2014.05.22 thu

2014年5月22日【新聞解説】神話を否定したあと

2014年5月22日【新聞解説】神話を否定したあと


【リグミの解説】

大飯原発裁判
福井地方裁判所は、関西電力大飯原子力発電所の3号機と4号機の安全性を巡る裁判で、住民側の訴えを認め、関西電力に対し、運転を再開しないよう命じる判決を言い渡しました。福井地裁は「原発には極めて高度な安全性や信頼性が求められているのに、確たる証拠のない楽観的な見通しの下に成り立っている」と指摘しました。本日の読売、朝日、毎日、東京の4紙がこの件について社説を掲げています。特徴的な主張を比較します。
 
<読売新聞> 大飯再稼働訴訟 不合理な推論が導く否定判決
・ 「ゼロリスク」に囚とらわれた、あまりに不合理な判決である。原発の新たな規制基準を無視し、科学的知見にも乏しい。非現実的な考え方に基づけば、安全対策も講じようがない。
・ 福井地裁判決が最高裁の判例の趣旨に反するのは明らかである。関電は控訴する方針だ。上級審には合理的な判断を求めたい。
 
<朝日新聞> 大飯差し止め―判決「無視」は許されぬ
・ 東京電力福島第一原発事故の教訓を最大限にくみ取った司法判断だ。電力事業者と国は重く受け止めなければならない。
・ 事故を機に、法の番人としての原点に立ち返ったと言えよう。高く評価したい。特筆されるのは、判決が、国民の命と暮らしを守る、という観点を貫いていることだ。
 
<毎日新聞> 大飯原発差し止め なし崩し再稼働に警告
・ 住民の安全を最優先した司法判断として画期的だ。判決の考え方に沿えば、国内の大半の原発再稼働は困難になる。判決は、再稼働に前のめりな安倍政権の方針への重い警告である。
・ 判決は「福島第1原発事故は最大の公害、環境汚染。環境問題を運転継続の根拠とすることは筋違いだ」とも断じ、原発の稼働を温暖化対策に結びつける主張を一蹴した。共感する被災者も多いのではないか。
 
<東京新聞> 大飯原発・差し止め訴訟 国民の命を守る判決だ
・ 昨日の福井地裁判決は、言い換えるなら、国民の命を守る判決ということだ。原発に頼らない国への歩みにしたい。
・ 安全神話の完全な否定である。経済神話の否定である。環境神話も否定した。
・ 司法は、行政が行うことについて、もし基本的人権を危うくするようなら異議を唱えるものだ。その意味で、今回の判決は、当然というべきであり、画期的などと評されてはならないのだ。
 
従来の判決から逸脱
最高裁は1992年の伊方原発の安全審査を巡る訴訟の判決で、「極めて高度で最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との見解を示しています(読売社説)。原発の審査について、司法の役割は抑制的であるべきだ、という判断です。言葉をかえれば、現状維持です。
 
これに対し、今回の福岡地裁の判決は、各紙の社説にあるとおり、従来の流れとは大きく異なる判断を出しました。裁判官は基本的に判例主義を取りますので、過去の判決から大きく逸脱することはありません。また地裁、高裁、最高裁の序列が明瞭なため、最高裁の判断は重いものがあります。しかし裁判官はときに、そうした慣例に従わないことがあります。退職前に画期的な判決を出し、歴史に名を残したいという動機をもつこともあると指摘する人もいます。
 
大きな視点で論じ合う
今回はどうでしょうか。東京新聞は、「原発の稼働が発電コストの低減になるという関電側の主張も退ける。極めて多数の人々の生存そのものにかかわる権利と、電気代が高い低いの問題とを並べて論じること自体、許されないと、怒りさえにじませているようだ」と記しています。義憤が背景にある可能性は確かにあります。しかし、それだけでもないように感じました。
 
「美味しんぼ」問題に世間が揺れ、朝日のスクープで福島第1原発の吉田所長の調書で、国民に知らされていない事実が明らかになりました(参照:5/20リグミの解説)。原発事故がもたらしたものについて、私たちはまだコンセンサスを作れていません。それはつまり、原発の現状について、そして未来について、世論が分断されているということです。今回の判決は、「国民の安全」という立場を明瞭にしました。
 
今回の福井地裁の判断に賛同する人も反発する人もいると思いますが、建設的な議論の礎に値する骨太なロジックが示されたことを評価します。個々の論点の是非の議論もありますが、何を優先するのかという立ち位置の違いをお互いに冷静に見つめ、大きな視点で論じ合う度量を持ちたいと思います。
 

(文責:梅本龍夫)



  1. 大飯原発 再稼動差し止め 福井地裁「地震想定、楽観的」
    http://www.yomiuri.co.jp/national/20140521-OYT1T50131.html?from=ytop_top
  2. 厚木騒音訴訟 自衛隊の夜間飛行禁止 横浜地裁 賠償70億円に増額
    http://www.yomiuri.co.jp/local/kanagawa/news/20140522-OYTNT50024.html?from=ycont_top_photo

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 大飯再稼動認めず 福島事故後 初の判決 福井地裁 地震対策の不備認定
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11148418.html?iref=nmail_20140522&iref=pcviewpage
  2. 自衛隊機 夜間飛行差し止め 厚木基地訴訟「騒音で精神的苦痛」横浜地裁判決
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11148422.html
  3. 羽生、名人奪還 将棋
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11148420.html?iref=nmail_20140522&iref=pcviewpage

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 大飯原発 運転差し止め「安全性に欠陥」福井地裁判決 福島第一念頭
    http://mainichi.jp/select/news/m20140522k0000m040074000c.html
  2. 厚木基地騒音 自衛隊機 夜間飛行禁止 横浜地裁 国に70億円賠償命令
    http://sp.mainichi.jp/shimen/news/m20140522ddm001040169000c.html
  3. 羽生が名人奪還 通算8期目 4連勝で森内破る
    http://sp.mainichi.jp/movie/movie.html?id=824033461002

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 東電、全国で電力販売 企業に一括購入促す
    http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS21032_R20C14A5MM8000/?n_cid=TPRN0001
  2. 中ロ、ガス供給合意 総額40兆円 エネルギーで「同盟」
    http://www.nikkei.com/article/DGKDASGM21042_R20C14A5MM8000/
  3. 南シナ海情勢「平和解決を」マレーシア首相 TPP推進へ国内説得
    http://www.nikkei.com/article/DGKDASGM2102M_R20C14A5MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 大飯 再稼動認めず 福島事故後 初の判決 3,4号機「地震対策に欠陥」福井地裁
    http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/140521/waf14052115250028-n1.htm
  2. 自衛隊機 夜間飛行差し止め 厚木基地 騒音訴訟で地裁初判断
    http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140521/trl14052114480002-n1.htm
  3. 竹富町の離脱決定 教科書採択地区 県教委、国に従わず
    http://sankei.jp.msn.com/life/news/140521/edc14052119430004-n1.htm

(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/
 



  1. 大飯原発 運転認めず 福井地裁「生命、生活を侵害」各地の再稼動 影響も
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014052202000123.html
  2. 厚木基地騒音訴訟 自衛隊機 夜間差し止め 全国初判決 米軍機は認めず
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014052202000122.html
  3. 「わが国最大の環境汚染」福島事故教訓に判断
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014052202000146.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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