【リグミの解説】
麻生氏の発言
麻生太郎・自民党副総裁の選挙応援での発言が物議を醸しています。発言のひとつは、「高齢者が悪いようなイメージを作っている人がいっぱいいるが、子どもを産まない方が問題だ」。もうひとつは、「企業は大量の利益を出している。出していないのは、よほど運が悪いか、経営者に能力がないかだ」というものです。朝日と毎日が社説で麻生氏を批判をしています。特徴的な視点を比較します。
<朝日新聞> 麻生氏の発言―問われているのは誰か
・ 子どもを産まないのが問題ではない。現役世代が子どもを産めない環境こそ問題なのだ。厳しい現実を見据えて、実現可能な将来像を示し、処方箋(しょほうせん)を示していく。それが政治家の役割なのに、個人に責任を転嫁するかのような発言は筋違いだ。選挙戦で問われているのは、政治家の方である。
・ 政権が「アベノミクス」で円安を生み、そのメリットがあるのも確かだろう。一方で激しい副作用に苦しむ企業がある。それをとらえて「運が悪い」「経営者に能力がない」と切り捨てる感覚に言葉を失う。
<毎日新聞> 麻生発言 出産しやすい社会こそ
・ 歴代の自民党政権の無策がもたらした少子化でもあり、長らく政権の要職にあった麻生氏にまったく責任がないとは言えまい。現在は副総理でもある。安易に世代間対立をあおるような言説を責任ある政治家はすべきではない。
・ 円安による原材料費の高騰などで倒産する企業は急増し、前年比3倍近くに上る。人手不足も地方の中小企業を苦しめている。自民圧勝の選挙情勢が流れる中で、少しばかりタガが緩んではいないだろうか。
自助、共助、公助
時代の言葉に「自助、共助、公助」があります。自分のことは自分で責任をもって行う「自助」、互いに助け合い支え合う「共助」、政治(行政)が支援の基盤を提供する「公助」。日本は比較的「公助」が充実していた国ですが、バブル崩壊後の長期経済低迷期に「自助の国」米国の経営手法を多くの企業が導入したことと、財政が急速に悪化し「公助」の財務基盤が崩れたことが重なり、ぐっと「自助」の比重が高まりました。「自己責任」ということが声高に叫ばれるようになったのは、偶然ではありませんでした。
日本が参照しつづけた米国は、オバマ大統領が推進する医療保険制度改革(オバマケア)に見られるように、「公助」を強化しようとすると、自助の価値観を冒されたと感じる人々から猛烈な反対運動が起きます。しかし、たとえばスターバックスのような企業では、アルバイトを含むすべての従業員に健康保険を付与し、安心して働ける環境を用意するなど、「準公助」ともいうべき発想は健在です。
共助が機能する国、機能しない国
さらに見逃せないのは、「自助の国」の米国は、実は「共助の国」でもあることです。キリスト教の宗教観が教会を中心にコミュニティーレベルでの共助の場となり、生活困窮者などを支援してきました。また、自己責任で挑戦した新しいビジネスなどが失敗しても、周囲はチャレンジャー精神を称え、次のチャレンジができるように働き口を用意し合います。いっぽうの日本は、一度失敗すると個人保証の負担や信用の失墜などにより、再起不能になる人も少なくありません。「共助」が機能していないという隠れた問題が日本にはあります。
先日、友人たちと晩飯を食べながら「ソーシャルビジネス」について語り合う機会がありました。そこで話題になったのが、バングラディシュでマイクロファイナンスの手法を開発し、貧困からの脱出を支援するソーシャルビジネスを成功させているグラミン銀行でした。創設者のムハマド・ユヌス氏はノーベル平和賞を受賞し、つぎは経済学賞のダブル受賞の可能性もあると期待されています。このマイクロファイナンスの手法を日本に導入しようとがんばっている人々がいるのですが、これがなかなかうまくいかないのだそうです。
理由はいろいろとありますが、大きな背景の違いに「共助」の有無があります。バングラディシュでは、マイクロファイナンスを受けて成功せず弁済できなかった人がいると、周囲の人々がちょっとずつ支援をしてなんとか返済できるようにするコミュニティーの「共助」があるそうです。それが日本では「自己責任」観念によって期待できないため、ファイナンスの基盤が維持しにくいとのこと。
自助、共助、公助を通底するもの
麻生氏が発言した「子どもを産む」ことも「企業が利益を出す」ことも、基本は「自助」の活動ではあります。同時に効果的な「公助」の基盤が必要なことも論を待ちません。しかし私たちが今一番問題意識をもつべきは、ひょっとすると「共助」の絆が途切れてしまっていることなのかもしれません。
阪神淡路大震災をきっかけにボランティア活動が草の根で広がり、それは東日本大震災でも大きな役割を果たしました。日本も変わりつつあります。しかし米国の教会活動のような伝統は、日本では消滅してしまいました。これをどうやって再構築するか。「共助」が社会の「ふつう」になるために、どんなことを考え実行していったら良いのか。
麻生氏の不用意で不適切な発言を契機に、衆院選挙の大きな背景にある「価値観」の問題を考えるのは、決して無駄なことではないと思います。「自助、共助、公助」は、ひとつながりのテーマです。通底するのは、私たちが日本をどのような社会にしたいかという「価値観の選択」です。
(文責:梅本龍夫)
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