2013.10.14 mon

フォロワーシップ <リグミの目>2013年10月14日 

フォロワーシップ <リグミの目>2013年10月14日 



地球儀の日本(ASHNARI)
 
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━━◆【2013年10月7日(月)~10月13日(日)】 ◆━━━━━━━━━━━━━━━
 
【先週の核心】
 
日本人論
 
日本人は「日本人論」が好きです。1868年の明治維新で一気に西洋文明があふれ、国家と社会の在り方が激変しました。その後の戦争の時代を経て、1945年の敗戦によって、日本の国家体制は再び激変し、復興と高度経済成長を成し遂げました。いずれも、「外」の力によって変化がもたらされました。そのことが「日本人論」を求める背景にあると思います。
 
Wikipediaには、「トルコ、韓国、マレーシアなど他の国でも自民族論は盛んである」とありますので、少なくとも日本だけの特殊現象ではなさそうです。ナショナリズム(民族主義、国家主義)の考え方や極端な主張は、世界中のどの国も少なからずあります。そうした主張を正当化するには、自国の民族的、歴史的、地理的独自性などを論じる必要があると思いますが、他国の人々は、そうしたことにどれほど熱心なのでしょうか。
 
事実を調べない印象に過ぎませんが、日本人ほど熱心な国は少ないように感じます。それはおそらく、日本人論への欲求が、ナショナリズムといった狭い価値観の枠の中に留まらないからだと思います。私たちは、「外」を見て「内」を見る相対主義の感覚を強く持っていることが大きく影響しています。

 
「リーダーシップの欠如」
 
先週の「リグミの解説」を書くにあたって、リーダーシップや組織の在り方について連日のように考えさせられました。JR北海道の事故と不祥事、みずほ銀行の暴力団融資問題、福島第1原発の汚染水漏出に関する東電の対応などを見ると、個々の出来事の背後に共通の体質があることに気づかされます。毎日新聞の専門編集委員の西川恵氏は、「組織の風通しの悪さ、組織を構成する個々人のイニシアチブの欠如、マンネリ、閉鎖性と秘密主義」を挙げ、「リーダーシップの欠如」が根幹にあると指摘しています。
 
このことを「日本人論」として見るとどうでしょうか。文化人類学者の杉本良夫氏(オーストラリアのラ・トローブ大学名誉教授)の指摘が、一般に広く共有されている考え方を代表していると思います(以下3点は、Wikipediaの引用)。
 
  1. 個人心理のレベルでは、日本人は自我の形成が弱い。独立した「個」が確立していない。
  2. 人間関係のレベルでは、日本人は集団志向的である。自らの属する集団に自発的に献身する「グルーピズム」が、日本人同士のつながり方を特徴づける。
  3. 社会全体のレベルでは、コンセンサス・調和・統合といった原理が貫通している。だから社会内の安定度・団結度はきわめて高い。
 
「リーダーは、自我が強く個が確立している」「リーダーのもとに結果として集団(フォロワー)がついてくるのであって、リーダー自身は集団を志向しない」「リーダーはひとりで決断し改革する。集団のコンセンサスや調和を破壊することをためらわないのがリーダー」。こうしたリーダー論からすれば、日本人の「リーダーシップの欠如」は、当っているように見えます。

 
リーダーの性格、フォロワーの性格

性格心理学で見ると、確かに強い自我を持つタイプがリーダーになるケースが多いようです。個としての考えや価値観、嗜好がはっきりしており、自己主張を積極的にするので、自然にリーダー格になりがちです。こうしたタイプは、日本人にも一定数います。大雑把に言って、3人に1人はリーダー的な性格です。しかし、杉本氏が指摘するように、社会全体が集団志向的で、コンセンサス型なため、残りの3分の2の方が主流となり、リーダータイプは相対的に目立ちません。
 
これはちょっと不思議なことです。リーダーというのは、定義からして少数派のはずです。みながリーダーでは、ついていく人(フォロワー)がいなくなります。日本はリーダーとなる資質の人が不在なのではなく、多数派のフォロワーの方が強い社会になっている。どうもそのような「日本人論」を想定した方が、わかりやすい気がします。

