【リグミの解説】
「自国への誇り」と「自分自身への満足」
平成26年度版「子ども・若者白書」が閣議決定されました。本日の朝日新聞がその内容について社説を掲げています。
・ 「『自虐史観』を植えつけられて、若者が自国に誇りを持てなくなっている」「行き過ぎた個人主義がはびこり規範意識が低下している」こう熱心に主張される向きには、まずは安心して頂きたい。
この主張の根拠として、同白書に掲載された日本、韓国、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデンの計7カ国、13~29歳の男女約千人ずつを対象に昨年実施したインターネット調査の結果を示しています。
・ 「自国人であることに誇りを持っている」と答えた人の割合は、日本が70%。米国、スウェーデン、英国に次いで高く、「自国のために役立つと思うようなことをしたい」は55%でトップだった。
一方で、同社説は「自分自身への満足」が低いことに着目し、そこに「どうせ」という心理があるのではないかと分析しています。
・ 調査で若者意識すべてをつかめるわけではないが、気になるのは「自分自身に満足している」と回答した人の割合が日本は46%で最下位だったことだ。他の6カ国は7割を超える。
・ 日本人であることの誇りが、自分自身への満足を大きく上回るという日本だけのこの傾向をさて、どう考えたらいいのか。いまを生きる子どもや若者の意識からは、目に見えない、この社会の「気分」を感じ取ることができる。正解はない。ただ、基調には「どうせ」が漂っているように思えてならない。「どうせ」は便利だ。高望みしなければ、失望せずに済む。低成長時代に適合した、「幸せ」な生き方だとも言える。
「どうせ」が広がる背景
「どうせ」が広がると、「社会が、変わりようのない所与のものとして受けいれられてしまう」と朝日社説は懸念しています。この着眼点は間違ってはいないと思います。ただ、どうして「どうせ」という社会心理が形成されるのか、そこを指摘していないので、「若者よりも長く生きている大人が『どうせ』なんかじゃない、と示せるかどうかが問われている」という結語に説得力がありません。
私は、ヒントはこの白書の調査の次の回答にあると感じます(文章は朝日社説引用)。
・ 「他人に迷惑をかけなければ、何をしようと個人の自由だ」は42%。他国平均は約8割なので極端に低い。
白書は、「社会規範」という項目に「いじめをしてはいけない」「約束は守るべきだ」「困っている人を助けるべきだ」という趣旨の3つの質問のあとに、「他人の迷惑と個人の自由」の質問を掲げています。「いじめ」「約束」「人助け」の3つでは日本の若者の回答は比較国の平均と大差ありませんが、「他人の迷惑と個人の自由」が大きくかい離しています。白書は、この結果をもって、「諸外国の若者と同程度かそれ以上に,規範意識を持っている。」と解釈しています。
「他人の迷惑」に敏感な国民
私はこの解釈は、「Yes & No」だと感じます。確かに日本人は、他人に迷惑をかけないという規範意識が突出して高い国民だと思います。ワールドカップのコートジボワール戦のあと、スタジアムで観戦していた日本の若者たちが会場を去る前に黙って自分たちが出したゴミを片付けだしました。これが世界のメディアに取り上げられ、驚きと称賛が広がっています。東京新聞は本日の1面コラム「筆洗」につぎのように記しています。
・ ワールドカップブラジル大会で日本人応援団が試合後、観客席でごみを拾い集め世界中で驚かれている。「試合では負けたが、日本のサッカーファンは大勝利」。現地報道が正直うれしい。黙々とごみを集める日本人の背中。それこそ計算のないソフトパワーであり、薔薇の花束なのである。
日本社会が清潔で秩序だっていることは、観光立国をめざすうえで大きな魅力にもなります。私たちの誇るべき規範意識であると素直に感じます。ただ、ものごとにはプラスとマイナスがあります。
集団主義と個人主義
「他人の迷惑」をどのレベルのものと考えるかは、文化的バイアスがあります。たとえば私が米国にいた当時の米国人などの中には、「ゴミを片付けるとゴミ収集に従事している人の仕事を奪うことになる」と真顔で言う人もいました。私たち日本人には驚きのコメントですが、「経済合理性」という価値観と「他人の迷惑」がここでは比較対象になっています。
「他人の迷惑」をお互いに忖度(そんたく)し、先回りして「問題の芽」を摘む指向性が私たちにはあります。これは時に、私たちの自由で柔軟な発想や、独自で創造的な取り組みにブレーキをかけるものとなります。「どうせ」という社会心理の背後には、日本人独特の文化的バイアスがあるのではないでしょうか。集団の価値観を優先する立場(集団主義)と、個人の価値観を追求する立場(個人主義)は、どの国にもあります。ただ、日本は今でも前者の比率が突出して高いのかもしれません。そのことの光と影を自覚することが、今特にたいせつになってきていると感じます。
(文責:梅本龍夫)
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