2014.08.01 fri

2014年8月01日【新聞解説】電力、夏の陣

2014年8月01日【新聞解説】電力、夏の陣


【リグミの解説】

電力関連の社説
本日の新聞社説は読売を除く5紙が電力関係です。朝日、毎日、東京が福島第一原発の事故をめぐり検察審査会が、東京電力の元幹部3人について、「起訴相当」とする議決書を公表した件、日経と産経は、北海道電力が電気料金の再値上げ申請をした件です。各紙の特徴的な主張を比較します。
 
<朝日新聞> 原発事故原因―究明求める声を聴け
・ 刑事責任の追及がどうなるかはさておき、この議決には、事故について徹底究明しようとしない政府と国会、東電に対する社会のいらだちが映し出されているのは確かだろう。政府と国会には、事故に関する膨大な情報を集めて、教訓を引き出す権限と能力がある。国民が与えているのである。にもかかわらず、政府も国会も、原因究明を求める国民の思いにまったく応えていない。
 
<毎日新聞> 検審「起訴相当」 原発の安全神話を指弾
・  議決は、3人の刑事責任とは別に、速やかな対策を講じる方向で動かなかった東電や規制当局を「本来あるべき姿から逸脱している。安全神話の中にいたからということで、責任は免れない」と指弾した。新規制基準に基づく原発再稼働も現実的になっている。政府や電力会社は、原発を動かすに当たっては何より安全が優先されるべきだとの市民からの警告と受け止めるべきだ。
 
<東京新聞> 東電「起訴相当」 誠実な再捜査を求める
・ 東京電力の元会長ら三人を「起訴相当」と検察審査会が議決した。理路整然とした議決文といえる。福島第一原発事故は津波対策を怠ったため起きたという明快な結論だ。検察は誠実な再捜査を尽くさないと市民の信頼を失う。検察は、東電を強制捜査もせずに、「想定外だから罪は問えない」と一蹴した判断をそのまま維持するのか。被災者らは注視している。「人災」なのか、その真相に肉薄してほしい。
 
<日経新聞> 続く電力危機を映す北海道電の再値上げ
・ 電気料金の上昇は家計や企業活動の重荷となる。電力会社の経営悪化も歯止めがかからない。燃料費の抑制は電力会社のコスト低減努力だけでは限界がある。増大する燃料費は他の電力会社の経営も圧迫している。再値上げが全国に広がる恐れがある。安全が確認できた原発の再稼働を着実に進める体制を整えることも必要だろう。安全確認をおろそかにしてはならないが、川内原発に続く17基の安全審査を迅速化することも必要だろう。
 
<産経新聞> 北海道電再値上げ 「原発ゼロ」の重い代償だ
・ 家計の負担増だけでなく、産業界も値上げで悲鳴を上げており、日本の国際競争力の低下にもつながりかねない。これでは、安倍晋三政権が目指す日本再生も果たせない。国民生活と産業の基盤である電力を安価で安定的に供給するためには、安全性を確認した原発の早期再稼働が不可欠だ。政府はその実現に向けて真剣に取り組むべきときを迎えている。
 
原発事故―2つの問題
東電経営幹部を「基礎相当」とした検察審査会の判断と、北海道電力の電気料金再値上げは、直接は関係ありませんが、当然ながら原子力エネルギーにどこまで依存するかというテーマでつながっています。東電福島第1原発事故については、2つの大きな問題が未解決です。
 
1つ目は、事故原因の解明です。政府と国会の事故調はそれぞれ別個の調査を進め、いずれも「継続的な事故原因究明が必要」という結論で終わっています。2つ目は・事故の責任問題です。これだけの甚大な事故が起きたのに、東電幹部、官僚、政治家の誰一人責任をとっていません。「私に責任がありました」と名乗り出た人もひとりもいません。「結果責任」を問われることを恐れているなら、それを免責する発想もあってもよいかもしれません。そのかわり「原因責任」は徹底して問うことになります。当事者による歴史証言書のようなものです。
 
