【リグミの解説】
欧州議会選挙
欧州議会の選挙で、「反統合」「反ユーロ」を訴える政党が躍進しました。全議席の3割近くを獲得しました。本日の朝日、毎日、日経、東京の4紙が社説を掲げています。特徴的な論点を比較します。
＜朝日新聞＞ 欧州議会選挙―垣根なくす永遠の試み
・ 国民感情が経済に影響されるのは世の常だ。むしろ事態を悪化させているのは、真の問題のありかを率直に説かず、ナショナリズムに訴える政治手法だ。
・ 景気、金融、環境、移民、どの問題も一国で対応できる構造ではない。だが、政治家たちは「EUが国の権限を奪ったからだ」と弁明してきた。 再び国境の垣根を高くすれば問題は解決するかのような幻想をふりまいた責任は重い。
＜毎日新聞＞ EUの試練 寛容の精神見失わずに
・ 東欧の比較的新しい加盟国ではなおEUへの信頼が高い。混乱からの脱却を目指すウクライナはEU加盟を目標に掲げている。EUの理想に期待する声はなお強い。
・ 推進派が票を減らしたとはいえ、従来のＥＵの基本路線が覆るわけではない。厳しい現実を直視しつつ、理想とする統合と寛容の精神を見失わず、その実現に向けて前進してほしい。
＜日経新聞＞ 欧州統合の体制立て直しを
・ 特に深刻なのがフランス。極右の国民戦線が首位となり、バルス首相が「（政治的）地震だ」と警戒感を示した。ドイツとともに統合推進の軸となってきただけに、衝撃は大きくEU全体への影響も懸念される。
・ 議会運営に深刻な影響が出るようなら、統合への求心力は一段と弱まる。ようやく明るさが見えてきた欧州景気への自信、ユーロへの信頼が揺らげば、新たな経済危機の火だねにもなりかねない。
＜東京新聞＞ EU極右躍進 統合の指針示さねば
・ 原因ははっきりしている。五年前に表面化した金融危機、ユーロ危機の対応策として採られたEU主導の緊縮政策が、南欧諸国を中心に市民生活を直撃し、失業、社会保障の削減など社会不安を募らせ、移民排斥や民族主義の土壌を広げていることが根底にある。
・ 通貨危機に際して吹き荒れたユーロ解体の声は今はない。第二次大戦後、政治的、経済的危機に幾度も直面しながら、その都度平和的統合の原点に戻り克服してきた経験が、銀行同盟へ道筋をつける成果を生んだからだ。声高で感情に訴える解体論よりも、緩慢ではあれ統合理念の着実な実現を模索する欧州の知恵に今回も期待したい。
排外主義の背景にある経済問題
どの国も鎖国体制で経済を維持でき、どの民族も自分たちだけで自給自活ができれば、ナショナリズムの過激化や移民排斥運動などは起きずに済みます。自分たちの小さな世界に閉じて、昔は良かったと語り合う。それがどれほど非現実的な幻想か、誰しもわかっています。
でも、いくら理想を掲げられても、生活が困窮したり、自分たちと異質な価値観をもった人々が勝手気ままにふるまっているように見えると、否定的な感情がわいてくるのが人情です。この人情に訴える政治をするか、それともそうした悪感情をほどき、理想に一歩でも半歩でもちかづく現実的な道程を説くか。
EUが希求する「未来志向のふつうの生活」
今EUで起きていることは、他人事ではありません。洋の東西を問わず、人類史レベルで獲得してきた普遍的な価値観は、すべての人間の自由と平等を基本的人権と定め、互いの多様性を認め合うというものです。尊い犠牲の上に獲得された価値観を継承していくためには、多くの人々が経済的に安定し、ふつうの生活を安心して送れるようにする必要があります。
フランスの田舎（ドルドーニュ地方）で暮らす国際ジャーナリストの土野繁樹さんは、EUがもたらした変化を日常生活で実感しています。民族と民族が、国家と国家が、血で血を洗う戦争の苦い記憶を忘れず、二度と惨事を繰り返さない決意がEUを生みました歴史をエッセーに記しています。
仏独和解50周年 ～フランスの田舎から （５）～
このエッセーを読むと、EUは、過去を反省し、「未来志向のふつうの生活」を構築しようとしていることがわかります。EUの理念が成功することを祈らずにはいられません。
（文責：梅本龍夫）
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2014.05.28 wed
