2014.11.14 fri

2014年11月14日【新聞解説】カエルとタコの政治

2014年11月14日【新聞解説】カエルとタコの政治


【リグミの解説】

消費増税延期判断
安倍首相は、来年10月に予定されている消費税率10%への増税を、1年半遅らせて2017年4月まで延期する方針だと伝えられています。日経は本日の1面トップ記事に掲載しています。消費増税延期判断の是非について、読売は「是」、毎日が「非」の社説を掲げています。主な論点を比較します。
 
<読売新聞> 消費再増税 10%先送りも選択肢の一つだ
  • 財政再建は急務だが、景気を腰折れさせては元も子もない。国民の多くは、未いまだ景気回復を実感できていない。性急な増税によって景気が失速すれば、税収の減少を招き、かえって財政再建が遠のく恐れがある。
  • 再増税を先送りする場合は、財政への信認が揺るがぬよう、政府は増税時期を明示し、財政再建計画を練り直さねばなるまい。社会保障費も例外とせず、歳出改革を徹底することが求められよう。再増税するのなら、有効な消費刺激策が不可欠だ。恩恵が恒久的に消費者へ及ぶよう、欧州各国の例にならって、食料品や新聞・書籍に軽減税率を適用すべきである。
 
<毎日新聞> 増税先送り論 努力も議論も尽くさず
  • 増税を先送りするほど経済状況が深刻なのか。仮にそうだとすれば、安倍政権が取り組んできた経済政策に問題はないのか。それは国会でまず議論すべきだ。力を尽くさず、議論もなおざりにして解散に打って出るとすれば、その姿勢は安易すぎる。
  • 長期的に影響を及ぼす増税先送りの判断を、17日に発表される7?9月期の国内総生産(GDP)の速報値といった、ごく短期間の動きを重視して決めるというのも疑問だ。そもそも経済的な弱者に配慮する政策を怠ったことが、景気の停滞を招いたのではないか。食品など生活必需品への軽減税率を8%時に導入していれば、消費の落ち込みは抑えられたはずだ。
 
増税の目的と景気
増税を議論するとき、何のための増税かという「目的」と、増税が本当に税収増につながるのかという「景気」の判断は、常に綱引き状態になります。増税の決議(法律)に「景気条項」を入れれば、今回のような事態が起きることは、十分想定されたはずです。なぜなら、「景気」の判断の前提になるのは、「実体経済」ではなく、「消費者心理」だからです。
 
そもそも今回の増税判断(5%から10%へ)は、「増え続ける社会保障費と、財政の危機的状況に正面から取り組み、将来世代への負担のツケ回しをやめ、国民に痛みを求める責任を主要政党が分担する」ために、与党だった民主党と、主要野党の自民党・公明党が合意したものでした(引用:毎日社説)。増税の「目的」は理性的な判断に基づくものでした。
 
いっぽう「景気条項」は、あくまでも緊急事態が起きた時の避難措置として設けられたものでした。3党合意の理性的な判断は、そのようなものであったはずです。しかし実際に第1段階の8%への増税をしてみると、「消費者心理」は予想以上に冷え込みました。「今年4月に消費税率を8%に引き上げた後、家計の消費支出は6か月連続で減少している」と読売の社説は憂慮しています。
 
理性的判断と非理性的判断
ではそれは、これ以上の増税(8%から10%へ)によって景気回復が腰折れするほどのものなのか。危機的な財政状況をさらに先送りすることのリスクと天秤にかけて「理性的に判断」されたものなのか。政府もまた、「消費者心理」という「非理性的な判断」に取り込まれてしまったように見えます。
 
誤解を生む言い方かもしれません。私は、「消費者心理」が間違っているとか、「非理性的判断」にとらわれてはいけない、と主張したいのではありません。人間は理性よりも感情が勝っていますし、意識していることよりも、無意識に判断していることの方が多いのが実態だと思います。だからこそ、リーダーシップを発揮すべき立場にいる人は、理性と感情の両方を融合させ、意識と無意識を往来し、大局的な判断を下す必要があります。
 
