【リグミの解説】
「和食」がユネスコの無形文化遺産に
「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録される見通しです。本日の読売が1面2番記事、朝日は1面3番記事、他紙も社会面などに大き目の記事を掲載しています。正式な登録名は「和食 日本人の伝統的な食文化」となります。
「和食」のユネスコ推薦書では、「四季や地理的多様性による様々な食材の使用や、自然の美しさを表わした盛りつけなどの特色があり、正月や田植えなどの年中行事に密接に関係する社会的慣習でもある」(読売)としています。政府は昨年、「『自然の尊重』という精神を表現している『社会的習慣』」として「和食」を推薦したと朝日は伝えています。
「和食」とは
整理すると、今回の「和食=WASHOKU」の定義は、次の4点になるようです。①多様で新鮮な食材を使い、持ち味をいかす、②バランスがよく、健康的な食生活をつくる、③自然の美しさを表現する、④年中行事とかかわっている―。この定義であれば、いわゆる老舗の懐石料理など、洗練を極めた一部の高級料理に限られることはなく、庶民の日常の食文化まで含むものとなりそうです。
ただ、現代日本人の食生活は、一汁一菜(主食のごはん、汁物、おかず一品、そして漬物)や一汁三菜(三菜は、主菜一品と副菜二品)といった言葉もあいまいになってきています。背景には、飲食業や流通業の発展による外食や中食(家庭外で調理された食品の購入)の浸透や、家族の在り方の変化があります。和食は確かに正月料理など、年中行事との関わりが大きいですが、そうした祭事や儀式を支えてきた地域社会も、各地で衰退してきています。
「和食」の伝統
今のような和食はどれぐらいの伝統があるのでしょうか。一汁一菜は、元は鎌倉時代の禅寺の質素な食事が世間に広まったものだそうです(参照:WIKIPEDIA)。日本の文化の大きな特徴は、自然の豊かさが織りなす四季の彩りを愛でる繊細な感性にあります。その具体的な表現手段が、多様な食材を活かした食にあります。日本文化の中心軸に食文化があるといっても過言ではありません。
その象徴的な事例が茶の湯ではないかと思います。客人に一杯の茶を点てる主人の「おもてなし」は究極の食文化かもしれません。一期一会、つまり生涯に一度限りかもしれない縁のために心を込めて茶を点てる。一輪の花を飾る。近くの山で急ぎ採ってきた食材で料理を作る。質素だが趣味の良い茶室で、洗練された器に料理を盛り付ける。掛け軸には、さりげなく客人への思いを語る漢詩などがあり。茶道に疎い者の勝手なイメージがすっと浮かんでくるのも、日本の食文化の伝統の妙です。
そんな日本の食文化は、ひょっとすると縄文時代にさかのぼるのかもしれません。英国のBBC放送によると、縄文土器は世界最古の土器のひとつであり、その文様(縄文)などを見れば、日本人の「ものづくり」の伝統がいかに古いかわかる、と語っています。そして、縄文土器に付着した食べ物の炭素を分析し、世界で最初に料理をした器ではないかと推測しています。それが宗教的祭事のためだったか、日常の食事だったかはわかりませんが、最古の縄文土器は1万6500年前と知ると、日本の食文化のルーツの雄大さを実感します(参照:
BBC)。
「命をいただく」
現代の私たちは、老いも若きも、食事の前に「いただきます」と言います。両手を合わせて感謝の気持ちを表す若者たちもたくさんいます。食物連鎖の最後に私たち人間がいます。「命をいただく」という神聖な行為が食事です。神話的には、両手を合わせる合掌は、「天と地」、「味方と敵」、「善と悪」など、ふたつに分裂する世界を「ひとつ」に戻す象徴です。宗教や伝統は違っても、合掌の意味することは、世界中の誰しもが自然に理解します。
日本人の食は、命に感謝する「いただきます」で始まり、食事や食材を作ったり取ってきてくれた人々に感謝する「ごちそうさま」で終わります。これこそが日本の食文化の支柱であると感じます。日本の食文化を世界に広めることは、ビジネスとして大きなチャンスです。それ以上に、日本人が本来持っているやさしさや思いやりに、私たち自身がもう一度立ち返るきっかけにしたい。今回のユネスコ無形文化遺産への登録の動きで実感したことです。
(文責:梅本龍夫)
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