2014.09.26 fri

2014年9月26日【新聞解説】TPPの理念、実益、戦略

2014年9月26日【新聞解説】TPPの理念、実益、戦略


【リグミの解説】

TPP交渉
ワシントンで行われたTPP(環太平洋経済連携協定)の日米閣僚協議は、折り合いがつかないまま終了しました。本日の読売、毎日、日経がこの件の社説を掲げています。特徴的な主張を比較します。
 
<読売新聞> TPP協議 進展阻む米国の対日強硬姿勢
・ TPPを実現し、アジア太平洋地域に世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大経済圏を誕生させる意義は大きい。関税の引き下げや貿易・投資のルール共通化によって経済活性化のメリットが期待できる。経済力を増す中国をけん制し、地域の安定に資するという戦略的な狙いもある。国際交渉で各国がそれぞれ国益を主張するのは当然だ。しかし、最終段階においては、大局的な見地から譲歩し合い、合意に達することが重要だ。
 
<毎日新聞> TPP日米協議 交渉全体の漂流を防げ
・ TPPはアジア太平洋地域で、貿易・投資の幅広い分野を対象に高いレベルの自由化を目指す枠組みだ。透明で公平な経済のルールを共有し、中国をけん制する狙いもある。経済連携は安全保障面でも大きな意義を持つ。日米両国とも、とりわけ農業をめぐって厳しい国内事情を抱えている。折り合うには政治的決断が欠かせない。安倍晋三首相とオバマ大統領はTPPの意義を再認識し、指導力を発揮すべきだ。
 
<日経新聞> 日米はTPP決着の意志示せ
・ 通商交渉に瀬戸際の攻防はつきものである。だが、交渉当事者の間で、どのタイミングが交渉の最終局面なのかという認識がずれる場合がある。ワシントンで開いた環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる閣僚協議で、日米の呼吸が合わなかったのが残念だ。自由化のけん引役であるべき日米が、逆に合意機運を損ねるようでは情けない。土俵際の攻防の中に合意への意志と信頼がなければ、けんか別れに見えてしまう。決着は先送りとなったが、交渉はあと一歩の段階に来ている。国内ばかりに目を向けて世界へのメッセージの発信のしかたを誤ってはならない。
 
TPP日米ラウンド膠着の原因
各紙とも交渉が膠着している原因として、
・ 「オバマ政権は11月4日に中間選挙を控えている」
・ 「フロマン代表は対日強硬派の自動車業界、畜産業界などから反発を買いたくない」
・ 「政治力の強い畜産団体と、その関係議員は、日本が農産物の関税撤廃に応じない場合、TPP交渉から日本を排除するよう迫っている」
など、もっぱら米国側の事情を分析し解説しています。不思議なのは、交渉は本来対等な立場で双方の事情をぶつけ合うべきものなのに、わが国の事情が見えてこないことです。
 
読売、毎日、日経の3紙はいずれもTPPそのものは、推進すべきとの立場です。「自由で公正な貿易の推進」という理念面、「地域経済の活性化」という実益面、そして「中国をけん制し地域の安定を図る」という戦略面のメリットを上げています。これらはどれも正しそうに聞こえますが、素人には今一つ説得力に欠ける印象があります。なぜでしょうか。
 
TPPの「理念」「実益」「戦略」
「理念」「実益」「戦略」の3つがうまくかみあっていないからではないでしょうか。TTP参加国のGDPの8割を占める日米が基本合意に達しなければ、TPPそのものが漂流しかねない、11月にはAPEC会議が迫っており、オバマ大統領が設定した「年内合意」に向けて動かなければならない。各紙の論調からは、期限に追い立てられる日本側の「弱さ」がにじみ出ているように感じます。期限に追われるのは両国対等なのにどうしてでしょうか。
 
これはまったくの想像ですが、米国を動かしているのはもっぱら「実益」の追究であるのに対し、日本側は「実益」をゆずっても「戦略」のメリットを確保したいという事情の違いがあるのではないでしょうか。そして両国とも、「理念」の価値を軽視しているのではないか。そんな構図が見え隠れしているように感じました。
 
日本の主体性
今回のTPP日米ラウンドは、1980年代の日米通商交渉の焼き直しのように見えます。日本のGDPが急速に拡大し、米国と1、2位を争う中で、アジアの代表選手として自由貿易の基準作りと国益追求のしのぎ合いをした当時と、今はまったく様相が違います。今やアジアを代表する経済大国は中国です。そして韓国という戦略力を備えた経済新興国も台頭しています。この両国はTPPに参加していません。そして中国の覇権主義は経済から軍事にまでおよび、アジア太平洋地域の不安定化要因になっています。
 
交渉の要諦はギブ&テイクのやりとりであり、終わってみれば誰しもがテイクの方が多かったと実感できる着地をする。それがウィン・ウィンの交渉となります。日米のほんとうのウィン・ウィンとは何か。それは中国と韓国、さらにはインドあたりまで含めて、アジア全域が紛争のない安定した平和な地域となり、経済で強く連携し相互発展する姿です。日本は本来、TPPの「理念」「実益」「戦略」のすべてを統合する主軸の国となるべき立場です。TPP交渉の行方は、実は、日本がアジアのいっぽうの主要国である中韓と、どれだけ関係改善できるかにもかかっているのではないでしょうか。
 

(文責:梅本龍夫)



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(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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