その両者の中間にいて問題を解決できる真の「当事者」なのです。
讀賣新聞
【記事】 野田親書、韓国が返送
- 韓国政府は23日、野田首相が李明博大統領宛に送付した親書を日本政府に返送すると発表した。在京韓国大使館員が親書を返却に来たが、外務省は受け取りを拒否した。
- 在京韓国大使館は親書返却のための面会を打診したが、外務省は「外交儀礼上、あり得ない行為だ」(幹部)と指摘し、面会を拒否。このため在京大使館の参事官が外務省を訪れて親書を返却しようとしたが、外務省は「面会の約束がない」として門前で制止し、省内立ち入りを認めなかった。
- 韓国側は同日、書留郵便で外務省に送付したが、日本政府は受け取らない方針だ。李大統領の島根県・竹島への上陸に端を発する日韓両政府の応酬は激しさを増している。
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事】 少年の有期刑引き上げ
- 法務省は、罪を犯した少年に対して言い渡せる有期刑を定める少年法の規定をより厳しくする方針を固めた。早ければ9月にも法相が法制審議会に諮問し、来年の通常国家に改正案を提出する方向で検討している。
- 現在の刑法では、成人で死刑の場合に少年は犯罪時に18歳未満なら、無期刑となる。成人が無期刑の場合は、少年は犯罪時に18歳未満なら、10年から15年の間の有期刑に減らせる。成人が3年以上の有期刑の場合には、少年が判決時に20歳未満なら、原則として長期と短期を定めた不定期刑なる(成人なら最長で30年のところを、少年は最も重くて10年)。
- 2009年にスタートした裁判員制度を経験した市民らから「成人と比べて軽すぎる」「少年事件で思ったような量刑を選択できない」との指摘がある。少年の有期刑の引き上げ方針の背景には、厳罰を求める市民感情がある。
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事】 「竹島」親書、返送を拒否
- 韓国政府は23日、野田佳彦首相が李明博大統領に送った親書を返送すると発表した。親書は、李大統領の竹島(韓国名・独島)上陸や天皇陛下への謝罪要求発言などに遺憾の意を表し、竹島領有権問題を国際司法裁判所(ICJ)に共同提訴する提案や、今後の韓国の慎重な対応を要請する内容となっている。
- 在日韓国大使館の参事官が日本の外務省を訪ねたが、外務省が構内への立ち入りを拒否し、返却できなかった。外務省は韓国大使館からの面会要請を、理由説明がないとして拒否していた。山口壮副外相は、「どうしても会いたいとのことだったが、目的が分からず、アポイントが成り立たない」と説明した上で、「『返す』と言われて『ああそうですか』とはいかない。返還ということなら会わないほうがいい」と語った。
- 野田首相は衆院予算委員会で、親書を返送しようとした韓国政府の対応を「首脳間の親書を返すとは、どうしちゃったんだろう。あまりに冷静さを欠いた行動ではないか」と批判した。日韓両国は、応酬をエスカレートさせ、対立は深刻化している。
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事】 樹脂原料、低コストで量産
- 新型天然ガス「シェールガス」を使って、低コストで化学品素材を生産する動きが広がってきた。シェールガスは、泥や砂が固まってできた頁岩(けつがん=シェール)層から採取された天然ガスで、新しい回収技術の確立により、米国での生産が急増している。
- シェールガスの供給増により、天然ガス全体の価格が1年前のほぼ半額に下落しており、北米の原油価格の6分の1程度になっている。このため、従来の石油由来の原料を使う製法から切り替えれば、大幅なコスト削減を見込める。旭化成は、石油の代わりに天然ガスから合成繊維や樹脂の原料を量産する技術を開発、2017年にも北米や東南アジアなどで、シェールガスの利用を視野に量産に入る。
- 衣料用化学繊維や家電用の樹脂原料への需要は世界的に増えており、石油よりも安い新資源を活用した効率的な利用技術の開発と活用の仕方で、世界の化学業界の勢力図が変わる可能性がある。
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事】 「再処理せず」合意ほご
- 東京電力福島第1原発事故の後、核燃料サイクル政策の選択肢を検討した原子力委員会の小委員会は当初、使用済み核燃料の再処理で出るプルトニウムを使用する見込みがない場合には、再処理をしないことで合意していた。しかし、検討の途中で、合意をほごにしていたことがわかった。
- 東京新聞の取材に対して小委員会の鈴木座長は、原子力委の近藤委員長や推進派の小委委員から反発があったことを明らかにした。鈴木氏は、近藤氏から「電力会社が『最後は必ず原発が使う』と約束すれば、いろんな理由の再処理があっていい」と、暗に現行施策の継続を求められ、「座長として意見をまとめるために仕方なかった」と語った。
- 原発事故の影響で、電力会社は原発でプルトニウム利用の計画を示せない状態にある。その現実を無視して核燃料サイクルを維持する方向に議論を進めていた。
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
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