2014.07.04 fri

2014年7月04日【新聞解説】グランドデザインある外交を

2014年7月04日【新聞解説】グランドデザインある外交を


【リグミの解説】

北朝鮮に対する日本独自制裁の一部解除
安倍首相は、北朝鮮が拉致被害者らの再調査のために設置する「特別調査委員会」の体制を評価し、北朝鮮に対する日本独自の制裁の一部を解除すると表明しました。「行動対行動」という表現が使われています。新聞6紙がそろって社説を掲げています。特徴的な主張を比較します。
 
<読売新聞> 対「北」制裁緩和 「行動対行動」の原則を貫け
・ 拉致問題は、基本的に日本が独自に北朝鮮と交渉し、解決すべきものだ。ただ、日本は、その経過を米韓両国にも適切に伝え、核・ミサイル問題の対北朝鮮包囲網を崩さないことが大切である。
 
<朝日新聞> 対北朝鮮交渉―「行動対行動」の原則で
・ 互いの不信感から長年解決できないでいる懸案について対話を重ねて解決に導く。そんな外交の基本は、相手が北朝鮮であろうと変わることはない。一方、日朝と同時に安倍政権は、韓国との関係改善にも努めなければならない。
 
<毎日新聞> 拉致再調査 これからが正念場だ
・ 北朝鮮は、核放棄を迫る米国との間で交渉の糸口が見いだせず、後ろ盾の中国との関係も冷え込んでいる。中国の習近平国家主席は3日、韓国を訪問し、中韓の連携を強めている。北朝鮮の狙いは、日本との関係改善を突破口にこうした国際的孤立から抜け出すとともに、日本から経済協力を引き出すことだろう。
 
<日経新聞> 厳しい監視欠かせぬ拉致被害者の調査
・ 北朝鮮が日朝改善に動くのは、日米韓による包囲網を崩す思惑もあるだろう。拉致問題の解決はもちろん大切だが、核、ミサイル問題も日本の安全保障にとって深刻な脅威だ。核、ミサイル開発を阻止するため、政府は米韓や中国との連携にも十分、目配りしてほしい。
 
<産経新聞> 対北制裁解除 再調査を厳しく監視せよ
・ 再調査開始は前進ではある。だが、早期の制裁解除にはやはり疑問が残る。解除はあくまで調査結果に対して行われるべきだ。首相は解除判断について「行動対行動の原則」を挙げた。結果を伴わない調査にとどまるようなら、再制裁を含めた厳しい対応をとるのは当然である。
 
<東京新聞> 制裁一部解除 拉致解決着実に進めよ
・ 十年前にも調査委がつくられ警察にあたる人民保安部が管轄したが、「拉致は特殊機関が担当したので調査に限界があった」と言い逃れをした。調査結果をそのまま受け入れていいものか、疑問は消えない。
 
「行動対行動」とは何か
北朝鮮による拉致被害者家族の高齢化により、拉致被害者の特定と帰国を実現する時間的猶予は着実に減っています。政府が長年の問題を解決すべく、この段階で意志をもって動くことは理解できます。「行動対行動」という言葉も、有言不実行では問題解決にならないとの意思表明と受け取れます。拉致被害家族の焦燥が今度こそ解決され、拉致被害者の帰国が実現することを願っています。
 
ところで、「行動対行動」とは何を意味するのでしょうか。「北朝鮮の出方を確認した上で慎重にカードを切るという原則」という説明が朝日の社説にあります。これを文字通り読むと、「テイク&ギブ」と言い換えることができます。北朝鮮が実効性を期待できる組織体制を発表したことを「テイク」し、独自制裁の一部解除という「ギブ」をする。交渉の進め方として理解はできます。
 
グランドデザインが必要
しかし、いささか違和感もあります。交渉は、グランドデザインを描く必要があります。ゴルフに喩えれば、18ホールのコースがあり、各ホールにはOBラインがあります。その中でルールに従い、ボールを交互に打っていきます。このグランドデザイン(交渉の全体像と究極の着地点)が両国でほんとうに合意されているのだろうか。まずそこに疑念があります。
 
