【リグミの解説】
集団的自衛権の集中審議
衆参両院の予算委員会で集団的自衛権の集中審議が行われています。朝日、毎日、日経、東京の4紙が社説を掲げています。特徴的な主張を比較します。
<朝日新聞> 集団的自衛権―解釈改憲の矛盾あらわ
- 一連の安全保障政策の見直しは、日本人だけの生命にかかわる問題ではない。集団的自衛権の行使や多国籍軍への後方支援の拡大は、世界の様々な紛争に日本が軍事的な関与を強めるということだ。紛争当事国の国民の生命や生活に、日本も責任を負わざるを得なくなることを意味する。いまの日本に、それだけの覚悟はあるのか。
<毎日新聞> 集団的自衛権 横畠長官の答弁は重い
- (横畠内閣法制局長官の発言は)つまり、日本自身が武力攻撃を受けたのと変わらないぐらい深刻な場合にのみ、集団的自衛権の行使が許されると言ったのだ。それならば集団的自衛権の行使を認める必要はなかった。これまでの個別的自衛権で説明できる話だ。「我が国が武力攻撃を受けたのと同様な被害」という長官答弁を重く受け止めたい。
<日経新聞> 集団安全保障の議論を早急に詰めよ
- 国際平和のために日本もさらなる貢献をすべきだ。この考えに反対する人は多くないだろう。他方で旧日本軍が周辺国に武力行使した反省から、戦後日本は国際貢献は非軍事部門に限るという考え方が主流だ。機雷除去の是非にとどまらず、国連平和維持活動(PKO)における後方支援の範囲拡大なども含め、基本ルールをよく論じた方がよい。
<東京新聞> 集団的自衛権 やはり矛盾いっぱいだ
- 戦闘継続中の機雷除去は国際法上「武力の行使」に該当しても、「受動的、限定的」であり、戦闘行為とは違うという理屈だ。ところが、機雷を敷設した敵国にとって、その除去は戦闘行為そのものである。反撃され、応戦すれば本格的な戦闘に発展する。そうした活動への参加がなぜ、海外での武力の行使を禁じた憲法の規範を害さないと言えるのか。独り善がりの議論はもう終わりにしてほしい。
集団的自衛権と「歯止め」の問題
手段的自衛権に反対の立場を鮮明にしている朝日、毎日、東京の3紙は、安倍首相の答弁に厳しい内容であり、戦争の歯止めに疑義を呈しています。日経は、原則賛成の立場ですが、冷静に現実対応するための環境整備をすべきとの立場に見えます。賛意を明らかにしている読売と産経の主張を合わせてみる必要がありますが、拙速な進め方の矛盾が露呈している面は否めないと思います。
集団的自衛権の何が問題なのでしょうか。端的に言えば、憲法第9条との整合性をどうとるかという問題です。そしてまた、仮に整合性が取れたとして、集団的自衛権の行使の引き金となる事案はどう定義され、どう制限されるのかという問題が起きます。さらに、引き金となる事案は戦闘行為そのものではなかったとしても、いったん集団的自衛権を発動したら、戦争という現実の一連の流れに巻き込まれ、気づけば戦闘行為をしていたという事態になる危険性をどう抑止するのか。
これらをまとめていえば、「歯止め」をどうやってかけるかという問題です。ここで私は緻密で論理実証的な説を述べる知識も知恵ももちあわせていません。ただ、他国が集団的自衛権を行使する場合と、我が国が同様なことをするケースは、似て非なるものがあるのではないかと感じています。それは、日本が先進国の中では珍しい「集団主義」の国だからです。
「集団主義」の国の責任とは
私たちは物心ついたときから徹底して集団の和や規律を重んじる文化や生活習慣を身に着けていくようにできています。六本木ヒルズという時代の先端を行く商業施設のカフェでノマドをしていて、不思議な光景を目にしました。近くの保育圏か幼稚園の幼児たちのお散歩風景です。保育士の女性に連れられた実に微笑ましい姿にパソコンを打つ手も止まります。おそろいの黄色や橙色の帽子をかぶり、隊列を組み、全員手をつなぎ、整然とお散歩をしています。私たち日本人は当たり前の風景と感じますが、実に日本的な集団行動といえます。
別の日の光景でした。長じて、新卒一括採用という集団的な通過儀礼を経た若者たちは、企業研修の会場を出ると、地下鉄の駅まで、歩道を整然と隊列を組み、さすがに手はつないでいませんが二人ずつ並び、進んでいきます。こんな集団行動の光景も、私たちにとっては日常の一部です。「集団主義」は、「主義」(理念を伴った主張)というよりも、一種の「体質」(無意識的な行動様式)になっているのかもしれません。
さて、集団的自衛権とは何か。端的にいえば「軍事における集団行動」なのだと思います。そこで、無意識的に「集団主義」の行動様式に従う日本は、どのような行動を取るのか。自国の主権と憲法を中軸とする国是に従い、毅然とした対応をするのか。それとも、集団の空気を読み、「やむをえない」「しかたがない」「流れはとめられない」といった状況判断だけするのか。無意識的な「集団主義」は、結果責任と説明責任をあいまいにします。イラク戦争参戦の政治判断を振り返り厳しく追及している英国と、イラク戦争が遠い過去の景色と化している日本の違いは、象徴的です。
(文責:梅本龍夫)
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