【リグミの解説】
沖縄知事選
東京の永田町では衆院解散・総選挙に向けた突風が吹き荒れる中、沖縄で知事選が行われました。米軍普天間基地の移設計画の賛否が最大の争点となり、計画に反対し、基地の国外や県外への移設を訴えた、前の那覇市長で自民党沖縄県連の幹事長でもあった翁長雄志氏が、現職の仲井真弘多氏を大差で破り、初当選しました。
新聞6紙が沖縄知事選についてそろって社説を掲げています。読売と産経が政府方針の辺野古移設を予定通り推進することを主張、朝日、毎日、東京は移設の見直しを訴え、日経は政府と沖縄県がよく話し合うことを示唆しています。各社説の特徴的な主張を比較します。
<読売新聞> 沖縄県知事選 辺野古移設を停滞させるな
・ 移設予定地は市街地から遠く、騒音や事故の危険性が現状に比べて格段に小さい。沖縄全体の基地負担を大幅に軽減しつつ、米軍の抑止力も維持するうえで、最も現実的な方法なのは間違いない。
・ 翁長氏は長年、辺野古移設を容認していたが、民主党の鳩山政権下で反対に転じ、県外移設を主張している。今回、「新辺野古基地は絶対に造らせない」と訴えながら、具体的な代替案を示さなかったのは責任ある態度ではない。
<朝日新聞> 沖縄県知事選―辺野古移設は白紙に戻せ
・ 「これ以上の基地負担には耐えられない」という県民の声が翁長氏を押し上げた。最大の争点は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設の是非だった。1月の名護市長選、9月の同市議選に続き、知事選も移設反対派が制したことで、地元の民意は定まったと言える。「沖縄に寄り添う」と繰り返してきた安倍政権である。辺野古への移設計画は白紙に戻すしかない。
・ 「基地は県民が認めてできたわけではない。今回、辺野古移設を受け入れれば、初めて自ら基地建設を認めることになる。それでいいのか」。県内にはそんな問題意識が渦巻く。それは「本土」への抜きがたい不信であるとともに、「自己決定権」の問題でもある。
<毎日新聞> 辺野古移設に審判 白紙に戻して再交渉を
・ 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する地元の民意はもう後戻りしないだろう。辺野古移設を最大の争点にした選挙でこれだけ明確な民意が示された以上、政府が移設を推進することは、政治的にも道義的にも不可能だろう。政府は移設計画を白紙に戻し、米政府と再交渉すべきだ。
・ 翁長氏は沖縄保守政界の重鎮だ。翁長氏の勝利は、過去の知事選に比べてもとりわけ重い意味を持つ。沖縄の知事選で初めて保革対決が崩れ、翁長氏が「沖縄対本土」という対立構図を強調する中で勝利したからだ。
<日経新聞> いまこそ政府と沖縄は話し合うときだ
・ 今回の知事選では、沖縄が返還された1972年から続いてきた基地容認の保守と基地反対の革新がぶつかる構図が初めて崩れた。背景にあるのは県民意識の変化だ。地元紙の世論調査などによると、県内移設への反対は自民党支持層でも半数を超えており、それが保守分裂を招いた。
・ 反基地に賛同する県民のすべてが日米安保体制を否定しているのではない。米軍機の騒音や米兵による事件・事故など身近な不満がなかなか解消されないことで「沖縄は軽んじられている」と感情的に反発している面がある。ボタンの掛け違いを直すには、安倍政権がこれらの課題に真正面から向き合っているかを目に見える形で示さねばならない。
<産経新聞> 沖縄県知事選 政府は粛々と移設前進を
・ 日米合意に基づく普天間移設は、抑止力維持の観点から不可欠であり、見直すことはできない。政府は移設工事を粛々と進めなければならない。改めて認識すべきは、日本の安全保障に関わる基地移設の行方を決定する権能は、知事にはないという点である。
・ 沖縄には「沖縄」と「日本」とを、ことさら対立的にとらえる主張も一部にあるが、こうした風潮に乗るべきではない。不安定さをもたらし、中国につけ込む隙を与えることは避けるべきだ。
<東京新聞> 新基地拒否の重い選択 沖縄県知事に翁長氏
・ 日米安全保障条約上、米軍への基地提供は日本政府の義務だとしても、一地域に過重に負担を押し付けるのはやはり不平等である。普天間返還のためとはいえ、米軍基地をこれ以上、沖縄県内に造るのはやめてほしい、というのは県民の素直な思いと理解する。
・ 立してきた革新陣営と「県内移設拒否」で結束し、支持を集めた背景にある沖縄保守勢力の「政治的目覚め」を、安倍内閣と仲井真陣営は完全に読み違えた。在日米軍基地の適正な規模や配置、沖縄県民の負担軽減は引き続き、すべての日本国民が考えるべき課題である。決して過去の問題などではない。
米軍への経済依存度の低下
沖縄で起きていることについて、私を含むいわゆる「本土の人々」は、あまりに鈍感なのではないか。今回の沖縄県知事選の結果についての素朴な感想です。衆院解散・総選挙の騒動に隠されるようにして、沖縄知事選が行われたのは、象徴的です。
