2013.11.04 mon

タテ社会とヨコ社会 <リグミの目>2013年11月4日

タテ社会とヨコ社会 <リグミの目>2013年11月4日


 
タテ社会の象徴(マヤのピラミッド ASHINARI)
 
 
━━◆ メニュー ◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
◆先週の核心
 
◆今週の着眼
 
◆今週のロゴス
 
━━◆【2013年10月28日(月)~11月3日(日)】 ◆━━━━━━━━━━━━━━
 
【先週の核心】
 
日展の不祥事
 
先週のニュースで最も印象的だったのが「日展の不祥事」でした。石材などに書を彫る「篆刻」(てんこく)の2009年度の審査で、有力会派に入選数を事前に割り振る不正が行われていたとのことです。11月1日から「第45回日展」が国立新美術館で開催されていますが、今年は最高賞の発表はなく、テープカットが中止され、文化庁の幹部も出席を取りやめました。
 
日展の特徴は、強固な「タテ社会」を作ったことです。日展の不祥事をスクープした朝日は、日展は「厳しい階級社会」と表現しています。日展には約2000人の「会友」がいます。特選1回もしくは入選10回以上が条件です。その上に「会員」271人、「評議員・参与」226人、「理事・参事」30人、「常務理事」31人、「会長・理事長、副理事長」3人と階層が重なります。
 
 
「資格」と「場」
 
社会人類学者の中根千枝氏は、日本文化論の古典となった『タテ社会の人間関係』で、社会集団は「資格」(個人的な属性や能力など)と「場」(所属する組織など)の二つで構成され、日本人は「場」を重視すると指摘しました。言い換えれば、日本は個人の能力よりも、どこに所属しているかを優先して評価するということです。そして所属する「場」の中に、ピラミッドのように精緻な序列をつくることで秩序を保ちます。それが「タテ社会」です。
 
中根氏が『タテ社会の人間関係』を書いたのは1967年でした。それから半世紀近く経ち、日本社会もずいぶん変化しました。大企業の社長の年齢は20歳ぐらい若返り、上司部下の関係も年齢が逆転したり、女性上司が生まれたりしています。会社における「タテ社会」の礎であった「年功制、終身雇用、企業別労働組合」は、バブル崩壊後に事実上消滅しました。
 
 
「タテ」と「ヨコ」
 
しかし、日本企業の「タテ社会」の伝統は、今も健在です。新卒一括採用という日本特有の社会慣行は続き、入社すれば「同期」という事実上の年功制の集団が用意され、「先輩・後輩」の関係を維持しています。学生たちは、就職活動の際には企業側から「個性と創造性に期待する」と言われますが、実際に入社すると、「多様性より一様性」が重んじられ、「提案より従順」が優先します。
 
時代が変化しても、「タテ社会」が維持されるひとつの要因は、「タテ」と「ヨコ」の関係にあると思います。序列を重んじる「タテ社会」は、同期や同学年、さらには同じクラス(階級)の中の仲良しグループという「ヨコ社会」があって成り立っています。日本社会を特徴づける集団主義は、タテ糸とヨコ糸がどちらもしっかりとつながっていることで成り立っています。日本はどんな国かを一言で表現すれば、「タテ社会のヨコ並び」となります。「タテ社会」を維持するには、「ヨコ社会」の秩序がまず必要なのです。
 
 
「ウチ」と「ソト」
 
中根氏は、「タテ社会の人間関係」は、「ウチ」と「ソト」を峻別すると語っています。自分が所属する会社のことを「ウチは」とか「ウチの会社は」と表現する人は今でも多いと思います。「ウチ=家」です。会社員は今でも、能力や経験に基づく「資格」(ソトでも通用するもの)を活かす自立した個人ではなく、会社という「場」(ウチの論理と感情が優先するところ)に所属する家族のようなものです。
 
日展の関係者は、「書」の8つの会派(派閥)で賞を分け合う仕組みを作りました。これでは「場」に属さない一般の応募者は、日展で入賞するのは不可能です。「ウチ」を大事にする「タテ社会」は、「ソト」に対する配慮を欠きがちです。これからの社会は、「ウチ」と「ソト」の意識をやわらかくし、誰しもが「ウチ」と「ソト」を往来できるようにすることが大切です。
 
 
ネットワーク型の社会
 
「タテ社会」中心できた日本を、いきなり「ヨコ社会」優位に切り替えることは、現実的ではありません。どのような社会でも、「タテ」と「ヨコ」の両方があり、両者のバランスの仕方がその社会の特徴となります。「場」の力を活かす日本の良き伝統を継承しつつ、それを「ウチ」にとどめず「ソト」にも開く、というのがひとつのヒントになります。
 
さらに一人ひとりが「資格」を高める努力をし、「ソト」に出て新しいことに挑戦するのも大切です。「ソト」で新しいものを生み出した人が、元の「ウチ」の人々を招けば、そこは未来の「ウチ」になります。「ウチ」に閉じがちな社会を「ソト」に開くと、やわらかく強靭なネットワーク型の社会が生まれます。そこでは、「タテ社会」と「ヨコ社会」がもっと自然にバランスするようになると思います。
 
