2015.04.15 wed

2015年4月15日【新聞解説】成熟と発展のための三権

2015年4月15日【新聞解説】成熟と発展のための三権


【リグミの解説】

福井地裁が関西電力高浜原発(福井県)3、4号機に対し稼働を認めない仮処分決定を出しました。新聞6紙すべてが社説を掲げています。原発に対する論調の違いで、読売、日経、産経と、朝日、毎日、東京で正反対の評価となっています。主な論点を比較します。
 
<読売新聞> 高浜差し止め 規制基準否定した不合理判断
・ 合理性を欠く決定と言わざるを得ない。樋口英明裁判長は新基準の考え方を否定し、「これに適合しても安全性は確保されていない」と断じた。ゼロリスクを求めた非現実的なものだ。
・ 福島第一原発の事故後、原発再稼働に関し10件の判決・決定が出たが、差し止めを認めたのは樋口裁判長が担当した2件しかない。偏った判断であり、事実に基づく公正性が欠かせない司法への信頼を損ないかねない。
・ 仮処分では、差し止めの効力が直ちに生じる。11月を目指している高浜原発の再稼働が大幅に遅れることが懸念される。関電は、決定に対する異議などを福井地裁に申し立てる。今後、決定が取り消されることを前提に、関電は、保守点検体制の強化などを着実に進めるべきだ。
 
<朝日新聞> 高浜原発差し止め―司法の警告に耳を傾けよ
・ 原発の再稼働を進める政府や電力会社への重い警告と受け止めるべきだ。国民に強く残る原発への不安を行政がすくい上げないとき、司法こそが住民の利益にしっかり目を向ける役割を果たす。そんな意図がよみとれる。
・ もちろん規制委も電力会社も、専門的な立場から決定内容に異論があるだろう。だが、普通の人が素朴に感じる疑問を背景に、技術的な検討も加えたうえで「再稼働すべきでない」という結論を示した司法判断の意味は大きい。裁判所の目線は終始、住民に寄り添っていて、説得力がある。
・ 政府や電力会社の判断を追認しがちだった裁判所は、「3・11」を境に変わりつつあるのではないか。安倍政権は「安全審査に合格した原発については再稼働を判断していく」と繰り返す。そんな言い方ではもう理解は得られない。司法による警告に、政権も耳を傾けるべきだ。
 
<毎日新聞> 高浜原発差し止め 司法が発した重い警告
・ 私たちは再生可能エネルギー拡大や省エネ推進、原発稼働40年ルールの順守で、できるだけ早く原発をゼロにすべきだと主張してきた。それを前提に最小限の再稼働は容認できるとの考え方に立っている。
・ それに対し、決定が立脚しているのは地震国・日本の事情をふまえると、原発の危険をゼロにするか、あらゆる再稼働を認めないことでしか住民の安全は守れないという考え方のようだ。
・ 原発再稼働の是非は国民生活や経済活動に大きな影響を与える。ゼロリスクを求めて一切の再稼働を認めないことは性急に過ぎるが、いくつもの問題を先送りしたまま、見切り発車で再稼働をすべきでないという警鐘は軽くない。
 
<日経新聞> 福井地裁の高浜原発差し止めは疑問多い
・ 今回の地裁決定には、疑問点が多い。ひとつが安全性について専門的な領域に踏み込み、独自に判断した点だ。決定は地震の揺れについて関電の想定は過小で、揺れから原発を守る設備も不十分とした。原発に絶対の安全を求め、そうでなければ運転を認めないという考え方は、現実的といえるのか。
・ 差し止め決定へのもうひとつの疑問は、原発の停止が経済や国民生活に及ぼす悪影響に目配りしているようにみえないことだ。国内の原発がすべて止まり、家庭や企業の電気料金は上がっている。原発ゼロが続けば、天然ガスなど化石燃料の輸入に頼らざるを得ず、日本のエネルギー安全保障を脅かす。だが決定はこうした点について判断しなかった。
・ 原発の再稼働をめぐり司法は何を判断すべきか。安全性、電力の安定供給、経済への影響などを含めて総合的に判断するのが司法の役割ではないか。上級審などではそれを踏まえた審理を求めたい。
 
<産経新聞> 高浜原発差し止め 「負の影響」計り知れない
・ 電力安定供給や地球温暖化防止に重大な負の影響をもたらす決定だ。仮処分によって原発の運転が禁止されるのは、今回が初めてで、奇矯感の濃厚な判断である。
・ 今回の決定では、原子力規制委員会の新しい安全基準について「合理性を欠く」と断じたが、あまりにも乱暴だ。そもそも現在の司法の体制で、高度に科学的、技術的な分野の判断に踏み込むことには無理があろう。知財高裁に相当する専門対応力を備えた「科学高裁」設立の検討が望まれるところである。
・ 電力会社と規制委などの取り組みで、原発事故のリスクは、ゼロではないが、最小化されている。司法は、その現実と努力を正しく認識すべきである。
 
<東京新聞> 国民を守る司法判断だ 高浜原発「差し止め」
・ なぜ差し迫った危険があるか。第一の理由は地震である。電力会社は、過去の統計から起こり得る最大の揺れの強さ、つまり基準地震動を想定し、それに耐え得る備えをすればいいと考えてきた。「平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」と地震学者の意見も引いている。国内に地震の空白地帯は存在せず、いつ、どこで、どんな大地震が発生するか分からない。だから基準地震動の考え方には疑問が混じると判じている。
・ 司法は次に、多重防護の考え方を覆す。原発は放射線が漏れないように五重の壁で守られているという。ところが、原子炉そのものの耐震性に疑念があれば、守りは「いきなり背水の陣」になってしまうというのである。
・ 福井地裁の決定は、普通の人が普通に感じる不安と願望をくみ取った、ごく普通の判断だ。だからこそ、意味がある。省エネと再生可能エネルギーの普及を加速させ、新たな暮らしと市場を拓いてほしい。原発のある不安となくなる不安が一度に解消された未来図を、私たちに示すべきである。
 
