【リグミの解説】
普天間基地の県内移設
沖縄知事選を前に、沖縄防衛局が米軍普天間基地(宜野湾市)の移設先である名護市辺野古沿岸部の埋め立て工事に向けた海底調査を開始しました。政府は反対派の阻止行動に備え、立ち入り禁止区域を明示するブイを設置しました。普天間基地の県内移設の是非が、知事選の最大の争点になると予想されています。本日の産経新聞と東京新聞は、正反対の立場を主張する社説を掲げています。両紙の要旨を比較します。
<産経新聞> 沖縄県知事選 「移設」で与党は結束せよ
- 米軍普天間飛行場を名護市辺野古に移設することは、日米合意に基づく約束事であり、実現は政府与党の責務だ。にもかかわらず、自民党の地方組織などで分裂が生じているのは、その重みをわかっていないようにみえる。無責任な対応では、合意を実行する国家の意思に疑念を持たれかねない。
- 今なすべきは、住宅密集地にある普天間の危険性を除去し、米軍の抑止力を維持する移設の重要性を、与党が一致して堂々と有権者に説くことだろう。
- 安倍政権と仲井真氏の間では、国の沖縄振興費を平成33年度まで毎年3千億円台とする枠組みが決まっている。沖縄で国が払う基地の借地料は年間約900億円に上り、県の農業生産額に匹敵する。沖縄振興と負担軽減の現実的な方策をめぐり、突っ込んだ論戦を展開してもらいたい。
<東京新聞> 辺野古海底調査 強権政治の地金が出た
- 民意が再び問われる前に、既成事実化を急いだとしか思えない。沖縄県名護市辺野古沿岸部の海底調査開始である。民主主義をないがしろにする手法に、強権政治という安倍内閣の地金が出ている。
- 安倍晋三首相は、普天間飛行場の危険性除去のため、「できることは全て行う」との姿勢を強調している。辺野古移設もその一環なのだろう。住宅や学校に近接する普天間飛行場の危険性を、一刻も早く取り除く必要性は共有する。
- しかし、首相は、在日米軍基地の約74%が集中する沖縄県民の負担を軽減するに当たって、自らが言明した「沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら」ということを、すっかり忘れてはいまいか。選挙で示された沖縄県民の民意が「県内移設」反対にもかかわらず、強行することを「強権政治」と言わずして何と呼ぼう。
沖縄の米軍基地の現実
米軍普天間基地を小高い丘から一望する映像を見ると、この飛行場の尋常でない姿が実感されます。周辺に一切の緩衝地帯がなく、住宅が密集し、立錐の余地もないようにみえます。この状況を放置できないという点で、産経新聞と東京新聞の主張は一致しています。住宅を移転するか、基地を移転するか。現実に対処可能なのは基地移転です。
在日米軍基地の約74%が沖縄に集中しています。沖縄県はわが国の国土の1割未満ですから、米軍基地の沖縄集中度を計算すると、本土の30倍近いことになります。米軍基地を積極的に受け入れたいという自治体はないと思います。沖縄の米軍基地負担の現実は、産経新聞が示唆するように、基地の借地料、沖縄振興費などの国の援助、そして雇用その他の経済波及効果によって補完されることで、かろうじて保たれているのではないでしょうか。
自治体に押しつけられる基地と原発
この構図は、よく比較されるように、原発立地自治体の現実と似ています。ただ、原発については、福島第1原発事故後、原発の存在そのものをなくしていくべきとの主張が強くなりましたが、米軍基地に関しては、日本からなくそうという議論は、今日ではまったく聞かれなくなりました。冷戦の終結で、米軍基地の安全保障上の意義は下がるとみられましたが、実際には中国の海洋進出や北朝鮮の核開発などにより、日米安保条約に依存せざるを得ない状況はむしろ強まっています。
米軍基地の負担問題は、ほんらい一自治体に押しつけられるものではないはずです。沖縄は、太平洋戦争の末期、本土決戦を遅らせる砦とみなされました。壮絶な沖縄戦は「捨石」であったと言われます。米軍基地が集中する現在も「捨石」の状態が続いていると表現する人もいます。そうではないと反論するのはむつかしいのではないでしょうか。
沖縄の歴史と現在を体感する
ではどうしたらいいのか。明快な答は見えてきません。まずは、琉球王国が日本に併合され、沖縄県となった歴史にまでさかのぼり、沖縄の人々の歴史認識に正対する必要があると思います。沖縄の彫刻家の金城実さんは沖縄戦の際に壕の中を逃げ回りました。村の模範青年だった父親は志願兵となり、戦死しました。遺書に「沖縄の人間は日本人と同等に扱われる。よって、この戦争に全力をあげて戦う」とあったそうです(東京新聞8/17インタビュー記事)。
沖縄以外の人々が、沖縄の人々に目を向け、関心をもつこと。基地問題を当事者として感じ取ること。沖縄に観光旅行に行ったら、かならず基地を見に行き、その規模や実態を目に焼きつけてくる。そんな小さな一歩から始まる何かがあるかもしれません。
(文責:梅本龍夫)
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