【リグミの解説】
「すき屋」問題
牛丼チェーン最大手「すき家」を運営するゼンショーホールディングスは、2015年3月期連結税引き後利益の赤字見通しを発表しました。1982年の創業以来初めてとなります。人手不足で営業できない店舗があるためです。すき家では、牛丼の全サイズを40~20円値上げし、「原則24時間営業」も見直すことにしています。本日の読売と朝日が「すき屋」の労働環境の問題を社説で論じています。特徴的な主張を比較します。
<読売> すき家過重労働 赤字は従業員軽視のツケだ
・ あまりに非常識な長時間労働である。早急な是正が求められる。従業員の健康さえ軽視した経営姿勢は、看過できない。厚生労働省が、過重労働などの疑いのある企業約5000社を調べたところ、8割で法令違反が見つかった。取り締まりにあたる労働基準監督官は、労働者1万人あたり0.5人で、多くの主要国を下回っている。政府は、違法行為の監視・摘発体制が十分かどうか、しっかり点検してもらいたい。
<朝日新聞> すき家の教訓―使い捨てにはその報い
・ 正社員よりもアルバイトやパートなど非正社員を雇い、酷使する。「デフレ時代の勝ち組」とされたすき家と同じ手法をとってきた企業は少なくない。すき家の実態が知られるようになったのは、従業員がネットなどで同僚に呼びかけながら次々と退職し、多くの店舗が休業や営業短縮に追い込まれたことがきっかけだった。従業員が「反乱」できたのは、経済の持ち直しで求人が増え、他に働き口を見つけやすくなってきたからだろう。景気低迷が続いていれば、問題はより見えにくく、深刻になっていたかもしれない。
働かなくていい職場
35年も前の話になりますが、私の最初の職場は、公共企業体の地方の一事務所でした。給与は私企業に就職した多くの友人たちより低かったですが、時間当たり単価は高いものがありました。なぜならこの職場は極端に仕事をしなかったからです。従業員の給与総額が国会で決められる仕組みだったため、経営者に給与決定の当事者能力は事実上ありませんでした。労働組合が強く、当局と激しく交渉した結果、労組が取った戦略は「できるだけ仕事をしない」というものでした。その結果、月給を実質労働時間で割ると、時給がとても良くなる職場でした。
では従業員は幸せであったか。これはむつかしい問題です。ぜいたくはできませんが安定した生活を定年まで続けられる保証があり、新しいことや困難なことに挑戦する必要もありませんでした。だから安楽な職場であったとはいえます。しかしそれが幸せの質を高めるものであったかどうか、疑問が残りました。自分と同世代の若者たちが妙に老成しているのも気になりました。人生の可能性が見えてしまい、意欲を封印していたため、その悲しみがどこかでふっと表情に表れることもありました。
何のために働くか
人間は何のために働くのか。生きるためにお金が必要で、だから働く。それはその通りですが、仕事はそれだけではない。誰かの役に立ち、社会に認められこと。仕事にやりがいを感じ、人間として成長できること。決められたことをきちんとできるようになることと、誰もまだできていないことに挑戦していくこと。仕事は、取り組み方次第で、私たちに金銭では測れない実に多くのものをもたらしてくれます。最初の職場体験は、反面教師となったところも含め、私の職業観の原点となったと思います。
「すき家」の問題は、読売と朝日の社説にあるように、ゼンショーの経営姿勢の問題であり、また国の制度運用の問題でもあるとは思います。しかし同時に、「すき家」で働く若者たちの一人ひとりは、どんな思いでいるのか気になりました。私の最初の職場と正反対で、雇用はきわめて不安定なものです。労組の助けもありません。時給も良いとはいえません。それでも働き続けた理由は、他に働き口がないからでしょうか。生活していくためには賃金が必要だからでしょうか。
そういう事情は常にあったと思います。でも、どこかで「自分が抜けたら店が成り立たない、働く仲間たちに迷惑をかける」という思いもあったのではないでしょうか。そして、自分がお店を支えているというささやかな自負と満足もあったかもしれません。
働く人の尊厳
もしそうだったとしたら、ゼンショーの経営者は、若者たちの中にある「何のために働くか」という純粋な動機や価値観に「ただ乗り」してきたともいえます。私が若いときに体験した「働かなくていい職場」と、「すき家」のように「働き続けなければならない職場」は、正反対に見えますが、問題は根っこではつながっています。
働く人の尊厳をどのように見るかということ。生きるとはどういうことなのか。他者の役に立ち、自分の存在理由に確信が持て、日々が充実し、安寧とやりがいのバランスが取れること。そして、今日よりも明日が良くなると希望が持て、少しずつでも自分が成長していく充実感をもてること。
ゼンショーの経営陣は、自分の職業体験の原点を思い出し、ほんとうはどんな職場を若者たちに提供したいのか、胸に手を当て熟考してもらいたいと思います。経営者は自分が率先して働きたいと意欲をもてる職場を創るべきです。遠回りのようでも、それが企業再建の王道となるのではないでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
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