3つの問題
社説を読み比べてみて、今回の福井地裁の判決が大きな影響力を持つことを実感しました。問題は3つに整理できると思います。
 
第1が「どこまでのリスクを想定すべきか」ということ。背景には、科学的蓋然性を元にした客観的判断と、生活者の感覚に基づく主観的判断の視座の違いがあります。第2に「高度に科学的な判断に対して司法がどこまで踏み込むべきか」ということで、現在の司法に科学的知見を判断する高度専門能力はないとする批判です。第3が「リスク判断と便益判断のバランスをどう取るか」という問題です。電力料金、安全保障、地球温暖化などへのマイナスの影響をどう見るかということです。
 
どこまでリスクを想定するか
第1の問題については、ほんらい原子力規制委員会が中軸となって確立すべきものであり、そこが盤石であればそもそも司法の場での争いが起きる可能性は低いのではないでしょうか。仮に訴訟が起きても、今回のような判断が出されることはまずないと予測できます。福井地裁の判断の是非と並行して、このような司法判断が出る背景となる規制委の基準設定、審査プロセス、そして委員たちのメンタリティーについて分析をしていく必要がありそうです。地裁と規制委の双方の判断背景を、ぐっと深堀した分析と批評を聞きたいです。
 
司法の判断力とは
第2のポイントについては、産経の社説が指摘する「科学高裁」の設立は、傾聴に値します。最高裁は1992年に、原発の安全審査は「高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との判決を言い渡しました(参照:読売社説)。しかし、この最高裁判断は、事実上のギブアップではないでしょうか。科学的専門性はあるにこしたことはありませんが、科学者でもあらゆる領域の専門性を備えたはいません。プロフェッショナルの大前提は、自分の専門性(ここでは司法判断力)をベースに広範な領域の事象を「良識」で判断できる教養と、ことの是非を判別するしっかりとしたフレームワークを持つことです。最後は自分の存在をかけた胆力が試されるのだと思います。
 
バランスのとり方
そして第3の点ですが、実はこれが一番やっかいなのではないかと感じます。ここであらゆる要素がどっとまぎれこんできます。いわゆる「政治の介入」が起きるのも、まさにこの段階です。第1と第2のポイントでどれだけレベルの高い分析や検討をし、見識ある判断に到達しても、第3の視点が迫ってくる「現実」を目の前にすると、判断の純度は下がり、バランスという名の妥協を探ることになります。上述の最高裁判断には、こうした事情もあったのではないかと推察されます。
 
三権分立の基本
ここで私たちは、三権分立という民主主義の制度設計の意義に立ち戻ることになります。司法の在り方は、立法と行政との相互関係の中で決まります。三権は、互いを高め合う関係だというのが本質ではないでしょうか。福井地裁の問題提起を、司法の問題にとどめていては、私たちは自分たちの社会の在り方や民主主義を成熟させる道筋を見誤る気がします。三権の健全な緊張関係と生成発展をもたらすのが、国民が求めていくべき基本であると思います。
 

(文責:梅本龍夫)



  1. 高浜原発 再稼働認めず 仮処分 規制基準「不合理」福井地裁
    http://www.yomiuri.co.jp/national/20150414-OYT1T50067.html
  2. 滑走路外れ22人けが 広島空港 アシアナ機 着陸時
    http://www.yomiuri.co.jp/national/20150414-OYT1T50109.html
  3. 経産前支局長が帰国 韓国が出国許可
    http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150415-OYT1T50030.html?from=ytop_top

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 高浜再稼働認めず 即時差し止め 初の仮処分「新基準、合理性欠く」福井地裁
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11705410.html
  2. 着陸失敗 22人けが 広島、アシアナ機 地上設備接触か
    http://www.asahi.com/articles/ASH4G7HWQH4GPTIL04P.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 高浜再稼働 差し止め 福井地裁 仮処分「新基準、合理性欠く」
    http://mainichi.jp/select/news/20150415k0000m040091000c.html
  2. アシアナ機 滑走路逸脱 地上のアンテナに接触 広島空港
    http://mainichi.jp/select/news/20150415k0000m040106000c.html

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. イオン 投資6割増 スーパー改装に軸足 今年度1600億円
    http://www.nikkei.com/article/DGKKASDZ14HPO_U5A410C1MM8000/
  2. 高浜再稼働 差し止め 地裁仮処分 原発新基準を否定
    http://www.nikkei.com/article/DGKKZO85702800V10C15A4MM8000/
  3. 最期は我が家で 職種超え在宅支える 医出づる国「資源」を生かす
    http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG03HCF_U5A400C1SHA000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 前支局長 出国禁止解除、帰国 韓国政府、8カ月ぶり ソウル地検 延長要請せず
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150414-00000005-fsi-bus_all
  2. 高浜原発 再稼働認めず 福井地裁、仮処分 新基準を否定
    http://www.sankeibiz.jp/express/news/150415/exc1504151000001-n1.htm
  3. 他国軍支援は「国際平和法」与党協議を再開 政府提案
    http://www.sankei.com/politics/news/150414/plt1504140051-n1.html

(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/
 



  1. 高浜再稼働 認めず「緩い規制基準 合理性欠く」福井地裁 初の仮処分 3,4号機
    http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015041590070351.html
  2. 梁撤去の妥当性調査 山手線事故で運輸安全委
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015041502000117.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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