【リグミの解説】
天皇、皇后両陛下が西太平洋のパラオ共和国を訪問しています。太平洋戦争の激戦地で亡くなったすべての人々の慰霊のためです。朝日新聞と産経新聞が社説を掲げています。両紙の視点を比較します。
<朝日新聞> 天皇の慰霊―歴史見つめる機会に
・ 天皇の慰霊の旅が印象づけられたのは、戦後50年の95年の夏に、長崎、広島、沖縄、東京都慰霊堂を訪ねたときだ。戦後60年には、海外での初の慰霊の旅として米自治領サイパンを訪ねた。日本人が海に身を投げ集団自決した「バンザイクリフ」などに赴き、元日本兵が話す当時の様子に耳を傾けた。
・ 天皇陛下は今年の年頭の感想で「この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくこと」の大切さに触れている。風化しがちな戦争の歴史と向き合わねばならないという、強い思いが込められている。
<産経新聞> パラオご訪問 歴史知り鎮魂へ繋げたい
・ 陛下は出発にあたり、パラオなどでの激しい戦闘に触れ、「太平洋に浮かぶ美しい島々で、このような悲しい歴史があったことを、私どもは決して忘れてはならない」と述べられた。国民の約8割を戦後生まれが占めるなか、両陛下のご訪問を機会に、こうした歴史を初めて知った人も多いのではないか。
・ 天皇陛下は出発のおことばのなかで、厳しい戦禍の体験にかかわらず、パラオの人々が、戦後、慰霊碑の清掃や遺骨収集などに尽力してくれたことに心からの感謝の気持ちを表された。今回の陛下ご訪問では、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国の両大統領夫妻もパラオに来島し、ペリリュー島にも同行する。改めて、各国との絆を強める機会としたい。
天皇陛下の言葉
制度としての天皇は、政治に関与せず、中立な立場を保つことが大前提になっています。そのことで、日本国を象徴する存在となっています。しかしひとりの人間としての天皇陛下は、日本の過去、現在、未来に透徹した思いを持たれ、具体的に行動されているように見えます。高齢を押して訪問と滞在が容易でないパラオに赴くことに、陛下の強い意志を感じます。
天皇陛下は今年の新年にあたり、次のように語りました。
「本年は終戦から70年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々、広島、長崎の原爆、東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」
同時代から歴史へ
昭和史の研究を続けている作家の保坂正康氏は、戦後70年の今年は、「同時代史から歴史への転換」の時期となると指摘しています。戦争の記憶を大人として持つ人は90歳を超えるところまで来ました。同時代の記憶が失われるのも時間の問題だからです。その危機意識を天皇陛下もお持ちだからこその発言ではないでしょうか。
「歴史の不在」を埋める
「歴史認識」という言葉があります。最近の使われ方を見ると、特定の観点や価値観に偏った見方というニュアンスがあります。この言葉が適用される時期は、日露戦争以後(特に第一次世界大戦の始りごろ)から第二次世界大戦の敗戦で、だいたい1915年から1945年までの30年ほどになると思います。空白の30年で、あり「歴史の不在」です。
天皇陛下の言葉は、特定の歴史認識を超え、国民として広く「歴史の事実」を客観的に学び、それを起点に、それぞれが主体的に国のあり方を見つめてほしい、というメッセージであると思います。歴史家が「事実」を正確に掘り起し、まずはそれを「生のデータ」(解釈を加えない基礎資料)として提示し、そこから解釈の仕方を議論していくべきではないでしょうか。「パラオの日本統治」は、こうした活動を始める良いケーススタディーになると思います。
「歴史の不在」から「歴史の共有」に至る道のりは、平坦ではなく、長いプロセスになるかもしれません。しかし始めなければ何も生まれません。天皇陛下のパラオ訪問は、その貴重な第一歩を「日本国の象徴」として自ら刻まれたものなのではないでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
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