【リグミの解説】
昭和天皇語録公開宮内庁が編さんした昭和天皇の活動記録「昭和天皇実録」が公開されました。宮内庁が公文書や側近の日記など3000件余りの資料を基に24年5か月かけて編さんした61巻、1万2000ページ余りにおよぶ記録集です(引用:
NHK NEWS Web )。
本日、新聞6紙がそろってこの件の社説を掲げています。特徴的な主張を比較します。
<読売新聞> 昭和天皇実録 史実解明へ一層の情報公開を
・ 戦後に関しては、「A級戦犯」の靖国神社合祀に対する感想など、昭和天皇の言葉が具体的に紹介されていない部分が目立つ。宮内庁は「個々の場面で総合的に判断した」と説明するが、肩すかしの感は否めない。今後、史実の解明をより進めていくためには、実録の編纂に使用した侍従日誌、女官日誌などの開示が欠かせない。
<朝日新聞> 昭和天皇実録―歴史と向き合う素材に
・ 昭和の時代が教えるのは、選挙で選ばれていない世襲の元首を神格化し、統治に組み込んだ戦前のしくみの誤りだ。その反省から形成された現代の社会を生きる私たちは、絶えずその歴史に向き合い、議論を深めていく必要がある。国民の幅広い研究と検証のために、可能な限り、一次資料を公開する姿勢をみせてほしい。
<毎日新聞> 昭和天皇実録 国民に開く近現代史に
・ なぜ私たちが昭和史を絶えず振り返り、そこから学び取ろうとするのだろうか。今の時代が抱える大きな課題の根っこが、昭和にあるからだ。そして、続けなければならないのは「なぜ、あの破滅的な戦争は回避できなかったのか」という問いかけである。あの戦争で、坂道を転じるように、雪だるま式に危機を膨らませ破綻したプロセスは、決して単線的ではなく、その解明は容易ではない。
<日経新聞> 「実録」公開を機に昭和史研究の進展を
・ 新資料の発見や研究の進展によってどんどん上書きされていくのが歴史である。戦後70年の来年に向け昭和史にも新たな光が当たるだろう。もとより実録は決定版ではない。実録を検証したりその空白を埋めたりする研究がこれを機に進むことを期待する。昭和は日本史上まれな激動の時代であり、昭和天皇は第一の証言者である。同時に、実録は完全な言行録ではないことを知り宮内庁の編さんの意図を読み取る必要もある。
<産経新聞> 昭和天皇実録 「激動の時代」に学びたい
・ 即位後、64年にわたる昭和は、先の大戦を経験し敗戦から復興を遂げた苦難の時代だった。とりわけ終戦の決断は、昭和天皇でなければ望めなかったといわれる。昭和21年から29年にかけ、戦禍で傷ついた国民を励ます全国巡幸は約3万3千キロに及んだ。天皇は一人一人に生活状況を聞くなど実情に気を配った様子も分かる。国民が一体感を持ち、奇跡ともいわれる復興を遂げた当時のことを多くの人に知ってもらいたい。
<東京新聞> 昭和天皇実録 未来を考える歴史書に
・ 実録の中には、いわゆる「黒塗り」部分がなく、口語体で書かれている。国民に公開することを前提としていたのだろう。従来の実録は後の天皇に対する門外不出の報告書で、公表は想定されていないものだった。今回は出来上がるとほぼ同時に公表された。やはり国民を強く意識したからだろう。未公開資料が多いのは、極めて重要な文献資料となる。意義は大きい。
国家の象徴
従来の宮内庁のイメージは、情報公開に最も消極的な「奥の院」でした。その宮内庁が昭和天皇実録を黒塗りなしで、時間を置かず公開したことは評価できます。ただ各紙の社説を読むと、公開を前提に慎重に慎重を期した編集が施されたものになっているとの印象を受けます。
そもそも現憲法下では天皇は国家の象徴とされます。広辞苑を見てみます。象徴とは「ある別のものを指示する目印・記号」とあります。次の表記もあります。「本来かかわりのない二つのもの(具体的なものと抽象的なもの)を何らかの類似性をもとに関連づける作用。例えば、白色が純潔を、黒色が悲しみを表すなど」。
「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」である天皇は、私たち日本人が何者であり、なぜ日本という国家の一員であるのかを無言で語る存在です。象徴(シンボル)は自ら語りません。語らないことで象徴になるともいえます。宮内庁は、昭和天皇の直接の言説を開示しない方向で編集をしました。昭和天皇の言葉が一人歩きしないための配慮のようですが、天皇の憲法上の位置づけを考えれば、理解できることです。
「象徴」「儀式」「物語」
しかし、象徴(シンボル)は、それだけで存立するわけではありません。かならず儀式と物語を伴います。「象徴」「儀式」「物語」の3点セットは、ビジネスの世界ではブランドと呼ばれる力をもたらします。ブランド力をつけたビジネスは隆盛し、ブランドを傷つけるとビジネスはたちまち奈落の底に落ちます。国家もまた、本質は同じです。
昭和天皇は、昭和という時代の象徴です。そして昭和は、日本国の歴史において、もっとも苛烈な時代でした。私たちの国家ブランドは、戦後の「友好的で調和的」なものと、戦前戦中の「好戦的で破壊的」なものに分断されたままです。私たちは、分断され、統一的に語ることができずにいる自国の近現代史を、包括的に認識し、ひとつの物語に編集すべき時期にきています。
昭和史の棚卸しを
「歴史」は、事実の積み重ねですが、「歴史認識」は物語です。そして、人々が本当に必要としているのは、事実を正しく反映した物語です。昭和天皇実録は、昭和の歴史の事実を明らかにする第一級の資料です。「実録」から「語録」にどれだけ踏み込めるかは次の挑戦となります。しかし同時に、天皇が国家の象徴である限り、「語録」を安易に開示できない宮内庁の判断も尊重されるべきです。都合のよい物語(歴史認識)が一人歩きする可能性があるからです。
ではどうするか。同時並行で、昭和の時代の「象徴」(天皇)と一体の関係にある、昭和の時代の「儀式」(政治機構のあり方)そして、「物語」(国民が共有したアイデンティティー)を徹底棚卸ししていくべきです。日本の国家ブランドをよくもわるくも形成した昭和の「象徴」「儀式」「物語」を3つ同時にバランスよく検証していくことで、昭和天皇の「語録」は、きっと将来の日本国民に誤解なく共有される財産になっていくと思います。
(文責:梅本龍夫)
- 昭和天皇 苦悩の日々 実録1万2000ページ公表 軍暴走へ抵抗 克明に
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(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/)
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(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
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