【リグミの解説】
「戦争と平和」
お盆の時期は、「戦争と平和」について静かに振り返る時期ですが、世界に目を転じると、今も紛争の種がそこかしこに撒かれていることに気づかされます。本日の朝日新聞の1面3番記事は、「反イスラム、ミャンマー過激仏教僧」です。
この記事は、タイム誌7月1日号の表紙を大きく掲載。ミャンマー仏教僧ウィラトゥ師の顔写真と共に、「The Face of Buddhist Terror」(仏教テロの顔)というタイトルが目に飛び込んできます。「仏教」と「テロ」という単語の組み合わせに違和感を持つ人も多いと思います。ミャンマーで何が起きているのでしょうか。
ミャンマーの宗教対立
朝日によると、ミャンマーは人口6300万人で9割が仏教徒です。その他に約4%ずつキリスト教徒とイスラム教徒がいます。一方で、135の民族がいる他民族国家でもあります。仏教徒中心のビルマ族が6~7割の多数派で、イスラム教徒の大半はインド系です。1948年の独立以来、宗教や民族対立続いてきました。昨年、イスラム教徒の民族と仏教徒の民族が衝突した事件では、192人が死亡し、14万人が避難民となったままだそうです。
そんな国内状況を背景に、ウィラトゥ師は、ミャンマー仏教が危機に陥っていると主張し、イスラム教徒男性と仏教徒女性の結婚を規制する法律の実現を目指しています。ウィラトゥ師は、「仏教の防衛が目的であり、他宗教を攻撃するものではない」と語りますが、過激な発言内容でイスラム教徒を刺激しているとの懸念が持たれています。
地政学的な背景
朝日の記事を読むと、仏教徒側がイスラム教徒に対して強く出ていることで、ミャンマー周辺国の仏教寺院やミャンマー大使館などを狙ったイスラム過激派のテロ行為や未遂事件が増えているという印象を受けます。ただ、イスラム教徒側の取材がなされていないので、この記事だけでミャンマーで起きていることを客観的に判断するのは難しいです。
背景には、元々仏教国であった国がイスラム教に改宗する動きがあるようです。ウィラトゥ師は、「アフガニスタン、パキスタン、インドネシアなどかつて仏教国だった国々が次々とイスラム化した。だからミャンマー仏教徒は信仰を強く守らなければならない」と主張しています。
仏教本来の立ち位置
朝日の記事で、ミャンマー仏教側の危機感は伝わってきますが、ウィラトゥ師の主張に素直に首肯できないのは、仏教らしからざる過激な内容だからです。イスラム教は、時に「砂漠の一神教」の激しさを体現するとみなされてきました。同じ源をもつキリスト教も、十字軍の歴史に見られるように、異教徒を排斥する過激さを秘めてきました。これに対して「森の多神教」と対比される仏教は、異教徒や異なる価値観と対立せず、違いをやわらかく包み込み、共存する宗教とみられました。
日本史をひもといても、9世紀初頭に最新の仏教理論であった密教を中国から持ち帰った空海について、次のような神話が伝承されています。山の聖地を求めた空海は、導かれて高野山に入山。すると、素性を明かさない犬飼が顕われました。空海が調べると、高野山の奥に女神が祀られていることを知りました。神道の女神は、仏教の最新理論を携えた空海を歓待し、高野山を真言宗の聖地とすることを認めました。こうして、空海の密教は、土地の宗教と争うことなく、共存共栄の教えとして定着しました。
日本の仏教史にも、より過激な他宗派の排斥運動もありましたので、「仏教=平和的」と断言はできませんが、恐らく世界の宗教を比較する学問をひもとけば、仏教の「平和指数」は、相当に高いものがあるはずです。
日本の「平和主義」を輸出する
宗教間の対立と、近代の国民国家観の対立や戦争は、根っこに同じ構造を持っているように思われます。それは、自分たちを絶対視し、他者に不寛容なことです。ミャンマーで起きていることは、第二次世界大戦後の長い歴史の集積があり、宗教だけで語れないものがあります。多民族の問題、そして国民国家の価値観の問題抜きに、宗教対立は語れないのかもしれません。そうした認識を前提に、提言したいことがあります。
日本は、戦後一貫して「平和主義」を守ってきました。政治体制は、過去の反省に基づき、政教分離を徹底しています。四囲を海に囲まれた日本は、積極的な移民政策がないことも含め、イスラム教などの「異教徒」が大量に押し寄せることもありません。いわば「一国平和主義」が政治・社会・宗教の全般に渡って担保されてきたともいえます。
そうした日本が、未来の安全保障の在り方を学ぶステップとして、「多国間平和主義」(地域の平和体制の構築)をめざし、一歩前に出てはどうかと思うのです。ミャンマーの問題に関しては、政治家ではなく、日本の名だたる宗教家が声を上げ、異民族と異教徒との融和の促進に向けて何ができるか模索すると良いと思います。それは、日本が発揮できる貴重な「ソフトパワー」へと結実していくのではないでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
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