 
言語と国民性

理由は2つ考えられます。1つは「言語」です。日本語は、しばしば主語を省きます。これは、個や自我の強さを消す効果があります。また動詞が最後に来るので、発言が肯定か否定か最後にならないとわかりません。これが微妙に自己主張を和らげています。そしてしばしば、自分や相手を名前でなく役割名で呼びます。子どもができると妻が「ママ」になり、孫ができると「おばあちゃん」になるのが典型例です。「リーダー」であるべき親や祖父母が、子や孫という「フォロワー」を中心に置いた会話をする。これはとてもユニークな感覚です。
 
2つ目の理由は「国民の性格」です。個人個人に性格の違いがあるように、個人の集合体である国家にも性格の特徴があります。いわゆる国民性は、個人の性格タイプのうち、あるタイプが主流になったものです。たとえば米国は、移民による開拓の歴史の結果、強いリーダーの性格が好まれ、主流となりました。日本は、ある意味で米国と正反対です。社会の安定を維持し、集団の調和を保つフォロワーの性格が伝統的に主流であり、それは今日でも変わりません。

 
フォロワーシップを磨く

私がここで提示した言語と性格の特徴に基づく「日本人論」も、ひとつの仮説に過ぎません。そのことを前提に、JR北海道、みずほ銀行、東京電力など、日本の組織に蔓延する典型的な問題を解決する方向性を考えたいと思います。「フォロワーシップを磨く」。それが解決案です。
 
フォロワーシップ論は、リーダー不要論やリーダーシップの否定ではありません。フォロワーがいてリーダーが成り立つように、リーダーシップとフォロワーシップは一対のものです。「~シップ」(-ship)という英語の接尾語は、「状態・性質」を表わし(例:friendship)、また「身分・地位」を示します(例:professorship)。また「能力・技量」も意味します。リーダーシップは、3番目のものです(参照:広辞苑)。フォロワーシップもまた「能力・技量」です。それはどのようなものなのか。
 
フォロワーシップは、リーダーに隠忍自重し従う精神ではありません。「清濁併せ呑み、現場でリーダーの意向を実現すべく頑張る」。一見、素晴らしいフォロワーシップに見えますが、これは間違いの元です。真のフォロワーシップは、自分の理想とすることをリーダーに求め、リーダーのビジョンや戦略を補佐し、その実現を厳しく求めていき、自ら率先して現場に入り行動する姿勢を指します。優れたフォロワーは、優れた資質をもったリーダーを選びます。そしてリーダーの資質が開花するように促します。そんなフォロワーシップを前提とした、新しい「日本人論」をこれから考えていきたいと思います。
 
 
【リグミの解説】タイトルとリンク
 
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 2013年10月7日(月)【解説】パブリック・ストーリー
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1735
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 2013年10月 8日(火)【解説】2つのリーダーシップ
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1738
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 2013年10月 9日(水)【解説】「物分かりの良さ」を捨てる
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1741
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 2013年10月 10日(木)【解説】「下意上達」に目覚める
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1744
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 2013年10月 11日(金)【解説】フォロワーシップを考える
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1747
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 2013年10月 12日(土)【メモ】平和賞のメッセージ
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1749
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 2013年10月13日(日)【メモ】パイを奪う、分ける、作る
 http://lgmi.jp/detail.php?id=1750
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━━◆【2013年10月14日(月)~10月20日(日)】 ◆━━━━━━━━━━━━━━
 
【今週の主な予定】
 
10月20日(日) 皇后さま79歳の誕生日
 
 
【今週の着眼】
 
現存する世界最古の王家

今週の日曜日、皇后美智子さまが79歳の誕生日を迎えます。美智子さまは、1959年に皇太子明仁親王と結婚、明治以降初めての民間出身の皇太子妃となりました。皇太子妃として30年、皇后になられて24年です。今上天皇との仲睦ましい姿は、国民に新しい皇室の姿を印象付けました。そして、東日本大震災を初め、苦難に耐える国民のもとに赴き、膝を折って熱心に慰問される姿に勇気づけられた国民は多いと思います。
 