 
【リグミの解説】タイトルとリンク
 
◇…………………………………………………………………………◇
 2013年10月28日(月)【解説】上からも下からも
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1788
◇…………………………………………………………………………◇
 2013年10月 29日(火)【解説】メガバンクの責任
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1791
◇…………………………………………………………………………◇
 2013年10月 30日(水)【解説】タテ社会の人間関係
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1794
◇…………………………………………………………………………◇
 2013年10月 31日(木)【解説】古典から新古典へ
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1797
◇…………………………………………………………………………◇
 2013年11月1日(金)【解説】新エレキ業界
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1800
◇…………………………………………………………………………◇
 2013年11月 2日(土)【メモ】「囲い込み」の功罪
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1801
◇…………………………………………………………………………◇
 2013年11月3日【メモ】源氏物語の普遍性
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1804
◇…………………………………………………………………………◇
 
 
━━◆【2013年11月4日(月)~11月10日(日)】 ◆━━━━━━━━━━━━━━
 
【今週の主な予定】
 
11月6日(水) 2013国際ロボット展(~9日、東京ビッグサイト)
 
 
【今週の着眼】
 
ロボット3原則
 
11月6日から「国際ロボット展」が始まると知り、有名な「ロボット3原則」のことを思い出しました。アイザック・アシモフが1950年のSF小説『われはロボット』(I, Robot)で提唱しました。
  1. ロボットは、人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
  2. ロボットは、人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第1条に反する場合は、この限りでない。
  3. ロボットは、前掲第1条および第2条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
(引用:WIKIPEDIA)
 
この3原則のことを初めて知ったとき、アシモフはなんて賢いのだろうと感心しました。そして、「I, Robot」という原題の「I」(わたし)という主語のうしろの「カンマ」が、ロボットに芽生えた不思議な感情のようなものを示しているようで、強く印象づけられました。
 
 
支配する側の都合
 
同時に、自分が何者かを定義づけられ、しかも自律的に判断し、行動することが可能なロボットは、果たしてプログラムどおりに動き続けるものなのか、素朴な疑問も生じました。ひょっとすると、ロボット3原則は、支配する側の人間に都合がよすぎるのではないか。
 
そう感じるひとつの理由は、「ロボット」を「奴隷」に置き換えても3原則が成り立つからです。「奴隷」は同じ人間ですが、今日でいうロボットの役割を期待された存在でした。人格は認められませんでした。
 
ロボット3原則を「調教された動物」に置き換えることもできます。動物は、人間と同格とは認められていませんが、同じ命を持つ存在であり、意識があります。そして深い感情と知性を持ち合わせています。しかしその位置は、あくまで人間の下です。
 
では現代社会はどうでしょうか。ロボット3原則は、【先週の核心】で模索した「タテ社会とヨコ社会」の問題に通じるものを感じます。ロボット」を「会員」に、「人間」を「日展」に読み替えれば、日展という巨大なタテ社会を維持強化する原則が見えてくる気がします。
 
 
人間のエゴと向き合う
 
親が望む特徴をもつ赤ちゃんを作る「デザイナーベビー」につながる遺伝子解析技術が考案され、米国で特許が認められたとのニュースが話題になりました(参照:朝日デジタル)。http://www.asahi.com/articles/TKY201310190592.html 
 
親はみな、子どもが五体満足で健康に恵まれ、しあわせに育つことを願うものです。しかし、子供を自分の思い通りの存在に作り上げたいとなれば、それはもう親のエゴです。そんな子は、大人になって親に、「私はあなたのロボットではない」と言うのではないでしょうか。
 
人間のエゴは、際限なく欲望を満たそうとします。それは人類の発展と進歩を促すエネルギーですが、人間社会を逸脱と混乱に陥れる罠でもあります。アシモフが「ロボット3原則」を考案した1950年当時、人類がこれほどのテクノロジーの恩恵を手にするとは、思いもよらなかったと思います。
 
私たちは、自分で創り出しているものが何かわからないまま、目を閉じて突っ走っているところがあります。どこかで「人間としての3原則」がどのようなものか、心静かに思索する時間も必要なのかもしれません。
 
 
━━◆ 今週のロゴス ◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
「社会はひとつの船のようなものだ。誰もが舵をとる準備をせねばならない」
 
― ヘンリック・イプセン ― (ノルウェーの劇作家、詩人)
 
 
         *ロゴス: 古代ギリシアで「真理を語る言葉」の意味
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
ご意見・ご感想をお寄せください。
http://bit.ly/VEiemI

 
■文責:梅本龍夫
© League Million Inc.
 

◆メルマガのお知らせ

リグミでは、 

リグミの「新聞1面トップ記事」&「今日は何の日?」

というメルマガ(無料)を発行しています。

こちらでは、主要な新聞一面トップ記事を読み比べた解説が毎日届きます。(平日のみ)

ぜひ、ご購読ください。
http://bit.ly/1aMuiIK

*まぐまぐでも、同じ内容の無料メルマガ(まぐまぐの広告が入ります)を発行していますので、まぐまぐの読者の方は、こちらから。

▼リグミのFacebookページ

いいね!をお願いします!
http://www.facebook.com/lgmi.jp
 
▼リグミのTwitter

フォローをお願いします!
https://twitter.com/LGMI_JP

▼LGMI Tumblr

フォローをお願いします!
http://lgmi-jp.tumblr.com/

 



【本日の新聞1面トップ記事】アーカイブ