電力事業をどう立て直すか―2つの立場
北海電力の問題は、老朽化した火力発電に依存する脆弱性と燃料代の高騰と伝えられますが、詳細はわかりません。原発依存ができない苦境にあることは間違いないと思いますが、老朽化の問題は原発も例外ではありません。むしろ、「40年廃炉」の原則と廃炉完了までの長い道のり考えると、原発の方が問題は深刻です。原発新設に現実性がない以上、電力の安全供給のための設備投資をどこにするのか、エネルギー政策の長期発想がいよいよ待ったなしになっています。
 
ところで、長期の未来を見るためには、長期の過去を棚卸しする必要があります。原発政策の推進の歴史を精査し、原発の未来を見据えることなく、「今ここ」で起きている電力問題をほんとうに解決することもむつかしいと思います。朝日、毎日、東京の主張と、日経、産経の主張は、平行線です。でもこの2つを対立させるのでなく、融合していくしか道はありません。
 
「懲罰発想」と「歴史解明」
であれば、東電幹部に対する「懲罰発想」はいったん棚上げし、今回「起訴相当」と判断された3幹部には、刑事訴訟のリスクを負わす代わりに、事故原因解明および原子力エネルギー政策の推進の「歴史解明」の両方を義務づける発想があっても良いと感じます。この活動には当然、関与した官僚と政治家のコミットメントも必要になります。困難な道のりですが、これができる日本になれば、私たちの社会の未来は明るいと思います。
 
北海電力は、電力需給のひっ迫という「夏の陣」のあと、「冬の陣」が待っています。北海道はむしろ冬の方がたいへんと言われます。そしてこのサイクルは、今年で終わりません。毎年毎年繰り返しやってきます。短期の問題と長期の課題は一蓮托生です。ほんとうに短期の問題解決をはかろうと思ったら、どこかで腹をくくって長期の課題解決に本腰を入れるしかありません。

(文責:梅本龍夫)



  1. 除染基準 個人被曝量に「空間線量」転換 作業を効率化 環境省
    http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=102776
  2. 男性寿命 初の80歳超え 女性86.61歳 世界一守る
    http://www.yomiuri.co.jp/national/20140731-OYT1T50153.html
  3. 首相「改造 9月第1週」菅官房長官の続投示唆
    http://www.yomiuri.co.jp/politics/20140731-OYT1T50177.html

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 検察審「津波対応見送った」原発事故 東電元会長ら「起訴相当」
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11277112.html
  2. 「改憲を」19県議会 自民主導 意見書・請願「日本会議」提唱
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11277109.html
  3. 男性も「人生80年時代」平均寿命 女性は86.61歳 世界一
    http://apital.asahi.com/article/news/2014073100009.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. すき家残業 月109時間 第三者委「違法な労働」1人勤務解消提言
    http://sp.mainichi.jp/shimen/news/m20140801ddm001020196000c.html
  2. 騒音65デシベル以下に軽減 東京高裁 小田急訴訟和解
    http://mainichi.jp/select/news/20140801k0000m040063000c.html
  3. 改造 来月第1週明言 首相、女性起用に意欲
    http://sp.mainichi.jp/shimen/news/m20140801ddm001010177000c.html

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 電機、大幅増益相次ぐ 日立やパナソニック 4~6月
    http://www.nikkei.com/article/DGKDASGD31H35_R30C14A7MM8000/
  2. 「フラット35」優遇延長 住宅着工 上期4年ぶり減で 国交省
    http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS31H1J_R30C14A7MM8000/?n_cid=BPRDS001
  3. 首相、9月改造を明言 第1週 官房長官の留任示唆
    http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS31H1K_R30C14A7MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 新興国復権に冷水 アルゼンチン債務不履行 NY株 一時220ドル安
    http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140731/fnc14073123420022-n1.htm
  2. 証人処刑前に長老封じ 今なぜ、失脚公表? 周永康事件の衝撃
    http://sankei.jp.msn.com/world/news/140801/chn14080108290002-n1.htm
  3. 男性80歳超え 平均寿命さらに長く 女性86.61歳 連続世界一
    http://sankei.jp.msn.com/life/news/140731/trd14073116010013-n1.htm

(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/
 



  1. 大津波の恐れ報告 東電元会長出席の会議「福島に14メートル」「知らず」供述を否定
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014080102000128.html
  2. 13年後の渋谷駅は
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014080102000126.html
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    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014080102000127.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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