沖縄は基地に依存した経済だという私たちの思い込みも、冷静に判断する必要があります。「1972年の本土復帰時に15%を超えていた県民総所得における米軍基地関係収入の割合は年々減少し、今や5%台にすぎない。もはや『基地依存経済』は死語だ」と東京新聞は主張しています。5%は決して低い数値ではありませんが、基地依存度が40年余かけて3分の1に減った事実は注目すべきです。
政治と経済は不可分です。経済という基盤があって、政治や社会などの構造物が安定するという構図は常にあります。沖縄にとって、米軍基地の意味が徐々に変化し、基地を容認してきた保守勢力も基地がもつ「政治・社会」の意味に目を向けるようになった、というのが今回の知事選の姿なのかもしれません。
「イデオロギーの物語」から「アイデンティティーの物語」へ
沖縄は変容しつつあります。「基地をはさんで左右や保革に分かれたり、基地か経済かの二者択一を迫ったりするのは、旧態依然の古い発想だ。基地問題はもうイデオロギーではない。沖縄のアイデンティティーの問題であり、沖縄の将来は自分たちの手で決める」と、沖縄の保守政治を支えてきた翁長氏は主張し、勝利しました(引用部分:毎日)。
翁長氏が言う「イデオロギーではなく、アイデンティティーの問題」とは、どういうことでしょうか。イデオロギーとは、わかりやすくいえば、「政治信条を基盤とした物語」です。これに対して、アイデンティティーとは、「社会(コミュニティー、仕事など)を基盤とした物語」です。政治的な価値観は対立しても、同じ土地で共同体を形成し、共に仕事をし、生活をする仲間の物語が「アイデンティティー」です。それは、「イデオロギー」よりも「小さい物語」です。その分、わかりやすく実感があり、生活に根差しています。
アイデンティティーという「パンドラの箱」
「イデオロギーの物語」から、「アイデンティティーの物語」への変容。それはどのような筋書の物語なのでしょうか。地元の有力紙、琉球新報は、沖縄知事選の結果を次のように表現しています。「仲井真知事の辺野古移設工事埋め立て承認で、沖縄の尊厳と誇りを傷つけられたと感じた県民は少なくない。保守分裂選挙となったことがそれを物語っている。失われかけた尊厳を県民自らの意志で取り戻した選択は歴史的にも大きな意義を持つ。」
政治的信条を強調し実現しようとする「イデオロギーの物語」に対し、「アイデンティティーの物語」は、生きるに値する生活を大事にします。琉球新報が主張する「尊厳と誇り」です。アイデンティティーへの目覚めは、ある意味、「パンドラの箱」です。沖縄で起きていることは、明日の日本全体の姿ではないか。そういう問題意識で今回の沖縄知事選を見つめる必要があると思います。
(文責:梅本龍夫)
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http://www.yomiuri.co.jp/politics/20141116-OYT1T50090.html - 沖縄知事に翁長氏 辺野古反対 容認の仲井真氏破る
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- 辺野古反対の翁長氏当選 沖縄知事選 仲井真氏3選阻む 政権、移設推進の姿勢
http://www.asahi.com/articles/DA3S11459697.html - 日米豪、海洋安保で協力 3首脳会談 合同軍事演習も
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- 沖縄知事に辺野古反対派 自民系現職に大差 翁長氏初当選 移設計画に影響
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- 炭素繊維1兆円受注 東レ、ボーイングから
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- 沖縄知事に辺野古反対派 翁長氏当選 工期遅れ懸念
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(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/)
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014111702000129.html
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
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