【リグミの解説】
「2プラス2」の報道姿勢
本日の新聞1面は、日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の開催を大きく報道しています。最大のテーマは、東アジアの海洋での活動が活発化している中国への対応をどうするかでした。その競技内容や日米の思惑について、各紙の報道スタンスに違いがあります。
「集団的自衛権を歓迎」―読売
読売は、1面トップ記事のサブタイトルに「集団的自衛権を歓迎」と掲げ、安倍首相が意欲を示す課題をサポートする姿勢を示しています。他紙は、集団的自衛権の行使容認に向けた安倍政権の取り組みを「米側が歓迎」と表記していますが、その点を強調していません。読売と日経は、総合面などで「尖閣防衛へ改定急ぐ」「米『意義深い一歩』」(読売)「日米、中国台頭に警戒感」(日経)といったタイトルにより、日米が中国を意識し共同歩調を取っている印象です。
「日米、同床異夢」―朝日
一方、朝日、毎日、東京の3紙は、1面で「中国の台頭に対応」(朝日)「尖閣などに対応」(東京)と報道した上で、総合面などでは「日米、同床異夢 中国との衝突を懸念」(朝日)「『尖閣』で温度差 日・有事未満を想定 米・役割の縮小狙う」(毎日)「対中国で日米にズレ 合意文書 警戒示す文言なし」(東京)などの見出しで、日米の思惑のすれ違いを強調しています。
拳を握りしめ身構えるイメージ、手を開いて握手するイメージ
図式的に言えば、読売・日経の報道では「日米が膝詰めして中国の脅威に対応する方法を協議し、意気投合している」図が浮上してくるのに対して、朝日・毎日・東京は「中国に対し両こぶしを上げガードを固める日本に対し、米国は手を開いて中国と握手をし肩に手を回そうとする」図が見えます。どちらが事実により近いのでしょうか。
日米「2プラス2」の開催は2年ぶりであり、1990年に現在の枠組みができて以来、4閣僚がそろって日本で会談するのは初めてです。読売と朝日は、安倍首相を中心に4閣僚が手を重ねる写真を掲載し、日米の緊密ぶりを強調しています。ハードパワーの拡張を続ける中国と、核やミサイルの脅威が現実的な北朝鮮の存在により、日米協調の必要性が強まっているのは、間違いないと思います。
千鳥ヶ淵墓苑に献花
しかし私は、このことよりも、ケリー国務長官とヘーゲル国防長官がそろって千鳥ヶ淵墓苑を訪問し献花したことに注目しました。読売は、「靖国神社ではなく、無宗教施設の同墓苑で戦没者の冥福を祈ったことで、日本政府内に『安倍首相に靖国参拝をしてほしくないというメッセージ』との受け止め方が出ている」と伝えています。
朝日は、デジタル記事で「異例だったのは、2人がまず訪れたのが、皇居近くの千鳥ケ淵戦没者墓苑だったことだ。国立の同墓苑は特定の宗教にとらわれず、A級戦犯らが合祀(ごうし)されている靖国神社とは異なる。同墓苑によると米政府の閣僚が訪れるのは初めてという」と報道。「この時期に米国の2閣僚が千鳥ケ淵に足を運んだのは、先の大戦を巡って関係が膠着(こうちゃく)状態にある日中韓に対し、大戦の当事国でもあった立場から和解の重要性を示したとも見て取れる」としています(引用:
朝日新聞デジタル)。
戦没者追悼という儀式
日本の首相が外国を正式に訪問すれば、その国の戦没者追悼施設に献花をします。その国の歴史と国民の犠牲に哀悼と尊敬の気持ちを表するのは、国家元首の当然の務めだからです。ところが日本を訪問する国家元首や閣僚などは、外交問題、政治問題で紛糾する靖国神社を訪問しません。靖国に代わる中立的な戦没者墓苑がないため、献花ができないでいると言われてきました。
千鳥ヶ淵戦没者墓苑は、第二次世界大戦の折に日本国外で死亡した日本軍人・一般人のうち、身元が不明の遺骨や引き取り手のない遺骨を安置するため、1959年(昭和34年)につくられました。背景には、1953年に来日したアメリカ合衆国副大統領のリチャード・ニクソンが、靖国神社参拝を断ったという経緯もあるそうです(引用:Wikipedia)。
日中韓が中立的な追悼施設に献花する日
靖国神社に代わる宗教的に中立な追悼施設の必要性は、かねてから議論されているテーマです。新たに創設するには、対立する立場や主義主張を織り込む難しいプロセスを重ねなければなりません。千鳥ヶ淵がそれに代わる現実的な選択肢となることが、今回の米国の2長官の献花であらためて示されました。このことは、もっと報道されるべきではないでしょうか。
日中、日韓のこじれた関係を解消するには、首脳同士の直接対話が何より必要です。しかしそれには外交事務レベル、そして閣僚レベルでの粘り強い話し合いと交渉が不可欠です。「門戸は常に開かれている」と安倍政権は言い続けています。それは正しいメッセージですが、自ら相手の懐に飛び込まなければ、対話は始まりません。閣僚レベルが、お互いの国の中立的な戦没者墓苑に献花する。そうした象徴的な行動を取れるように準備をする。政治の裏舞台で進めるべき大事な仕事のひとつであると思います。
(文責:梅本龍夫)
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(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
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