2013.10.21 mon

アンパンマン平和賞 <リグミの目>2013年10月21日

アンパンマン平和賞 <リグミの目>2013年10月21日


アンパンマン平和賞のメダル
アンパンマン平和賞のメダル


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◆先週の核心
 
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━━◆【2013年10月14日(月)~10月20日(日)】 ◆━━━━━━━━━━━━━━
 
【先週の核心】
 
ヒーローを助ける存在
 
「アンパンマン」の作者やなせたかしさんが亡くなりました。94でした。遅咲きの国民的漫画家の活躍に勇気をもらったのは、子供たちだけではなかったと思います。10月16日の「リグミの解説」で「アンパンマン」について書きはじめ、各紙に乗った追悼の文章などを読んでいて、「アンパンマン」には「日本人の知恵」がつまっているという実感を持ちました。
 
前回の<リグミの目>では、「フォロワーシップ」について書きました。日本人論の典型として、「リーダーシップの欠如」のようなことがよく指摘されますが、そういうネガティブな捉え方をするのではなく、むしろ日本人は「フォロワーシップ」に優れているという逆転の発想で見た方が、いろいろと起きていることの本質が見えやすいのではないか。そんな着眼でした。すると、「アンパンマン」の世界は、「フォロワーシップの理想郷」のようにも見えてきました。
 
アンパンマンは、悪さをするバイキンマンに「アンパンチ」を繰り出しますが、徹底してやっつけるのではなく、懲らしめるだけ。そもそもバイキンマンたちの悪さも、ちょっと大がかりないたずらといった按配です。アンパンマン自身も水に濡れると弱ってしまうなど、不死身ではありません。ジャムおじさんにあんぱんの顔を新調してもらって元気を取り戻す「アンパンマン」の姿を見ると、ヒーローは、彼を助ける存在がいて初めて活躍できることがわかります。
 
 
暴走しない知恵
 
「正義とは、実は弱いものだ」とやなせさんは語りました。これは、やなせさんの戦争体験に基づく実感でしたが、平和の時代の日本人の素朴な実感でもあるような気がします。少なくても西洋型の絶対的な正義を振りかざさないのが日本流ではないでしょうか。お互いにちょっとずつ支え合う「フォロワーシップの精神」を発揮すれば、そんなに悪いことは起きない。日本人にとっての正義は、超人的なリーダーの導きや活躍がなくても、みんなで達成できるもののように感じます。
 
不死身の主人公が超人的な活躍をし、悪を倒し世界を救うという典型的なヒーロー物語は、わかりやすく胸がすくものです。でも生身の人間はそんなに強くない。何かをすれば深く傷つく。「アンパンマン」の登場人物たちは、バイキンマンやドキンちゃんを含め、みんなそのことをよく知っている。だからみんな限度をわきまえています。悪を排除するのでなく、悪いこと、否定的なことを、自分の中で上手に相対化し、暴走しないようにする。そんな日本人の「集団の知恵」を「アンパンマン」は教えてくれたように思います。
 
 
二項同体の文化
 
編集工学研究所の松岡正剛さんは、日本文化の特色を、「二項同体」という言葉で表しています。西洋型の絶対的な正義が成り立つのは、「善と悪」が「二項対立」の関係だからです。善悪を「二項対立」で見ると、「悪」は絶対許せず、「善」は絶対正しいものとなりがちです。しかし現実の生活では、善と悪はそれほど明瞭でもなく、鏡に映る相似形ともいえます。そこをわきまえ、「アンパンマン」の世界に登場するキャラクターたちのように、「集団の知恵」で善も悪もバランスさせるのが「二項同体」の妙となります。
 
「善悪」の話だけでなく、相反するふたつのものが対立することなく共存し、そこから新しい様式や文化が生まれるのが、日本の大きな特徴です。たとえば、「和」と「洋」を考えると、これだけ生活が洋風化しても、日本人はかならず靴を脱いで家に上がります。洋食でも、お茶碗にごはんを盛り、お箸を使って食べたり、家庭料理でも当たり前に、和食と洋食が組み合わされたおかずだったりします。
 