古代国家では、王家は神話とともにありました。国を支配する正統性を神々から譲り受けたという物語が必要だったからです。皇室(天皇およぼ皇族)も「日本書紀」に、太陽神である天照大神の孫の孫となる神武天皇が初代と記されています。「王家の始祖が神(神々)や神話と結びつく事例は、歴史上、世界各地で多数の事例が存在するが、現存する国連加盟国の君主制国家の中では唯一の事例」といわれます。また「現在まで続いている皇統としては世界最古」です(引用部分:Wikipedia)。

 
国民の象徴

明治憲法では、天皇は「主権者」(天皇大権)でしたが、現憲法で「国民主権」が確立し、天皇は「日本国の象徴」となりました。皇室の長い歴史の中で天皇に政治の実権があった時期は限られていると言われます。むしろ、時の権力者に正統性を与える根拠として、皇室が存在したのではないでしょうか。
 
神話の神々が王に地上を支配する正統性を与えるように、天皇が時の権力者に国家を統治する正統性を与える。こういう二階建ての構造が長く日本の政治を特徴づけてきました。明治憲法においても、天皇は独裁的な権力者ではなく、実際には権力構造の頂点にある神輿に乗った存在であったのだと思います。
 
「現人神」であった昭和天皇が戦後、「人間宣言」をし、象徴天皇となったため、天皇制は激変したという印象があります。しかし歴史をひもとくと、「国家統治の象徴」としての皇室や天皇制は一貫して続いてきたことになります。そのことを憲法に明示し、間違いが起きないようにしたのが戦後日本の政治体制です。

 
フォロワーシップの源泉

【先週の核心】のテーマは、フォロワーシップでした。世界のリーダーになろうとする米国と比べ、日本はフォロワーの位置を取ろうとすることが多い理由を、言語や国民性から読み解こうとしました。では、日本人の国民性を歴史の文脈に置くと、見えてくるものは何か。それは、「天皇制」が果たした役割の決定的な大きさです。
 
伝統的な右翼は、「日本国民は天皇の赤子(せきし)」という表現をしました。天皇を恵み深い親にたとえて、その子が国民であるという考え方を反映したものです。今日では、保守色の強い人でも、まずこういう表現はしません。戦前の「現人神」につながるイメージが強すぎるからです。しかし、思想信条のことは脇に置き、日本人のメンタリティーを考えると、「天皇の赤子」は、かならずしも過去の遺物ではないと思います。
 
子どもができると妻が「ママ」になり、孫ができると「おばあちゃん」になるという例を挙げましたが、このメンタリティーは、無意識的に天皇と国民の間で今も維持されているのではないか。もしそれが正しいとすると、「国家の象徴」である天皇が、国民の心の中のリーダーの地位を維持していることになります。しかし言うまでなく、天皇はリーダーではありません。では、自分をフォロワーと思っている国民は、一体誰に、そして何に従っているのか。
 
政治や行政を「お上」と呼ぶ伝統は、今も根強くあります。日本人の「リーダーシップの欠如」は、象徴天皇制という長い歴史と伝統の文脈の中で、時の権力構造に投影されてきたのかもしれません。「虐げられた被支配者」ではなく、「赤子として養育される臣民」。こういうメンタリティーを解体し、「国家の象徴」の心理的な意味を再定義する必要がありそうです。上下関係ではなく、水平に広がる円の中心に「天皇」が存在する。そういう関係性を自覚することが、「日本型のフォロワーシップ」の出発点になる気がします。
 
 
━━◆ 今週のロゴス ◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
「最初のフォロワーの存在が、ひとりのバカをリーダーへと変えるのです」
 
― デレク・シヴァース ― (米国の起業家)
 
【TED】 http://www.ted.com/talks/derek_sivers_how_to_start_a_movement.html
【aoky.net】 http://www.aoky.net/articles/derek_sivers/how_to_start_a_movement.htm
 
 
         *ロゴス: 古代ギリシアで「真理を語る言葉」の意味
 
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■文責:梅本龍夫
© League Million Inc.
 

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