【リグミの解説】
大阪都構想が住民投票で否決されました。本日の新聞6紙はこのテーマを大きく扱っています。社説の特徴的な主張を比較します。
<読売新聞> 「大阪都」反対 住民投票で破綻した橋下戦略
・ 財政効果が不透明な中、身近な行政サービス低下への懸念を感じる人が増えたためだろう。橋下氏は、維新だけで制度案を作成し、市議会の十分な議論がないまま住民投票に持ち込んだ。この強引な手法も批判を招いた。今後も、大阪市の活性化に向けた議論は継続する必要がある。維新の党が今後、どんな路線を取るにせよ、「責任野党」として建設的な政策論争を政権に仕掛ける姿勢を忘れるべきではない。
<朝日新聞> 大阪都否決―「橋下後」へ具体策を
・ 橋下氏のこの問題意識は理解できる。だが、その先にどんな具体的なメリットがあるかが、説得力をもって受け止められなかったのではないか。今の暮らしに影響するのは困るという漠然とした不安感が、期待にまさったように思う。これからは反対派が具体策を問われる。人口減少時代を迎え、基礎自治体の規模はどれくらいがいいか。各地で答えを探る営みが広がればいい。
<毎日新聞> 「大阪都構想」実現せず 橋下政治が否定された
・ 大阪市は労使の癒着が明るみに出て市民の不信が募っており、橋下氏の主張に一定の支持があった。それなのに住民投票で構想が否定された要因は、橋下氏の説得力不足と強引な手法への批判に尽きよう。そもそも住民投票に至る手続きに見過ごせない問題がある。議会で十分な議論が尽くされないまま住民投票に持ち込んだことが、乱暴すぎるという批判を招いたのは間違いない。
<日経新聞> 都構想否決でも迫られる大阪の改革
・ 都構想を支持しなかったからといって大阪が今のままでいいと考えているわけではないだろう。日本経済を考えるうえでも大都市の競争力の強化は欠かせない。4月の統一地方選では各地で投票率が低下した。候補者不足も深刻だ。住民に直接的に自治のあり方を問うた今回の試みは、地方政治の空洞化を補うひとつの取り組みとしても評価できる。
<産経新聞> 大阪都構想「反対」 改革論議は継続すべきだ
・ 自らの独善的な手法が敗因になったことを真摯(しんし)に受け止めるべきだ。橋下氏は「間違っていた」と判断ミスを認め政界引退を表明したが、対立と混乱を残したまま身を引くのは無責任ではないか。反対した各党にも反省を求めたい。議会での数の優位から、否決すれば都構想はつぶせるとみて、対案を出さずに消極的な対応に終始した。現状維持は対案でもビジョンでもない。
<東京新聞> 「大阪都」否決 議論の重さ忘れるな
・ 沈滞する大都市に、持続可能な将来像をいかに描くのか。その論点は地方自治の最重要課題であり、改革の具体的道筋を示した橋下氏の問題提起には大きな意味があろう。議会を軽視して強引に住民投票に持ち込み、「納税者をナメた役所や議会をつぶす」「既得権益を全部壊す」などとあおって主張を押し通そうとした手法は、あまりにも危うい。議論尽くさぬ改革は認めず。それが、示された民意であろう。
内容VS手法
各紙とも、橋下氏の強引な政治姿勢や手法が、投票結果に少なからぬ影響を与えたことを示唆しています。大阪都構想が間違いであったと断定する内容ではありません。反対派から明確な対案が出なかったことも批判しています。大阪府・大阪市の問題は、特殊なものではなく、全国の地方都市に共通の構造問題があるという指摘も重要です。
国家の安全保障や憲法の解釈など、国の根幹を問う政策転換を政府の意向だけで進める安倍政権の危うさを見るにつけ、同じ危うさを体現してきた橋下市長が、住民投票という「直接民主主義」に訴えたことは評価できます。ただ、ここでも手法上大きな問題を残したことは指摘する必要があります。
住民を当事者にする工夫
住民(国民)は政治課題に熟知しているわけではなく、政策課題を冷静に客観的に判断する基盤をもっていません。だから政治家や官僚、学者などの有識者が判断材料をしっかりと出す必要があります。その上で、「賛成派」「反対派」「中間派」に分かれ、わかりやすい政策論議を市民(国民)の前で展開する必要があります。この「プロ」の試合を見て、観客である市民(国民)はどちらを応援するか、実感をもって決められるようになります。
さらに、ほんとうに重要な課題については、市民(国民)が観客の立場を抜け出し、戦いのアリーナに立つ必要があります。その有効な手法が「討議型世論調査(DP)」があります。裁判員制度の世論調査版ともいうべきDPに市民(国民)の代表が参加することで、大阪都構想や安全保障のような大きなテーマへの当事者意識が出てきます。特に、自分の日々の生活に直結する自治体の身近なテーマはDPになじむとも言われます。
大阪らしさを
