【リグミの解説】
「集団的自衛権」が浮上
参議院選挙とは何だったか。国政の重要課題を論じないで、景気回復だけで評価する。国民もそれで良しとする。私たちは、民主主義を大事に思うのであれば、ものごとがなし崩しに進むことを見過してはならないと思います。その最たるものが、「集団的自衛権」です。
日本国憲法の3本柱「国民主権」「基本的人権」「平和主義」のうち、「平和主義」を象徴するのが第9条です。これが現状と合わないというのが改憲論議の肝です。そこを丁寧に時間をかけて議論を重ね、国家の進む方向性のコンセンサスを作り上げていくのが民主主義のアプローチです。
これに対して、今進んでいる集団的自衛権の解釈変更の方向性は、改憲はハードルが高いから、「黒」を「グレー」、「グレー」を限りなく「白」と言い換えようという動きであり、憲法論議を回避する動きです。しかも、公でないところで密かにレールが敷かれていくように見えることも大きな問題です。
「歯止め」をどこでかけるか
最大の争点は、自衛隊の戦闘行為の歯止めをどこでかけるかです。読売新聞の本日の社説は、政府の憲法解釈変更を容認する立場から、次のように指摘しています。
・ 「まず集団的自衛権の行使を容認したうえで、実際に自衛権を行使するかどうかは、政府がその時点における内外の情勢を総合的に勘案し、判断すればいい。他国への侵入や攻撃はしないなど、一定の歯止めは必要だろう」
現実主義的な発想で、政府主導の安全保障体制を推進する立場を解説したものです。問題は、「一定の歯止め」が後付けの論理になっていることです。現憲法は、武力行使について徹底した歯止めをかけることで「平和主義」を際立たせています。読売の主張どおりになると、憲法解釈は時代とともにどんどん緩く低い歯止めへと変質していくことになりかねません。
「戦争ができる国」をめざすのか
朝日、毎日、東京の3紙は、社説などで「集団的自衛権」の解釈変更を批判しています。毎日のタイトルは「集団的自衛権 なし崩しはいけない」、東京新聞は「なし崩し変更赦されぬ 集団的自衛権を考える」です。一方、朝日は元法制局長の坂田雅弘氏のインタビュー記事を掲載。坂田氏の主な発言は以下の通りです。
・ 「日本国憲法の特異なところは9条2項だ。『戦力を持たない』とあるのに自衛隊の存在が許されるのは、国民を守るため外国の攻撃を排除するだけの実力組織が必要だからだ。それを超えて海外での武力行使まで許容されるというのは、憲法全体をどうひっくり返しても余地がない」
・ 「政府の憲法解釈は自衛隊発足からこれまで一貫している。この解釈がおかしいという論理をどう見つけるのか。集団的自衛権の行使を認めれば、日本は国際法上、適法な戦争は全部できる国になる」
「平和主義」の要諦
坂田氏の主張とは違う考え方や解釈はあって然るべきです。民主主義は、異なった立場や価値観をもった人々がコンセンサスを作る面倒な手続きを言います。その時々の政府が継承してきた憲法解釈を変えるのであれば、まずは自衛隊の戦闘行為の「歯止め」がどこにあるのかを明らかにする必要があります。その上で、広く国民に議論を委ねるべきです。
「平和主義」とは、「戦争をしない」と宣言することだけではありません。他国に「戦争をさせない」環境を醸成していくことを含みます。我が国の安全保障上の現実を踏まえ、何が何でも戦争だけは回避するという基本姿勢を貫くのが、「平和主義」の要諦です。
（文責：梅本龍夫）
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