つぎに、「行動対行動」が「テイク&ギブ」の精神でされているとすると、まず交渉はうまくいかないと思います。最初に「テイク」しようと両者が思う限り、自分から差し出す「ギブ」は見せかけで中身の薄いものになるからです。グランドデザインを忘れ、足元でどっちが得したかの局地戦の勝敗に拘泥することになります。
 
3番目に、「行動対行動」だけ見ていると、「テイク&ギブ」の非対称性を見過ごし、妥協することになりかねません。相手が最初にマイナスの事態を作り、そこから少しだけ改善する「ギブ」をして、それを「テイク」しても、事態は依然としてマイナスです。にもかかわらず「行動対行動」という意味では、表層的には対等でフェアなやりとりと主張できてしまいます。
 
ほんとうの外交力
政府には、今度こそ政治的パフォーマンスに終わらない実行力を発揮してもらいたいと思います。グランドデザインを国民に明らかにし、その実現のための全体戦略を明らかにする必要があります。「行動対行動」といった局地戦、戦術レベルのやりとりはその後のことです。グランドデザインと戦略には、プレイヤーの特定が必須です。日朝二国間に終始せず、米国、韓国、中国というキープレイヤーを巻き込むデザイン力、構想力が求められます。それこそが外交力です。それはまた、武器に頼らない安全保障力です。

(文責:梅本龍夫)



  1. 北「1年で拉致調査」初回報告、今夏にも
    http://www.yomiuri.co.jp/politics/20140703-OYT1T50191.html
  2. 中韓で「慰安婦」資料研究 首脳会談合意 対日圧力で共闘
    http://www.yomiuri.co.jp/world/20140703-OYT1T50155.html
  3. 日米協力 自由度増す 憲法考 転換 安保法制
    http://premium.yomiuri.co.jp/pc/#!/news_20140703-118-OYTPT50517/list_%2523IMPTNT

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 北朝鮮制裁 一部解除「拉致」優先、対話シフト
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11224067.html
  2. 政権追随 物言わぬ経済人 日本はどこへ 集団的自衛権
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11224069.html
  3. 北朝鮮の核 反対で一致 中韓首脳会談 慰安婦研究も協力
    http://www.asahi.com/articles/ASG733CM5G73UHBI00H.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 拉致再調査 生存者情報を優先提示 北朝鮮「段階的に」
    http://mainichi.jp/select/news/20140704k0000m010124000c.html
  2. 北朝鮮核開発を阻止 中韓首脳会談で一致
    http://mainichi.jp/select/news/20140704k0000m030088000c.html
  3. 川内 今秋再稼働へ 原発審査 9日にも「合格」
    http://mainichi.jp/select/news/20140704k0000m020121000c.html

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 厚生年金、加入逃れ阻止 政府 納税情報で特定
    http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF03H09_T00C14A7MM8000/
  2. 中韓FTA 年内妥結目標 首脳合意 慰安婦で共同研究
    http://www.nikkei.com/article/DGKDZO73761860U4A700C1MM8000/
  3. シャープ、欧州家電撤退 TV工場、台湾社に売却へ
    http://www.nikkei.com/article/DGKDASDZ0307W_T00C14A7MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 「全員帰国」首相の賭け 北制裁を一部解除
    http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140704/plc14070407550006-n1.htm
  2. 中韓、北の核放棄へ連携 首脳会談 慰安婦問題を共同研究
    http://sankei.jp.msn.com/world/news/140703/kor14070322470012-n1.htm

(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/
 



  1. 新国立説明会 非公開に 建築家ら「密室」辞退相次ぐ
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014070402000125.html
  2. 厳格基準つくれるか「明白な危険」集団的自衛権 これからの焦点
  3. 女性蔑視 国会でも「早く結婚して産まないと駄目」4月衆院委やじ
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014070402000124.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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