【リグミの解説】
元朝日新聞記者に脅迫文
かつて慰安婦報道に関わった元朝日新聞記者が教授を務める帝塚山学院大と、別の元記者が非常勤講師を務める北星学園大に退職を求める脅迫文が届きました。大阪府警と北海道警が威力業務妨害の疑いで調べています。脅迫文には、学生に危害を加えることや、爆弾を爆発させることなどが書かれていました。
この問題について、記者の出身元の朝日新聞と、朝日の慰安婦報道を一番激しく攻撃している産経新聞が社説を掲げています。この件については、共に言論自由を強く主張しています。特徴的な論点を比較します。
<朝日新聞> 大学への脅迫―暴力は、許さない
・ 自由にものを言う。学びたいことを学ぶ。それらを暴力によって押しつぶそうとする行為を、許すわけにはいかない。
・ 朝日新聞は8月、過去の慰安婦報道について、女性を強制連行したと証言した吉田清治氏(故人)に関する記事を取り消した。間違った記事を掲載してしまったことに対して多くの批判が寄せられており、真摯(しんし)に受け止めている。しかし、だからといって学生を「人質」に、気に入らない相手や、自分と異なる考えを持つ者を力ずくで排除しようとする、そんな卑劣な行いを座視するわけにはいかない。このようなことを放任していては、民主主義社会の土台が掘り崩されてしまうだろう。
・ 朝日新聞への批判から逃げるつもりはない。しかし、暴力は許さないという思いは共にしてほしい。この社会の、ひとりひとりの自由を守るために。
<産経新聞> 大学に脅迫文 言論封じのテロを許すな
・ 朝日新聞の慰安婦報道に抗議の意味を込めた脅迫文であれば、これは言論封じのテロである。断じて許すことはできない。言論にはあくまで言論で対峙すべきだ。
・ 帝塚山学院大の教授は朝日新聞の記者時代、韓国の済州島で「慰安婦狩り」に関わったなどとする吉田清治氏の証言について複数本の記事を書いたとされる。北星学園大の非常勤講師は朝日の記者時代、元慰安婦の証言をスクープとして報じた。朝日新聞による一連の慰安婦報道は、日本と日本人の国益や尊厳を大きく損ねたものだ。同紙の検証や謝罪が十分なものとは、到底いうことができない。
・ だがそのことと、暴力や威力で言論を封じようとすることは全くの別問題である。民主主義の社会において、理由のいかんを問わず、暴力や威力による卑劣な言論封じはあってはならない。正々堂々、言論でのみ、意見を戦わすべきだ。
卑怯者
両紙の主張は、言論空間を守り発展させていくメインプレーヤーである全国紙として、当然の内容です。他紙も毅然として社説を掲げるべきテーマです。「辞めさせなければ学生に痛い目に遭ってもらう。釘を入れたガス爆弾を爆発させる」という脅迫文も届いたそうです。
こういう行為を私たちは「卑怯」と呼びます。心が弱く、いやしい人間がすることです。正々堂々と議論し、是と非を相手と共有していく勇気も胆力もない臆病者が、安全な場所に隠れ、匿名で他者を攻撃し、言うことを聞かなければ暴力をふるうと脅す。しかも攻撃対象者とは関係のない第三者(学生たち)に危害を加えるという。情けない話です。
スポーツのルール
ここで私は、スポーツのことを連想します。野球やサッカーなどの団体競技、テニスや卓球などの個人競技、あるいは柔道などの格闘技。こうしたスポーツは、ゲームの要素をもっています。ゲームは、(1)勝者になるための明確な「ゴール」がある、(2)ゴールに到達する上で守るべき「ルール」がある、(3)今自分は勝っているのか負けているのかわかる「フィードバック」がある、(4)ゲームは「自主的に参加」する―という4つの条件があるといわれます。
ゲーム(スポーツ)は、特に(2)の「ルール」を守るという大原則に参加者たちが忠実であるから、成り立ちます。ルール違反は、審判などが取り締まるとともに、参加者たち自身が自律的に守ることで楽しく有意義な競技空間が創造されます。意図的にルール違反を繰り返す人が現われたら、ゲーム(スポーツ)は成り立ちません。そういう参加者は「卑怯者」とみなされ、悪質な行為を繰り返せば「レッドカード」で排除されます。
言論のルール
スポーツの本質は攻撃と防御のダイナミクスにあります。「ルール」があるから、激しい攻撃も許され、必死の防御が価値を持つのです。もし、ルールを逸脱し、なんでもありとなれば、それはただの破壊行為に堕し、人間らしい文化の営みを喪失します。言論もまた、本質は同じではないでしょうか。言論にも攻撃と防御のダイナミクスがあります。勝利をめざす営みという側面があります。しかし言論の攻撃が「言葉の暴力」になれば、それは「ルール」を逸脱していきます。
ではどこが「逸脱のはじまり」なのか。実は言論においては、明確な「ルール」が定められていません。言論の主体者である新聞などは、自分たちの規範をもつべきですが、今日にネット社会では、個人一人ひとりが「発信者」となれます。そんなテクノロジーが当たり前の時代に、誘惑に負け、逸脱した他者攻撃を繰り返す人も出てきます。
それは、社会というゲームに参加する一人の人間として、「ルール」を逸脱しているとどう認識を共有するか。今回の大学への脅迫文問題は、私たちの今日の「日常」の一部だという問題意識をもつことが出発点になると思います。「言論のルールづくり」と運用の仕方を考えるべき時期です。実はそれは、「言論の自由を守る」たいせつな一歩となるのではないでしょうか。自由とは野放しの無秩序のことを意味しません。自由は自律と一対であるのだと思います。
(文責:梅本龍夫)
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