東京に初めて来た外国人が面白いと感じることのひとつに、高層ビル街や繁華街の中に、神社や仏閣がごく当たり前に存在していることがあるそうです。「俗なる世界」の中に「聖なる空間」が共存する不思議。しかも、キリスト教やイスラム教だと、「聖なる空間」は教会やモスクの内側が基本ですが、日本の神社仏閣では、境内や森という開かれた空間に祠(ほこら)や仏像などの「聖なるもの」が自然に配置されているので、「二項同体」の妙が一層際立って感じられます。
 
 
日本のオリジナリティー
 
「しがらみのない新規のもの」と「古い伝統につながるもの」の共存も、日本人にとっては、当たり前のことです。ものづくりは、縄文時代以来の日本文化の精髄ともいえますが、ここでも、「二項同体」は至るところにあります。「手作りの匠の作品」と、「高度な工業製品」の両方に、日本人ならではの細部までの徹底したこだわりが発揮されています。どちらも誇れる日本文化です。
 
そもそも私たちは、良いと思ったもの、便利だったり、新鮮な驚きに満ちたものは、それが日本オリジナルか外国のものかにこだわらず、積極的に取り入れます。その一方で、昔からのやり方や独自の文化も、しっかり継承しています。このふたつは、日本では対立したり、分断されたりせず、多くの人々の生活の中に普通に存在しています。
 
「二項対立」ではなく、「二項同体」。そうした日本の文化は、ただ異質なものが共存しているだけではありません。そこから日本独自のものが編集され、オリジナルティーをもつものに発展していきます。日本人には、オリジナリティーがないとか、物真似ばかりだと言われた時代があります。しかし実際には、日本人は「二項同体」のやわらかい感性と地道に究める精神で、いつの間にか高いオリジナリティーの価値を実現することが多くあります。
 
 
リーダーとフォロワーは二項同体
 
「グローバリズム」が喧伝され、「グローバルスタンダード」という言葉がひとり歩きしたことも、日本人の「リーダーシップの欠如」という批判に拍車をかけた面があるかもしれません。日本にも、もちろんりっぱなリーダーはたくさんいます。それでも、「グローバルスタンダード」で見ると、リーダーの目立ち方が相対的に少ない感じはします。むしろ、日本の本質は、「リーダー」と「フォロワー」が「二項対立」のような白黒はっきりした関係にはならず、まさに混然一体とした「二項同体」の状態にあるのではないでしょうか。
 
であるとすれば、西洋基準のわかりやすいリーダーシップ論よりも、むしろ「日本的なフォロワーシップの強さ」を磨く方が、得意技として良いのではないかと思います。それは決してネガティブなことではありません。「善」と「悪」を峻別し、「悪」を倒して「善」を勝利させる勇ましいやり方ではなく、「アンパンマン」の世界のように上手に「悪」を手なずけ、みんなで支え合ううちに、気づくと、多くの人々が「良い」と感じる世界最先端の場所に到達している可能性があります。それは、日本独特の平和的で調和的なアプローチで、いつの間にか世界に対して「リーダーシップ」を発揮していることにつながる可能性があります。
 
そうなるための原点。それは、お腹をすかせた人に、アンパンでできた自分の顔の一部を差し出すアンパンマンの姿にあります。リーダーが示すそんなやさしさと自己犠牲を見れば、フォロワーたちは、自然にお互いを支え合い、みんなで世界を良くしていこうと思うものです。

 
【リグミの解説】タイトルとリンク
 
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 2013年10月14日(月)【メモ】新世界を語る
 http://lgmi.jp/detail.php?id=1754
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 2013年10月 15日(火)【新聞休刊日】
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 2013年10月 16日(水)【解説】「アンパンマン」の知恵
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1758
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 2013年10月 17日(木)【解説】高度な妥協点を探る政治を
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1761
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 2013年10月 18日(金)【解説】歴史の法廷に立つ覚悟
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1764
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 2013年10月 19日(土)【メモ】近未来の光と影
 http://lgmi.jp/detail.php?id=1767
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 2013年10月 20日(日)【メモ】「望ましい未来」を想う
 http://lgmi.jp/detail.php?id=1768
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━━◆【2013年10月21日(月)~10月27日(日)】 ◆━━━━━━━━━━━━━━
 
【今週の主な予定】
 
10月21日(月) ダイナマイトの発明者アルフッド・ノーベル生誕180年
 
 
【今週の着眼】
 
「死の商人」
 
アルフッド・ノーベルは、ダイナマイトを発明したスウェーデンの化学者、発明家、実業家ですが、今ではノーベル賞の創設者としての名声が上回っています。ニトログリセリンを安定させたダイナマイトは、大ヒットとなり、ノーベルは巨万の富を築きました。ノーベル賞の基金は、ダイナマイトの富によるものというのは、有名な話です。
 
