2014.11.11 tue

2014年11月11日【新聞解説】想像の翼と素朴な事実

2014年11月11日【新聞解説】想像の翼と素朴な事実


【リグミの解説】

2年半ぶりの再会
安倍首相と中国の習近平国家主席は、両国首脳として約3年ぶりに会談しました。「戦略的互恵関係」の原点に立ち戻り、関係を改善することで一致しました。7日発表の4項目の合意文書に基づき、様々なレベルで協力することも確認しました。読売、朝日、毎日、日経、産経、東京の6紙がそろって社説を掲げています。特徴的な主張を比較します。
 
<読売新聞> 日中首脳会談 対立から協調へ舵を切る時だ
・ 習主席が未来志向の日中関係の構築を本気で目指すのなら、国内外で続ける中国政府の「反日宣伝」を慎むべきではないか。来年は戦後70年の節目の年だ。中国では反日感情が高まる恐れがある。両首脳は、歴史認識の問題が日中関係全体を損なうことがないよう努力すべきだ。
 
<朝日新聞> 日中首脳会談―問われるのはこれから
・ 両首脳が政権に就いてから約2年間の軌跡は、繰り返してはならない愚策の連鎖だった。尖閣諸島をめぐりアジアの二大国が戦端を開きかねない。100年前の第1次大戦からの連想も手伝い、世界がそう心配しているのは恥ずべき事態だ。日中関係を穏当な発展の流れに好転させることは、両首脳がそれぞれ語ったように「国際社会の普遍的な期待」である。
 
<毎日新聞> 日中首脳会談 合意を土台に前へ進め
・ 首相の靖国神社参拝については、中国の要求いかんにかかわらず、そもそもA級戦犯がまつられている靖国神社に首相は行くべきではない。一方、中国も経済や軍事力の発展にあたっては、国際ルールを尊重するよう強く求めたい。来年の戦後70年を、歴史を直視しつつ未来志向で迎えられるよう、日中両首脳の一層の努力を求める。
 
<日経新聞> 日中関係は仕切り直しの再出発だ
・ 対立の原因になっている尖閣諸島や歴史問題の溝が、これで狭まったわけではない。会談に先だって交わした4項目の合意文書も玉虫色だった。日本側によると、会談では尖閣諸島の名称にふれる発言はなかったが、中国側はかねて領土問題が存在することを認めるよう迫っている。日本はそうした問題は存在しないとの原則を堅持しており、この立場は変えるべきではない。
 
<産経新聞> 日中首脳会談 関係改善の一歩にすぎぬ
・ 尖閣問題については、中国側が今後、「異なる見解」を根拠に領有権問題の存在を主張してくる可能性があり、警戒を怠るべきではない。関係改善を優先させるあまり、「領土」や「歴史」で中国側の一方的な主張に譲ることがあってはならない。約25分の初会談は、関係改善への一歩にすぎず、今後も会談を重ねるべきだ。
 
<東京新聞> 3年ぶり首脳会談 日中改善の歩み着実に
・ 振り返れば関係悪化への決定的な転機は日本政府が一二年九月、有効に支配する沖縄県・尖閣諸島の国有化に踏み切ったことだ。今回、会談実現にこぎ着けたのは、両政府の合意文書に、双方が尖閣諸島など東シナ海で「近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識」との文言を盛り込んだためだ。これまで私たちは、尖閣諸島が日本固有の領土であることを前提に、外交上の「係争地」に位置付けるなどして対話のテーブルに着き、紛争防止の枠組みをつくる必要性を訴えてきた。合意文書の表現は対話の窓口を開くための知恵と評価したい。
 
25分の価値
わずか25分間の会話のために、3年かかった。それが今回の日中首脳会談を見た素朴な印象です。それでも会わないよりは会った方がいいし、形ばかりでも握手をし、互いの目を見て話すのは良いことです。
 
人間はネットや文書や他人からの伝言や報告では、他者の全体像を把握できません。そのような間接的なコミュニケーション手段は、「素朴な事実」を過大に評価したり不当に貶めたりする偏りを生みがちです。別に政治の話ではありません。人の噂や悪口を、その本人がいる前ですることはありません。常に当人がいない欠席裁判でなされます。そこでは「想像の翼」を自由に広げられるからです。
 
