【リグミの解説】
本日は、新聞6紙の社説の出だし数行とエンディングだけを引用し、何を主張しているかを比較します。論点を補強する事実や個別具体の指摘を抜いて、どういう印象を持つか見てみます。
<読売新聞> 社会保障改革 少子化の克服へ総力で挑もう
・ 少子化が、日本の将来を揺るがしている。社会保障制度の安定を脅かすだけでなく、経済・社会の活力も低下させる。
・ 超高齢社会において社会保障制度を維持していくには、給付の抑制や、経済力のある高齢者の負担増など、「痛み」を伴う改革が不可避である。政治の強い指導力が求められる。
<朝日新聞> 大阪都構想―住民投票にはまだ早い
・ 大阪市を5特別区に分け、広域行政は大阪府に一本化する大阪都構想が息を吹き返した。
・ 統一選で府・市議会は改選される。都構想への有権者の賛否はさらにはっきりするだろう。住民投票にかけるか否かは、新議会でじっくり議論してからにしてはどうか。それで住民の関心が高まるなら、遠回りではないはずだ。
<毎日新聞> 戦後70年 言論のゆくえ 勝ち負けの議論越えて
・ 戦後日本を広く覆っていたのは、二度と戦争はごめんだという共通の感情だった。
・ ジャーナリズムの役割は権力監視にある。同時に異論に対する寛容さと責任を伴う。相手を論破し沈黙させるだけの言論は慎もう。勝ち負けにこだわる議論を乗り越えたい。
<日経新聞> よい社会へビジネスの知恵生かせ 民が拓くニッポン
・ 高齢化や貧困、災害、病気など世の中には多くの問題があり、そのために支援を必要としている人たちも多い。
・ すべて行政頼みでは限界が明らかだ。よりよい社会をつくっていくため、民の力を活用したい。
<産経新聞> 電源の構成 エネルギー強靱化の年に 次世代原発の開発も急ぎたい
・ 平成27年は国内のエネルギー問題が一段と重みを増す年になる。原子力発電と正面から向き合う1年となるのは間違いない。
・ 世界の関心が、日本が首位に立つ高温ガス炉に向きつつある。若手研究者の育成にも次世代炉の開発は有用だ。今年を日本のエネルギー強靱化の元年としたい。
<東京新聞> 年のはじめに考える 「普段の努力」で守る
・ 安倍晋三首相の悲願は憲法改正です。衆院では与党が三分の二超の勢力を確保しました。戦後日本の軌道を変えるのか、まさに正念場になります。
・ 自由と権利を憲法は「国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と記します。「人権を守るには『不断の努力』と『普段の努力』が必要ですねん。そうせえへんかったら、あっさり人権なんか奪われていくことを自覚せなあきまへんな」憲法の危機には「普段の努力」が欠かせません。
社説の前提
このように入口と出口だけ見ると、社説の拠って立つ「前提」が浮上してきます。それが正しいか、あるいは妥当かは、具体的な事実や論点に入り込んで検証する必要がありますが、読者はえてして、この「前提」に無意識的に反応します。私の主観をとらえた部分を表記すると、以下のようになります:
読売:「経済的余裕のある層に社会的費用の負担をより多く求めよ」
朝日:「大阪都構想はまだ機が熟していない」
毎日:「二度と戦争はごめんだ、という共通感情が日本社会から失われつつある」
日経:「社会問題の解決のカギを握るのは民間企業やNPOだ」
産経:「原発は再稼働だけでなく積極的に開発すべきだ」
東京:「憲法の危機を回避しなければならない」
日本社会の主要テーマ
どの前提に共感するか、あるいは違和感をもつか。無条件に容認するか、あるいは反論したいと思うか。それは人によって違うと思います。ただ、ここには今の日本社会の主要なテーマと、そもそもなぜそれがテーマなのかを考えるヒントがあります。
読売と、社会保障という日本社会の安定化装置が機能しなくなり、同時に、経済的格差が広がっている問題を誰が解決するのかという問題です。読売は政府に期待し、日経は民活を主張しています。朝日は、東京一極集中問題と地方分権のあり方について考えさせます。毎日には、社会を動かしているのは、論理や政治的主張よりも、共有された感情だという示唆は、世論形成や「空気」というものを考える上で避けて通れない指摘です。東京新聞は毎日の主張のうち、視点を憲法に絞り、共有されてきた理念の価値を忘れるなと主張しています。そして産経は、国福島第1原発事故によって生じた国民の感情がいまだ揺れつづけ、原発推進派も踏み込めずにいる新テクノロジーの積極開発を主張しています。
新聞の使命
新聞の役割、特に社説の使命は、共通の感情やムード的なものの背後にある事実を掘り起し、読者が「空気」に流されず、自ら考える道筋を与えることにあると思います。多様な視点や価値観を受け止め、世界をより俯瞰できるようにする手助けも、社説の機能であるべきです。
各紙が社説でどのようなテーマを取り上げるかは、社会を映す鏡です。個人的には毎日の社説にある「勝ち負けにこだわる議論を乗り越えたい」に共感しつつ、それが議論を避けることになるのでなく、対話的アプローチで一緒に問題解決するプロセスとなることまで考えてほしいと思いました。「いろいろな意見があるよね」で終わらせず、「ウィン・ウィン」のソリューションをどう見つけていくか。ジャーナリズムはそのための客観的材料を出す媒体であってほしいと思います。その意味で産経が取り上げた「高温ガス炉」は、個人的には知らなかったので、新鮮な情報でした。
ファクトを積上げ、ロジックを構築し、そこに感情の神経を行き渡らせる。人間にほんらい備わる知情意を総動員すれば、変化が生まれるのではないか。そう期待して新聞を読み返してみたいと思います(各社説のファクトや論点の確認は、引用サイトをご参照ください)。
(文責:梅本龍夫)
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http://www.yomiuri.co.jp/economy/20150106-OYT1T50118.html
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
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http://www.asahi.com/articles/DA3S11538163.html
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
- 来年度予算案 普天間移設 倍増1500億円 沖縄復興は減額も
http://mainichi.jp/select/news/20150107k0000m010141000c.html - 燃料電池車特許 無償提供 トヨタ流で主導権
http://mainichi.jp/select/news/20150107k0000m020096000c.html - 霧の中の越冬 北海道
http://mainichi.jp/shimen/news/m20150107ddm001040155000c.html
(毎日jp http://mainichi.jp/)
- 原油急落でリスク敬遠 日経平均525円安 長期金利一時0.280%
http://www.nikkei.com/article/DGKKASGD06H8P_W5A100C1MM8000/ - コンビニ出店、5年ぶり減 大手5社、15年度計画 セブンは最多に
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ06HV7_W5A100C1MM8000/ - 人の仕事のトモダチだよ 働きかたNext
http://www.nikkei.com/article/DGKKASM105H0J_W5A100C1MM8000/
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
- 集団的自衛権 武力攻撃事態法 軸に 安保法制政府方針 恒久法は明示せず
http://www.sankei.com/politics/news/150107/plt1501070007-n1.html - TDK 部品生産の3割移管検討 脱中国、国内回帰が鮮明
http://www.sankei.com/economy/news/150107/ecn1501070007-n1.html - 「南太平洋へ」ようやく実現 天皇の島から 戦後70年・序章
http://www.sankei.com/world/news/150107/wor1501070004-n1.html
(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/)
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015010702000137.html
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
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