【リグミの解説】
「排除の理由」
朝日新聞が1面トップで「排除の理由」という連続企画記事を開始しました。記事は、浦和レッズの本拠地、埼玉スタジアムに「JAPANESE ONLY」の横断幕が掲げられた問題から始まります。取材されたメンバーは、「（やったのは）自分じゃないですよ」と断ったうえで、中国や韓国での試合に駆けつけたときの体験を語っています。
・ 中国や韓国での試合にも駆けつけた。相手サポーターからブーイングが飛ぶこともあった。次第に、中韓が嫌いになった。
・ 「向こうの応援は『反日』をがんがんやってくる。行けばわかりますよ」。口調が強くなった。
・ ゴール裏は自分たちの「聖地」だ。「外国人を退けようとする空気は、ほかのメンバーにもあった」
差別はどこで始まるのか
差別は異質なものを排除する心理から始まります。その理由はさまざまです。最近は、中国や韓国が反日になった結果、日本人も中韓が嫌いになるという構図があるように見えます。しかし、より年長の世代にまで広げると、昔から中国人や韓国人を蔑視する言葉を平気で口にする人々を多く見かけました。
戦争の記憶だけではなく、明治維新以後の近代化の過程で、日本は脱亜入欧という考え方を掲げました。政治経済社会のすべてで深い歴史的つながりがある中国と韓国（朝鮮）を蔑視するようになったのは、この頃からだったのではないでしょうか。反日の原因を日本人自身が作った面もあったという自覚が必要です。
異質なものへのまなざし
ただ、これも元をただせば、開国後の日本人が欧米人に差別的な扱いを受けたことが遠因になっている可能性があります。脱亜入欧を掲げた理由は、アジアの一部と見られると、劣等であると見下され、差別されるという意識があったと思います。
人種や民族による差別、外国人の排斥は、世界中で起きています。理由はさまざまですが、異質なものを排除したいという心理は共通しています。多様性を受け入れる心と、共通のルールや基盤を設け、一緒に新しい秩序を創る努力の両方が必要なのだと思います。「異質」なものをへのまなざしが問われています。
一緒にやっていこうと決める
記事は、「Japanese People Only」と書いた紙をかつて貼っていた神戸市三ノ宮のバーの事例も取り上げています。
・ 「親切な人がいてね。この表示はよくない、って教えてくれたんですよ」。男性オーナーが答えた。領事館や大学があり、外国人の客も多い土地柄。「けんかしたり、騒いだり。こちらも英語が苦手だから、日本語が出来ない方をお断りしていた」。
・ 2年前、面識のない日本人から、正すべきだとメールが届いた。「差別だなんて、思ってもみなかった」。
・ 店の前に貼っていた紙を外し、代わりにチャージ料金など店のルールを英訳し、貼り付けた。「話せば何とかなるのに、さぼっていた。騒ぐとか暴れるとかに国籍は関係ないよね」ミラーボールが回り、ソウルミュージックが流れる店には今、夜ごと日本人と外国人が集っている。
排除しない理由
過日、「リグミの解説」の読者から、ご自分の住む団地の理事長にバングラディッシュ人がなり、ご本人はたいへん苦労したようですが、住民の中では暖かく見守って行こうとの意思があふれていたという逸話が寄せられました。
他国が差別をするから自分たちもするではなく、日本は日本のやり方で新しい多様性との共存共栄を図る道もあります。新しいルールをつくり、お互いに居心地の良い環境をつくる。そんな姿勢で創意工夫すると、日本人はきっとどこの国よりもきめこまやかに、新しいコミュニティーを創造できると思います。
その第1歩として、「排除しない理由」を気楽に頭の体操のように考えるところから始めてみる。すると、見える景色が変わるような気がします。
（文責：梅本龍夫）
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