大阪の問題は消えたわけではありません。あらためて都構想で議論されてきたこと、あるいは本来議論されるべきだったことを俎上に載せ、DPなどを導入して住民参加型の政治議論を明るく活発に行うのが、「ほんまの大阪らしさ」につながると思います。そのことで、自治体改革の革新的事例として他都市に良い影響を与えることにもなるでしょう。
(文責:梅本龍夫)
- 「大阪都」反対多数 住民投票 橋下氏「政界引退」大阪市長、任期満了で
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150517-OYT1T50141.html - 宿泊所全焼5人死亡 川崎の2棟客ら19人重軽傷
http://www.yomiuri.co.jp/national/20150517-OYT1T50009.html - 江田・維新代表、辞任へ「サポート不十分だった」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150518-OYT1T50002.html
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
- 橋下氏、政界引退へ 住民投票 大阪都構想 反対多数 政権、改憲戦略に影響か
http://www.asahi.com/articles/ASH5K0377H5JPTIL01W.html - 簡易宿泊所全焼5人死亡 川崎 単身高齢者ら生活
http://www.asahi.com/articles/ASH5K122VH5JULBJ00S.html
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
- 大阪都構想 否定 橋下氏「政界引退」住民投票 市長任期後に
http://mainichi.jp/select/news/20150518k0000m040085000c.html - 簡易宿泊所全焼5人死亡 川崎・2棟 19人重軽傷
http://mainichi.jp/select/news/20150518k0000m040051000c.html - 埼玉知事4選出馬へ
http://mainichi.jp/select/news/20150518k0000m010110000c.html
(毎日jp http://mainichi.jp/)
- 大阪都構想を否定 橋下氏が政界引退表明
http://www.nikkei.com/article/DGXLASHC17H2Z_X10C15A5000000/ - 清水建設が物流施設運営 600億円 ネット通販拡大にらむ
http://www.nikkei.com/article/DGKKASDZ17H25_X10C15A5MM8000/ - 地方の景気感 大幅改善 地域経済500調査 賃上げ、7割が実地
http://www.nikkei.com/article/DGKKASFB14HAJ_X10C15A5MM8000/
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
- 大阪都構想「反対」橋下氏、政界引退を表明 住民投票 僅差で市存続
http://www.sankei.com/politics/news/150518/plt1505180012-n1.html - オリックス入札検討 GE日本事業 車両リースに照準
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150518-00000045-san-bus_all - 「数量」抑え歳出の質向上 日本の未来を考える 東京大・大学院教授 伊藤元重
(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/)
- 「大阪都」否定 住民投票1万票の僅差 橋下市長「政界引退」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015051802000114.html - 簡易宿泊所火災 4人死亡 川崎 2棟全焼、19人重軽傷
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015051802000117.html - 3万5000人「屈しない」辺野古反対 沖縄県民大会
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015051802000115.html
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
【本日の新聞1面トップ記事】アーカイブ