2013.08.21 wed

新聞1面トップ 2013年8月21日【解説】日本語と英語

新聞1面トップ 2013年8月21日【解説】日本語と英語


【リグミの解説】

英語の必要性
「英語」、どれぐらい重要なのでしょうか。読売新聞の連続企画「NIPPON甦れ」の本日の記事は、「『英語』『待遇』大学に試練」です。
 
「授業で使う言語がほとんど日本語であることを考えると、際立って多い」。経済協力開発機構(OECD)の6月の調査によると、日本の留学生受け入れ状況は3.5%で、米国、英国、ドイツ、フランス、オーストラリア、カナダ、ロシアに次いで8番目です。読売は、OECDのコメントを「喜ぶべきか、皮肉ととるべきか」と悩んでいます。日本への留学生の93%はアジアからで、欧米からは少ないのが実情です。
 
英語公用語論
明治維新後、日本語ではなく英語を公用語にすべきという議論がありました。一橋大学創設者で初代文部大臣となった森有礼は、25歳の時にイエール大の教授に「日本語がいかなる目的にも役立たない言語であるから、文明語である英語を日本帝国に導入したい」とい趣旨の手紙を書きました(引用:「日本における英語教育と英語公用語化問題」)。
 
 
半強制的に開国をさせられた明治維新後は、欧米列強に植民地化されないために、強く豊かで先進的な文明国の仲間入りを一日も早くする必要がありました。森有礼に代表される英語公用語論は、世界標準の言語を採用することの効用を最優先する発想でした。2000年代に入って、グローバリズム論が再び高まり、今度は企業レベルで英語の公用語化の動きもあります。
 
グローバル化とは何か
そもそもグローバル化とは何か。入山 章栄・米ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授は、グローバル企業の1つの定義として「世界で通用する強みがあり、それを生かして世界中でまんべんなく商売ができている」ことを挙げ、「世界中からまんべんなく売り上げを得ている企業が真にグローバルな企業」と指摘しています。
 
この定義でアラン・ラグマン米インディアナ大学教授が分析をしました。フォーチューン500社中データのある365社で、「北米地域」「欧州地域」「アジア太平洋地域」の売上げ比率を見たところ、ほとんどの企業がホーム地域の依存度が高いという結果が出ました。
 
そして、「世界の主要三地域で、まんべんなく売り上げている企業」は、9社しか存在しませんでした。「真にグローバルな企業」はほとんど存在しないというこの発見は、経営学者たちにとっては衝撃的なものだったそうです(以上の参照・引用:日経NBO)。
 
 
英語と日本語
教育現場に外国人教員や留学生を増やしていく「開国」。外国人観光客を増やす「開国」(参照:「リグミの解説」8月19日)。そして「モノやサービスを世界中にまんべんなく提供するグローバル企業を増やすという「開国」。このいずれも、「英語」の扱いを避けることはできません。
 
外資系企業に勤めたり、外国の企業との合弁事業の交渉などをした経験から言っても、英語がビジネスに必要であることは論を待ちません。しかし、若くして英語づけになると、英語交じりの奇妙な日本語を使うようになりがちです。
 
後に英語を使える社員がほとんどいない日本企業に転職したとき、「言葉が通じない」状態になりました。そこで、外来語を一切使わず、すべて日本語に置き換えてコミュニケーションをするようにしました。その結果、日本語は実に豊かな表現力をもつことを知り、目からウロコの体験となりました。
 
文明軸と文化軸
英語問題は、2つの軸で考える必要があります。1つは「文明軸」です。文明は、発展度合や便利さ、効率を競うものであり、「より優れたもの」「より大きなもの」「より影響力のあるもの」に収斂(しゅうれん)されていきます。英語が世界の標準言語となったのは、まさに文明の優劣判断の結果であったと思います。
 
これに対して「文化軸」があります。文明が普遍性や共通性を打ち出すのに対して、文化は個性と多様性を大切にします。この2つの軸は「Tの字」のような関係です。文明は鍋や器であり、文化は器の中に入れる材料や料理ともいえます。言葉を代えれば、「語るべき文化(個性、多様性)」がなければ、英語という共通言語を活かすことはできない、ということです。
 
私のささやかな経験に即して言えば、英語教育の強化は、日本語教育の強化と同時でなければならないと思います。そして、日本語教育は、日本の文化や歴史、伝統についての知識や経験を含みます。日本を語れなければ英語を操れても空疎です。逆に豊かな日本語を身に付け、日本の文化や歴史を学んだ後は、積極的に海外に出たり、国内にいる外国人と交流すべきです。そうすれば、日本語と英語の「Tの字」が大きな果実をもたらしてくれます。
 

(文責:梅本龍夫)



  1. 【政府広報】 「ホテル耐震強化 政府与党 設備投資を促進 『省エネ』『空き家』も」
    http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130820-OYT1T01402.htm
  2. 【連続企画】 「『英語』『待遇』大学に試練 ~NIPPON甦れ 吸収4.」
  3. 【独自取材】 「福島第一 汚染水、漏出止まらず 深刻度『2』へ引き上げ検討」
    http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20130820-OYT1T01091.htm

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 【政府広報】 「派遣労働、拡大へ転換 26の専門業務区分、撤廃 厚労省研究会が最終報告」
    http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201308200670.html
  2. 【独自取材】 「集団的自衛権、憲法解釈変更難しい 山本最高裁判事・前法制局長官」
    http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201308200644.html
  3. 【独自取材】 「部活で頭部大けが年500件 中高生、総治療件数は26万」
    http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201308200659.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 【独自取材】 「福島汚染水 タンク漏れ、1ヵ月放置 事故評価上げ 350基緊急点検」
    http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130821ddm001040047000c.html
  2. 【独自取材】 「追加緩和『ちゅうちょせず』 黒田総裁、景気失速なら 本紙会見」
    http://mainichi.jp/select/news/m20130821k0000m020056000c.html
  3. 【独自取材】 「集団的自衛権『改憲が適切』 山本最高裁判事 解釈変更『難しい』」
    http://mainichi.jp/select/news/m20130821k0000m010057000c.html

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 【独自取材】 「国有企業の優遇廃止へ TPP、最大5年猶予 新興国に公平な競争促す」
    http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF2000P_Q3A820C1MM8000/
  2. 【連続企画】 「機動力奪う『民主主義』 理想の学長どう選ぶ ~大学は変われるか―『決める組織』へ2.」
    http://www.nikkei.com/article/DGKDZO58741950R20C13A8MM8000/
  3. 【政府広報】 「カタールで再生医療 日本の技術や人材 一体で売り込み 政府が拠点」
    http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS13027_Q3A820C1MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 【独自取材】 「タンク底から漏れる? 福島第一、汚染水300トン 規制委 事故レベル上げも」
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013082102000113.html
  2. 【独自取材】 「集団的自衛権 『憲法解釈では容認困難』 最高裁判事就任 山本前法制局長官 『改憲は国民の判断』」
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013082102000117.html
  3. 【独自取材】 「『国旗・国家強制』記述の教科書 神奈川教委、採択せず」
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013082102000114.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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