【リグミの解説】
裁判員裁判による2件の死刑判決を高裁が無期懲役に減刑し、最高裁が高裁の判断を支持する決定を出しました。この件について本日の朝日、毎日、東京の3紙が社説を掲げています、特徴的な主張を比較します。
<朝日新聞> 裁判員と死刑 市民参加の責任と意義
・ 市民感覚を法廷に持ち込みさえすればいいという制度ではない。主眼は裁判員と裁判官が対等に話し合い、犯した罪に過不足ない刑を選びとっていくところにある。被告の前科や人格などを、裁判でどこまで考慮するかをめぐっては、ふつうの市民と法律家の間に意識差が生じがちだ。だからこそ、市民の参加に意味があるというべきだ。司法は誰かにゆだねるものではなく、国民全員が当事者だ。その認識をさらに深めたい。
<毎日新聞> 最高裁死刑破棄 議論深めるきっかけに
・ なぜ、死刑の判断に公平性が欠かせないのか。裁判所はより説得力のある説明が必要だ。その先には、なぜ死刑が必要なのかという問いもある。死刑を全廃した欧州連合は、日本に死刑の執行停止を求める。裁判員を重い判断に関わらせるならば、根本的な問いかけにも答えていく必要がある。だが、死刑問題の議論は低調だ。政府や国会も含めて向き合うべき課題だ。
<東京新聞> 死刑制度 国民的な議論を活発に
・ 「考え抜いた結論なのに」と戸惑う裁判員がいても、慎重の上に慎重を期した判断が求められる。それ以前に死刑制度そのものの理解は国民に深まっているのだろうか。国際的に二〇一三年末段階で、死刑廃止国は百四十あるのに対し、存置国は五十八にとどまる。三分の二以上は死刑廃止なのだ。一二年の国連総会では決議の中で「冤罪で死刑が執行されれば取り返しがつかない。犯罪抑止効果がある確実な証拠もない」と表明された。日本に対しても廃止に向けた勧告がしばしば出される。
ふたつの制度の問題
今回の3紙の社説には2つのテーマが混在しています。1つは裁判員制度の意味であり、もう1つは死刑制度の是非についてです。朝日は前者を肯定する立場で論評し、毎日と東京は、そもそも死刑制度は妥当なのかという問題提起に力点を置いています。
裁判員は、当たり前ですが、司法のプロではありません。個別の犯罪を大きな枠組みの中で判断することに慣れていません。他の判例との相対関係を客観的に位置づける発想もふつうは持ち合わせていないと思います。にもかかわらず、死刑判断までいきなりしなければならないのは、いささか無理があるのではないか。裁判員制度がスタートすることになったころ、素朴にもっていた懸念です。
きまじめな取り組み
実際に運用がはじまると、日本人のきまじめさが良い方向に働き、裁判員制度は当初心配したような混乱はあまりなく、国民が裁判官と対等な立場で個別判断に関与することの意義が上回っているように見えます。ただ、これはあくまでメディアに出る公式な情報に触れての印象でしかなく、裁判員経験者に守秘義務が課される関係もあり、5年以上の運用実績がいまひとつ把握できない部分もあります。
そうした中、あえて死刑判断まで「素人」が関与する以上、死刑制度の是非も並行して議論されるべきと感じるのですが、この点はあいかわらず低調です。死刑制度を是認する人々が8割を超える現実があるからでしょうか。
犯罪抑止、加害者更生、そして量刑判断
そもそも司法制度は何のためにあるのか、原点に戻って議論する場もあって良いと思います。犯罪の抑止と加害者の更生というポイントは、プロ裁判官や司法制度の専門家が慎重に積上げてきた実績がありますが、罪の重さをどう量り、その罪をどの程度の量刑で償うかという原点は、「素人」にはわかりにくくなっていました。これが裁判員制度を導入する大きな背景であったと思います。
ただ、私たち「素人」は、単純に「目には目を、歯には歯を」の報復ロジックを想定しがちではないかと感じます。それが正しいことなにかどうか、私たちは自分事として考える必要があります。そして冤罪の問題があります。もし死刑執行をして、実は無罪であった場合には取り返しがつきません。
司法制度以前の取り組み
こう考えると、裁判員制度という運用と並行して、国民参加の制度討論をはじめる必要があると感じます。この議論をほんとうにまじめにすると、きっと司法制度ではカバーできない社会問題の構造が浮上してくると思います。重犯罪の前に軽犯罪の積み重ねがあり、軽犯罪の前に加害者の社会環境などの問題があることがわかり、抑止と更生は犯罪現場のはるか以前から始まるべきことが見えてくるとすれば、それは意義のあることではないでしょうか。大病した人を緊急手術で救命するだけでなく、体質改善の取り組みなど未病段階から健康に気をつければ、大病せずに済む可能性が大きいのと似ています。
裁判制度という最後の砦と、犯罪になるはるか以前の社会環境問題(あるいは個々人の問題)の両方をつなぐ活動ができれば、それは大病と健康診断のような関係になれるかもしれません。今、世界中を苦しめるテロの問題も、背景に貧困や差別があるといわれます。根本を是正しない限り、真の問題解決がないことを私たちは深い痛みを伴って理解しつつあります。頻発する犯罪について、司法判断で適切に処置することと並行する発想が必要と感じる所以です。
(文責:梅本龍夫)
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