【リグミの解説】
核軍縮広島宣言
広島市で、非核保有12ヵ国による「核軍縮・不拡散イニシアチブ」(NPDI)の外相会合が開催され、核兵器廃絶へ向けた取り組みをアピールする「広島宣言」を採択しました。読売と毎日が社説で論じています。
<読売新聞> 核軍縮広島宣言 中国含む多国間交渉が必要だ
・ 中国は、核拡散防止条約(NPT)が核保有を認める米英中仏露のうち、唯一核兵器の保有量を増やしているとされる。NPDI各国は団結して、中国を含む核軍縮交渉の実現を目指し、保有国に働きかけていくべきだ。
・ 広島会合の開催により、核廃絶を求める日本の立場は、国際社会に強く印象づけられただろう。
・ ただ、核を持たない日本は依然、米国の「核の傘」を必要としている。核軍拡を続ける中国や、核開発をやめない北朝鮮に囲まれており、日本への核の脅威は深刻だ。それを踏まえ、核を減らしていく現実的なアプローチが必要だ。
<毎日新聞> 広島核軍縮会合 被爆地へ首脳訪問促せ
・ 「核兵器のない世界」の実現がいかに難しいかを改めて印象づけたともいえよう。「広島宣言」は、核兵器の非人道性こそ盛り込んだものの、核兵器禁止に向けた法的枠組みや条約などには言及せず、一連の国際会議の主張としては後退した感さえある。
・ 参加した12ヵ国のうち日本を含む7ヵ国は、米国の「核の傘」に依存している。米国の核戦略への配慮も働いたかもしれない。
・ 核軍縮について広島宣言が米露だけでなく全ての核保有国による多国間交渉の必要性を説いたのも有意義だ。その背景には、中国が核戦力を増強しているとの懸念がある。米露中を中心とした核軍縮交渉を速やかに始めるべきである。
フロンを廃絶できた理由
冷媒や溶剤として大量に使用されてきたフロン類は、オゾン層破壊の原因物質とされ、また温室効果ガスであることが明らかになったあと、国際条約や各国の法律によって大幅に使用が制限されるようになりました。便利だがそれ以上に弊害が大きいという共通認識が持たれた結果でした。
核兵器を含む大量破壊兵器はどうでしょうか。他国が持ったり使用したりするのは困るが、自国はいざというときのために保持したい。これが国家指導者の本音だと思います。だから非核化は、日本とオーストラリアのイニシアティブで始まったNPDIのように、非核保有国が、核保有国に核を廃絶しようと訴えかけることに一定の価値があります。
「核の傘」に守られている現実
ただ、毎日の社説にあるように、NPDIの大半の参加国は米国の「核の傘」に守られています。自分はケンカをする気もないし武器ももたないが、暴漢に襲われたときに備えて、常にボディーガードを従えているようなものです。ただこのボディーガード、守ってくれる代わりに、いろいろと制限や要求もしてきます。暴漢はこわいので、ついボディーガードの言うとおりにしがちです。
こんな構図がつづくかぎり、核廃絶はおろか、核軍縮もむつかしいでしょう。まして、どの国が核保有国かあいまいになりつつあり、明確な保有国も核兵器の共同管理の枠組みに主体的に関与しない傾向がある今、冷戦時代とは違う意味で、核兵器は国際政治の冷厳な現実でありつづけています。
核を持つか、持たないか、それが問題だ
ではどうしたらいいのか。英フィナンシャルタイムズの3/28の記事に、つぎの記述がありました。「儀礼的な外交の場では、誰も決して口にこそしないが疑問に思っていることがある。それは、『日本や韓国がいつ中国による脅威があまりに大きいので、核兵器を配備せざるを得ない、と言い出すのか』という問いだ」(日経ビジネス4/7号)。相手が持っているのだから、こちらも持つという論理です。
もうひとつありえる立場が、「自分たちは絶対に核兵器を持ちません」と宣言することです。随分空想的なアプローチにみえます。第一、「米国の核の傘」というボディーガードを雇っているのですから、説得力がありません。そこで、ボディーガードのオバマ氏にもう一度、核なき世界のビジョンを思い出してもらい、核兵器を持たない世界に向けてイニシアティブを取ってもらうように働きかけることが考えられます。
日米が導く未来
その大事な一歩は、オバマ大統領訪日のさいに広島と長崎の訪問を実現し、原爆犠牲者に慰霊をしてもらうことです。
唯一の被爆国日本は、「核の傘」を離れても核不保持でいくとコミットできるか。そして唯一の核兵器使用国にして最大の核兵器保持国である米国は、核兵器が人道に対する罪にあたる武器だと自ら認めることができるか。
核軍縮と核廃絶に向け、力ある動きができる国があるとしたら、それは日本と米国をおいて他にありません。
(文責:梅本龍夫)
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