2015.03.27 fri

2015年3月27日【新聞解説】たかが言葉、されど言葉

2015年3月27日【新聞解説】たかが言葉、されど言葉


【リグミの解説】

安倍首相は、参院予算委員会で自衛隊を「わが軍」と呼び、波紋を広げています。朝日と毎日がこの問題を社説で取り上げています。特徴的な主張を比較します。
 
<朝日新聞>  「我が軍」発言―憲法軽視が目にあまる
・ 単なる呼び方の問題ではない。自衛隊の位置づけは憲法の根幹にかかわる。首相が国会で「我が軍」と言い、官房長官が修正もせずに首相をかばうのは、憲法の尊重・擁護義務を負う者としてふさわしい所作ではなかろう。憲法によって権力を縛る立憲主義の原理をないがしろにするものと言わざるをえない。
 
<毎日新聞> 「わが軍」発言 おざなりな認識は困る
・ 自衛隊と軍隊を明確に区別することを目的として、数々の配慮が積み重ねられてきた。その理由は、歴代の政権が自衛隊と憲法9条との強い緊張関係を自覚していたからにほかならない。国民が自衛隊に信頼を寄せるのは、軍隊とは異なる存在だからでもあろう。自衛隊と軍との区別がおざなりなままでは、安全保障法制の議論が粗雑になってしまう。
 
わが国とわが社
「わが軍」という表現と同類なのが、「わが国」や「わが社」です。「わが」(我が、吾が)は、英語で複数形の「Our」の意味もあり、単数形の「My」でもあります。日本人が英語で「わが社」を「My company」と表現すると、相手は会社の所有者(資本家)であると勘違いします。「Our Company」でも、違和感は残ります。会社と一体化しており、一般の従業員が社長のような物言いをしているように聞こえます。この表現では、雇用される立場であることがあいまいになります。
 
いっぽう、母国を「わが国」と表現することに、一定の留保をもった人たちが、あるときから「この国」という表現を使うようになりました。1986年に始まった司馬遼太郎の歴史エッセー「この国のかたち」から広まったという説を聞いたことがあります。エッセーの性質上、日本国を自分と切り離し、客観化することで見えてくるものがあるという趣旨であったと想像しますが、「この国」という少し突き放した物言いが、ある気分を表すようにもなったような気もします。
 
私自身は、日本人として、日本の国民として、自分が生まれる前の歴史を含め、国の成り立ちの当事者であると感じていますので、「この国」よりも「わが国」という表現の方を使う傾向があります。会社に関してはどうでしょうか。「わが社」と言われると、仲間意識を強要されるようで、少し窮屈でした。
 
もっとわかりやすい表現は「うちは・・・」でした。「うち=家」というニュアンスがあり、特に昔は大家族主義で個人の自由がないと感じる部分がありました。「うち=内」でもあります。ここは「内と外」を無意識に峻別する心理があります。仲間か、仲間でないか。「内」には気を使うが、「外」はぞんざいに扱っていい。そういう空気もありました。
 
自衛隊は軍隊か
さて「わが軍」です。自衛隊は、「Our=私たちの軍隊」(あるいはMy=安倍首相の軍隊)なのでしょうか。毎日の社説は、自衛隊が通常の軍隊と違うと具体的なポイントを挙げて指摘しています。少し長いですが、引用します:
・ 専守防衛を目的にした自衛隊は通常の軍隊とは異なる。専守防衛というのは、相手から攻撃を受けた時に初めて応戦でき、しかも必要最小限度の武力行使にとどめる考え方だ
・ このため、自衛隊は攻撃型の空母や攻撃用のミサイル、爆撃機などは保持できないとされている。また一般に駆逐艦と呼ばれる艦船を、自衛隊は護衛艦、攻撃機を支援戦闘機と言い換えてもいる
・ 自衛官の階級呼称が「大佐」や「中佐」ではなく、「1佐」「2佐」などと定められているのも、軍との違いを意識したものだ
・ 最も決定的な違いは、自衛隊には軍隊に不可欠な「軍法会議」が存在しないことだろう。自衛隊にも一般の国内法が適用される
 
自衛隊の前身の警察予備隊では、通常の警察と違い、装備として重火器をもちましたが、隊の性質上、戦車を「特車」と言い換えていました。より重要なのは、「専守防衛」という考え方の方でしょう。個人が護身用に短銃を一丁家の中に置いているようなものと言えばいいでしょうか。
 
「内」と「外」、そして中間
しかし家のすぐ近くまで騒乱が近づいており、もっと武器をふやして騒乱の首謀者たちをこらしめる必要がある。専守防衛だけではもはや現実対応できない。「内と外」を峻別し、「内」を強めて「外」を攻撃する必要がある。「わが軍」には、そのようなニュアンスがあります。
 
「自衛隊」が「日本国軍」になったら、何が変わるでしょうか。私は、遠い海外での戦闘行為や他国と交戦よりも、もっと身近で変化が起きると予想します。自衛隊は国民と一体の存在として、災害救助など国民の困難に対処する「国内救助隊」の様相を保持してきました。軍法に基づく国軍にとって「内」とは自分たち軍隊です。なぜなら「外」には敵軍(あるいは非正規武装勢力)がいるからです。戦闘員ではない国民は、実は「内」でもなく「外」でもない存在になる可能性があります。
 
有事における国軍の使命は、国民を守ることではなく、敵軍(あるいは非正規武装勢力)を攻撃し、勝利することです。有事には、国民も戦闘行為の支援に参加を強要されます。かつての徴兵制はそのもっともわかりやすい制度でした。空襲で都市住民は防火法に基づく「応急防火義務」を負い、逃げ遅れた人が多数いたという歴史も思い起こします。
 
平時において、静かに変化するものを理解するためには、言葉がもつ潜在的な意味を問い、「たかが言葉」が時にもちえる、大きな力を自覚する必要があると思います。
 

(文責:梅本龍夫)



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(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



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(毎日jp http://mainichi.jp/
 



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(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 副操縦士 故意に墜落 独旅客機 機長を閉め出す
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(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/
 



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(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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