【リグミの解説】
反テロ行進
フランスの週刊紙「シャルリーエブド」へのテロ事件に抗議し、犠牲者を追悼するパリ中心部の反テロ行進に200万人（推計）が集まり、フランス全土ではその数は約370万人に達したそうです。フランスだけでなく、ロンドンやニューヨーク、エルサレムなど世界各地に広がり、東京でも追悼集会が開かれました（以上、毎日新聞社説を参照）。毎日、日経、産経の3紙が昨日（1/14）の社説でこのデモ行動を取り上げていました。要旨を比較します。
＜毎日新聞＞ パリ２００万人行進 暴力許さぬ連帯示した
・ いかなる理由であれ、暴力を許すことはできない。その強いメッセージが全世界に連帯の輪を広げた。パリの行進では、オランド仏大統領やメルケル独首相、キャメロン英首相ら５０カ国以上の首脳が先頭に立って連帯をアピールした。参加しなかったオバマ米大統領の報道官が、政府高官を派遣しなかったことは失敗だったと認めたほどの歴史的な出来事だったといえる。
・ 一方、「表現の自由」か「宗教への冒とく」かという論争は今後も続くだろう。さらに、今回の反テロ行進の精神を、どうやって具体的なテロ撲滅対策に結びつけていくのかという重い課題がある。取り締まり強化は無論だが、欧州社会でのイスラム系移民の疎外感を放置していては新たなテロ予備軍の発生を止めることはできない。
＜日経新聞＞ 仏連続テロを教訓に連携と連帯深めよ
・ 表現の自由を脅かすテロは決して許さない。事件の背景はわからないことが多い。まずは全容の解明を急いでほしい。欧州に広がるテロのネットワークを徹底的にあぶり出さねばならない。過激派の動きを一国で封じることはできない。国際社会は連携を深めなければならない。
・ 懸念されるのは、今回の連続テロにより、欧州各国でイスラム教徒への反感や移民排斥の動きが強まることだ。フランスでは反移民を掲げる極右政党「国民戦線」が勢力を伸ばし、ドイツでも反イスラムを訴えるグループがデモを繰り返している。テロを許さない決意と同時に、多様な文化や宗教の共存への意思も示したといえるだろう。
＜産経新聞＞ 仏３７０万人デモ 連帯をテロ根絶に生かせ
・ 戦後最大規模の３７０万人が参加した。パリの行進では、オランド大統領をはじめ英国やドイツなど約５０カ国首脳らも手を携えた。テロに屈せず表現の自由を守るという強い連帯の意思表明として評価したい。これを、テロ阻止を目指す国際社会の連携強化へとつなげなければならない。
・ 仏政府に求められるのはテロの温床を断つ努力だ。兄弟のような北アフリカ系を主とするイスラム教徒は、仏人口の約８％を占め、「郊外」と呼ばれる貧困地区に集中し教育や就職などで差別感、疎外感を抱く。過激思想に染まりやすい素地がそこにある。彼らを孤立させず社会に吸収していく施策が必要だ。
越えてはならない一線
言語道断の行為に対し、370万人が抗議の声を上げました。それはフランス国民6000万人の大半の人々の思いを代弁するものであった思いますし、さらに言えば、全世界70億人の多くが共鳴することであったでしょう。
越えてはならない一線を越えれば、人間は歯止めの効かない存在に堕してしまいます。テロの恐ろしさは実にそこにあります。気に入らない相手をルール無用で抹殺すれば、問題はなくなりすっきりする。それだけでなく、預言者の名誉は回復され、自分たちは天国に行ける。もしテロリストたちが本気でこのように信じているとしたら、事態はまことに深刻です。
ふたつのエネルギー
私たち人間はふたつのエネルギーに衝き動かされています。ひとつは不安と恐怖であり、もうひとつは希望と愛です。このふたつは、まったく正反対に見えて、実は鏡で互いを映しあっています。不安も希望も未来に対する見立てです。未だわからないことをどう受け止めるか、人間の心はマイナスに振れ、プラスに転じます。恐怖は、自分の存在の根本が脅かされ、奈落の底に突き落とされる感覚です。愛は、自分の存在が根源的に受け入れられ、無限の高みへと引き上げられる感覚です。
人は自分が受けているエネルギーを相手に投影します。もしテロリストに希望と愛があったなら、彼らはどういう行動を選択したでしょうか。唯一の希望が他者を抹殺することで昇天することだとすれば、それはあまりに気の毒なことです。テロリストに同情の余地はありません。ありませんが、テロを断罪するだけでは問題は解決しないでしょう。
小さな決断の積み重ね
デモに参加した370万人が、フランス国民6000万人が、そして全人類70億人が第一に選択すべきことは何か。それは、だれひとりとして、「自分の存在の根本が脅かされ、奈落の底に突き落とされる」ような状況にさせないということではないでしょうか。
これが空想的な主張であることは自覚しています。しかし、私たち一人ひとりに2つの武器が与えられている自覚はあって良いと思います。相手に恐怖を与えるか、それとも愛を与えるか。不安と希望を往来する日々の中で、私たちはすべての瞬間に、小さな決断を積み重ねています。
（文責：梅本龍夫）
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