ノーベルは、スウェーデンの鉄工所であったボフォース社を兵器メーカーへと発展させたことから「死の商人」とも呼ばれました。ノーベルの兄が死去したとき、アルフレッドと誤解した新聞が、「アルフレッド・ノーベル博士:可能な限りの最短時間でかつてないほど大勢の人間を殺害する方法を発見し、富を築いた人物が昨日、死亡した」と発表しました。この記事を読んだノーベルは、「戦慄し、以降は自分の死後の評判を非常に気にするようになった」と伝えられています(参照:Wikipedia)。
 
 
「武器を捨てよ!」
 
ノーベルは、ダイナマイトという破壊的な爆薬を発明したことにも苦悩していました。詩人でもあったノーベルにとって、破壊によって大富豪になったことは、大いなる矛盾でした。生涯独身であったノーベルは、一時、秘書兼家政婦となったベルタ・フォン・ズットナーから大きな影響を受けました。ズットナーは、オーストリアの伯爵令嬢で、後に小説『武器を捨てよ!』で平和活動家としての名声を高めた人物です。2人の友情は、ノーベルの生涯に渡ったそうです。
 
二度と「死の商人」といった死亡記事を書かれないために、ノーベルは資産のほとんどを後のノーベル賞設立のために遺贈し、平和と発展への自分の憧れを具体化しました。ノーベル平和賞に詳しい米ジャーナリストのスコット・ロンドン氏は、「なんたって、武器でもうけた資産家と、平和運動の先駆者とが出会ったんです。スリリングじゃありませんか」と語っています。ズットナーは、1905年にノーベル平和賞の最初の受賞者となりました(参照:死の商人から平和の象徴へ、「ノーベル賞」創設秘話)。
 
生前は「死の商人」と批判され、ノーベル賞創設後には「平和への貢献者」と称賛されたアルフレッド・ノーベルは、善と悪を「二項対立」で峻別する西洋流の評価を象徴する人物です。ノーベルはまた、西洋流のリーダーシップの体現者であったとも言えます。日本にも立志伝中の人物が社会貢献の賞や活動母体を創設することはあり、この点で大きな違いはないと思います。ただ、世界全体を見すえたスケールの大きさでは、ノーベルのリーダーとしての志は、一歩抜きん出ていたのだと思います。
 
 
アンパンマン平和賞
 
【先週の核心】で、日本人の心に響く「アンパンマン」の世界は、フォロワーシップの理想郷のようだと述べました。しかしもちろん、フォロワーシップは、日本の専売特許ではありません。ノーベル賞の事例に接すると、偉大な賞を創設したリーダーを大きく称揚し、それを世界一の賞に高めていったスウェーデン人たちの姿は、りっぱなフォロワーシップの事例のように感じます。もし違いがあるとすれば、「西洋流の知恵」は、りっぱなリーダーを生み出す土壌をまず創り、そこにフォロワーたちが集まり大きなムーブメントにしていくことだと思います。
 
一方の日本は、現場の小集団が互いを支え合いながら連携していくフォロワーシップの妙を発揮するケースが多くあります。現場のリーダーは、フォロワーも兼ねながら、一緒に活動しているイメージがあります。アンパンマンのように、困った人のところに飛んでいき、自己犠牲を払う。それに対してジャムおじさんなどがアンパンマンを助け、次の活動ができるようにする。そんな小さな一つひとつの積み重ねが、鎖にようにつながっていきます。
 
アンパンマンに見られる「日本人の知恵」と、ノーベル賞が体現する「西洋流の知恵」。このふたつが連携できると、やなせたかしさんが望み、アルフレット・ノーベルが希求した平和は、もっと確かな形で世界に広がっていくのではないでしょうか。アンパンマンが日本を飛び出し、いろいろな国や地域に平和賞の価値を広める映像が見える気がします。
 
 
━━◆ 今週のロゴス ◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
「たしかに平和は、人間の心のもっとも奥深い希望である」
 
― ジョン・F・ケネディ ― (第35代アメリカ合衆国大統領)
 
 
         *ロゴス: 古代ギリシアで「真理を語る言葉」の意味

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■文責:梅本龍夫
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