想像の翼
「想像の翼を広げる」の類似表現を調べると、「妄想をたくましくする」が出てきます。これになると、ずいぶんネガティブな感じが強くなります。NHK連続テレビ小説『花子とアン』で出てきた「想像の翼」は、現実の境遇はつらくても、意識を束縛するものを解けば、心は自由にポジティブな世界に羽ばたけることを、主人公の村岡花子を通して表現しました。
 
たぶん私たちは、相手と正対して話し合い現実の「素朴な事実」を直接見ることと、自分自身の感情のとらわれを直視し「心を束縛するもの」を解いて自由に発想することの両方が必要なのだと思います。会って話せばすべてが解決するわけではありません。妄想を捨て、クリエイティブに想像することも、会うことと同じぐらい大事です。
 
尖閣問題を解決する日
今回の日中首脳会談をどう評価するか。冷静な判断軸は、尖閣問題の認識に仕方にあると思います。各紙の社説では、そこにどういう論点を置くかを中心に特徴的案主張を拾い上げました。
 
「誰も住まない小さな島のために、大国同士が戦争になるなど愚の骨頂」という人がいます。それはその通りだと思います。しかし同時に、尖閣諸島は「誰も住まない小さな島」以上の意味を想像させる象徴的な存在になっています。地政学的な要港に匹敵する存在でもあります。
 
だからこそ、日中両国は、今回の首脳会談を契機に、対話を地道に積み重ね、欠席裁判になりがちな両国民の心情を鎮める必要があります。交流が再開すれば、創造的な解決アプローチや両者を利する方法論が、知恵ある日中の人々の中から、きっと出てくるのではないでしょうか。こんな私個人の「想像の翼」が日中の「素朴な事実」になる日が近いことを願います。
 

(文責:梅本龍夫)



  1. 来週中の解散 浮上 衆院選12月14日が軸 首相検討
    http://www.yomiuri.co.jp/politics/20141110-OYT1T50115.html
  2. 日中 関係改善へ一歩 3年ぶり首脳会談
    http://www.yomiuri.co.jp/politics/20141110-OYT1T50045.html
  3. TPP「結局見えた」首脳声明 妥結時期は示さず
    http://www.yomiuri.co.jp/economy/20141110-OYT1T50092.html

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 戦略的互恵を確認 日中首脳 2年半ぶり会談
    http://www.asahi.com/articles/ASGCB5R62GCBUTFK00C.html
  2. 遠い8年前の「原点」緊急連載 日中首脳会談
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11448200.html
  3. 消費税、今の日本の景気は・・・「上げる状況ではない」71%
    http://www.asahi.com/articles/ASGC974X7GC9UZPS118.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 海上連絡の早期運用合意 日中首脳 会談25分間
    http://mainichi.jp/shimen/news/m20141111ddm001010269000c.html
  2. 外形標準課税 倍増へ 来年度以降 法人減税穴埋め 政府・与党調整
    http://mainichi.jp/select/news/m20141111k0000m020118000c.html

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 日中「関係改善に努力」戦略的互恵 進める 首脳会談 衝突防止で協力
    http://www.nikkei.com/article/DGKKASFS10H37_Q4A111C1MM8000/
  2. 広島工場 1000億円投資 米マイクロン 最先端DRAM増産
    http://www.nikkei.com/article/DGKKASDZ10HJD_Q4A111C1MM8000/
  3. エバーノート・日経 提携 資本・業務面で 電子版を活用
    http://www.nikkei.com/article/DGKKASDZ10HA5_Q4A111C1MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 日中 互恵関係を再構築 首脳一致 尖閣・靖国言及なく
    http://www.sankei.com/politics/news/141110/plt1411100017-n1.html
  2. 「決断」形に 赤字の40年に終止符 番頭の時代 第1部カリスマを支える
  3. サンゴ密漁 海保対処明記 領域警備法案 民主案が判明
    http://www.sankei.com/politics/news/141111/plt1411110009-n1.html

(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/
 



  1. 大学 進む都心回帰 東京電機大 千葉から都内へ
    http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014111190070645.html
  2. 日中首脳3年ぶり会談「尖閣」衝突回避で一致
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014111102000141.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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