2013.08.16 fri
犠牲者数の報道
新聞と切っても切れない関係にある数字が、死者や傷者の数です。本日の1面記事では、①京都の花火大会で屋台が爆発、②エジプトで治安部隊とモルシ派が衝突、③硫黄島の集団埋葬地―の3つの記事が目を引きました。
花火大会では、58人がけが、19人が重傷と報道されています。夏の風物詩が暗転した現場を想像するとこわいものがあります。安全を疑わず、安心して出かけた場所に大きな危険があったことを思い知らされる事件です。
エジプトの騒動は、死者が500人を超えたと報じられています。これでは内戦状態です。「アラブの春」で独裁体制を倒したエジプト民衆は、2年半後に再び大きな混乱状態に巻き込まれています。事態は、革命前より深刻かもしれません。
「非暴力の装置」
民主主義は、面倒で思い通りにならない体制ですが、じっくり育てることで非民主的な体制よりもずっとましだと気付かされるものです。世界がエジプトから学ぶべき教訓はどこにあるでしょうか。私は、民主主義とは「非暴力の装置」であるという基軸を確認すべきだと考えます。
硫黄島では、約2万2000人の日本兵が戦死しました。そのうち約1万2000人の遺骨がまだ見つかっていません。今回の読売の記事は、米国立公文書館で、約2000人が集団埋葬された場所の写真が見つかったというものです。
花火大会の事故では、けが人の数が正確に特定されていますが、騒乱のエジプトでは、百人単位での死者数の推定です。そして、激しい戦闘があり最後はほぼ全滅した硫黄島の戦死者数に至っては、千人単位に丸められています。
戦争の犠牲者数
Wikipediaを見ると、硫黄島の戦いで、米軍は「戦死 6,821、戦傷 21,865」という正確な数字が残っていますが、旧日本軍は「戦死 17,845-18,375（軍属82を含む）、捕虜 1,023」という内容です。読売の記事の2万2000人という数字を含め、戦死者の全体像と詳細がわからない現実が浮かび上がってきます。
新聞各紙を読むと、8月のこの時期、戦争の犠牲者の数が紙面に繰り返し記されます。アジア・太平洋戦争（1931年の満州事変から終戦の1945年までの15年戦争）での日本の軍人と民間人の犠牲者は310万人とされます。その大半は戦争末期の1年間に集中しています。
一方、アジア全体では約2000万人が戦争の犠牲となったという数字が載っていました。十万人単位、百万人単位、一千万人単位で丸められてしまう死者数。これは、戦争の愚かしさを示す数字であるとともに、戦争が人間の感覚・感性を麻痺させてしまう麻薬のようなものであることも自覚させられます。
民主主義の「普通」とは
私は、民主主義は「非暴力の装置」だと書きました。これは、多分に理想主義的な発言であり、現実の世の中を見れば、民主主義の先進国家においても、治安維持を名目とした非民主的な暴力が見られます。それでも、民主主義の仕組みを愚直に改善し、創意工夫の取り組みを続ければ、暴力を排除した問題解決能力をどんどん高めていくことが可能です。
民主主義の基本軸には、基本的人権と国民主権があります。そのことの意味は、国民一人ひとりが主役であり、相対化されない個として存在しているということです。「非暴力の装置」が有効に機能すれば、たとえ騒乱があったとしても、犠牲者数が約〇〇人と丸められるような規模に発展することはありません。これを「理想」ではなく、「普通」のことにするのが成熟した民主主義国家です。
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（YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/）
（朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/）
（毎日jp http://mainichi.jp/）
（日経Web刊 http://www.nikkei.com/）