学習しない政治
カギを握るのは、組織学習の大家ピーター・センゲが提唱する「システム思考」にあると思います。「システム思考」とは、ものごとを一連の要素のつながりとして捉える思考法であり、システム(政治・経済・社会の環境全体)で起きていることを正確に把握する能力(現象と原因)と、これからシステムに起きることを客観的に予見できる能力(何が、どのように)を指します。要するに「森と木」の両方を見つめ、「過去・現在・未来」を見通す思考力です。
 
「システム思考」を欠くと、センゲ氏が指摘する「学習しない組織」の3つの症状が生じます。物事を先送りして危機的状況に陥る「ゆでガエル」、自分のことだけを優先し、互いに連動しない「タコツボ」、そして熟慮せず過去の成功体験を繰り返す「安易な行動主義」。私には、今回の消費増税見送り判断と、衆院解散・総選挙の動きは、「学習しない政治」の典型に見えます。
 
「システム思考」の発揮
痛みを伴わない治療はありません。消費増税は、10%で済むものではありません。日本の財政を消費税で再建しようと思えば、倍の20%前後までは上げていく必要があると、多くの識者は指摘しています。治療が痛いからと歯医者を避けていれば、虫歯や歯槽膿漏は着実に進行します。
 
もちろん、増税という痛みを伴わない財政の治療方法があるなら、それを検討し実行すべきです。しかし今あるのは、そのような「政策判断」ではなく、どうすれば政権を維持できるかという「政局判断」に過ぎないように見えます。
 
「ゆでガエル」「タコツボ」「安易な行動主義」はすべて、非理性的な判断です。しかし、それが人間というものです。これは避けがたい私たちの心理でもあります。だからこそ、そのことを深く理解する「システム思考」という理性的判断を同時に発揮すべきなのではないでしょうか。財政再建のビッグピクチャーを公約に掲げられる政党が、ひとつでも現われることを願います。

(文責:梅本龍夫)



  1. 腹腔鏡手術後8人死亡 高難度の肝切除 同一医師が執刀 群馬大病院
    http://www.yomiuri.co.jp/national/20141114-OYT1T50002.html
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    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141113-00050147-yom-pol

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 消費増税先送り論、波紋 与党税制協「休眠」■日銀、緩和直後で戸惑い
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11454294.html
  2. 噴火1年 面積8倍 小笠原・西之島
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11454293.html
  3. 日中韓首脳会談を「希望」 朴大統領、初めて言及
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11454296.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 首相、総選挙準備を指示 解散は最短で19日
    http://mainichi.jp/select/news/20141114k0000m010162000c.html
  2. サンゴ密漁船 週内撤退か 中国政府が帰港指示
    http://mainichi.jp/select/news/20141114k0000m040169000c.html
  3. 軽減税率を同時導入 再増税の17年4月
    http://mainichi.jp/select/news/20141114k0000m010163000c.html

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 消費税10%延期へ 「17年4月」が有力
    http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS13H39_T11C14A1MM8000/
  2. 日立、伊鉄道事業を買収へ 2000億円、欧米3強を追撃
    http://www.nikkei.com/markets/kigyo/ma.aspx?g=DGXLASDC13H03_13112014MM8000
  3. 脱ハゲタカ 働きバチへ 目覚める資本
    http://www.nikkei.com/article/DGKKZO79681970U4A111C1MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 北「前回は慌てていた」 拉致調査 ずさん認め時間稼ぎか
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141114-00000073-san-pol
  2. 朴氏「日中韓首脳会談を」 条件付けず 安倍首相も意欲
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141114-00000075-san-pol
  3. 産経新聞 「トップを守る」に徹し切る 番頭の時代
     

(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/
 



  1. 3野党 選挙協力急ぐ 共通政策の策定視野
    http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014111490070202.html
  2. 原発 国民負担続く 電力会社を優遇、収益保証
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2014111402000126.html
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    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014111402000132.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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