【リグミの解説】
天安門事件の現場
明日6月4日は、中国の天安門事件から25年の節目の時となります。東京新聞が社説を掲げています。記者は事件当時、現場にいた方です。
・ 1989年4月から始まった学生らの民主化要求デモは天安門広場を埋め尽くし、高揚感にあふれていた。現場で声をかけた参加者はだれもが「中国は変わります」とわれわれ外国人記者に目を輝かせ語った。
・ 6月4日未明。北京周辺に集結していた人民解放軍が一斉に鎮圧に乗り出した。抵抗する市民に容赦なく発砲、多くの死傷者を出した。「人民の軍が人民に銃を向けた」。学生らの叫びは絶望感にさいなまれていた。
以下、同社説の特徴的な主張を抜き出します。
<東京新聞> 人治でなく法治であれ 中国・天安門事件25年
・ 事件は「暴乱」として処理された。共産党の一党独裁体制を堅持することが最優先と確認された。現在までその姿勢は全く変わっておらず、社会の抱える矛盾は四半世紀前と同じだ。中国は経済的に発展を遂げ、世界第2の大国になった。指導者たちは強硬な姿勢を貫徹することにも自信をつけた、といえる。
・ 天安門事件25年を前に中国では事件の再評価を求める動きに異常に神経をとがらせている。駐在する外国人記者に対しての圧力もこれまでになく強く、天安門事件取材は事実上困難になっている。インターネットの監視には特に神経をとがらせている。中国国内は開かれた体制とはほど遠い。
・ 内部から変わらないとすれば、今の中国に軌道修正を求めるには国際的な圧力以外にない。米国をはじめ、日本、欧州さらにはアジア各国が一枚岩になり、強権政治に異を唱え続けざるを得ない。中国の民主化は今や世界の安定にとって欠かせない課題でもある。天安門事件はまだ終わっていない。
スターバックスの中国人
今から20年前の1994年、私はスターバックスの日本での立ち上げプロジェクトの責任者として、合弁事業の契約交渉を進めるため、シアトル本社から来日したひとりの中国人と対峙していました。彼の名は王金龍(ワン・ジンロン)。法務部門を統括する社内弁護士でした。「私はすべての交渉で勝利してきた」と英語で豪語する王さんは、確かに優秀でエネルギーあふれる人物でした。
ところが王さんの来歴を聞くうちに、驚くべきことを知りました。5年前まで北京で高級官僚として勤務していたのが、天安門事件にからんだことで中国国内にいられなくなり、米国に事実上の亡命をしたのでした。なんとかハーバード・ロースクールに入りましたが、英語ができない王さんは、授業にまったくついていけません。必死に英語を身に着け勉学に励み、卒業時には成績優秀者で表彰されるまでになりました。
日中のスターバックス、同時に1000店舗突破
王さんとの印象的な交渉を経て、スターバックスの日本法人は1995年に無事立ち上がり、翌1996年には海外初店舗となる銀座松屋通り店がオープンしました。日本に遅れること3年、1999年には北京にスターバックスの中国1号店がオープンしました。天安門事件から10年後のことでした。
2013年、日本のスターバックスは1000店に達しましたが、同年に中国も1000店を突破していました。スターバックスは、中国が日本を抜いて、米国に次ぐ世界2位の店舗数をもつようになると2012年には発表していました。まるで両国のGDPの逆転現象を見るようです。
中国での躍進で指導力を発揮したのが、スターバックス中国の社長に就任した王さんでした。天安門事件という政治の異変で北京を去った王さんは、紫禁城の中にまで店舗をオープンし、話題をさらったスターバックスという経済の雄をひっさげ、北京に舞い戻りました。
「七不講」の中で何を語るか
中国には、「天安門事件」「共産党批判」「少数民族問題」という3つのタブーがあると言われます。朝日新聞の本日の天声人語で、「七不講(七つの語るべからず)」という言葉を知りました。習近平指導部が発足し、言論封じを強化し、不都合な事実は徹底して国民の耳目から遠ざける政策のことを指します。
天安門事件から25年、王氏は今何を思っているのでしょうか。シアトルや東京で会っていた当時は、自分の主義主張や価値観をおおらかに語る自由闊達な人物でした。経済の躍進著しい中国で、彼は政治の現実をどう見ているのか。久しぶりに盃を傾けながら、氏の思いを聞いてみたい気がします。
(文責:梅本龍夫)
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