2013.08.07 wed

新聞1面トップ 2013年8月7日【解説】「本当のこと」の金銭価値

新聞1面トップ 2013年8月7日【解説】「本当のこと」の金銭価値


【リグミの解説】

新聞報道の在り方
東日本大震災後、福島第1原発事故の報道について、「政府広報」的な報道を繰り返した新聞は、大きな批判に晒されました。事故の内容や放射線の影響など、「本当のこと」を知りたい読者のニーズに対し、新聞は十分な役割を果たせませんでした。
 
リグミの活動として、新聞の1面記事や社説などを読み比べ、解説を書く活動を始めて1年以上経ちました。新聞5紙を比較し「サードビュー」(客観的な第3の視点)の提供をめざしてきた立場から感想を申し上げると、新聞各社は批判に応え紙面づくりの工夫を進めてきた部分もたくさんあります。一方、特に1面記事は相変わらず「政府広報」的な報道が多く、「本当のこと」が見えづらい状況は続いています。
 
米ワシントン・ポストの買収
そんな中、米国のワシントン・ポスト紙がアマゾン創業者のベソス氏に買収されるとの記事が飛び込んできました。ワシントン・ポストの歴史について、東京新聞のコラム「筆洗」に興味深いエピソードが書かれています。
 
・ ワシントン・ポストの社主が自殺し、46歳の妻・キャサリン・グラハムさんは突然に同紙の経営をすることに。厳しい決断を迫られる日々の連続となった
・ ライバル紙ニューヨーク・タイムズがベトナム戦争に関する国防省の機密文書をスクープ。政府要請で裁判所は掲載差し止めを要請。ポスト紙は、独自入手した文書を掲載すべきか判断に迷った。法を無視して掲載すれば経営危機を招く可能性がある。キャサリンさんは、「会社を潰すかも」と口に。そのときスタッフが「新聞を潰す方法はひとつだけでない」と示唆
・ ウォーターゲート事件では、孤立無援でホワイトハウスの攻撃にさらされ続けた。キャサリンさんは、情報源を守るために、自ら刑務所に入れられる覚悟もしていた
 
「クオリティー・ペーパー」
ワシントン・ポストは、発行部数約66万部の新聞です。東京新聞が約55万部ですから、メジャー地方紙の規模です。欧米の代表的な新聞のひとつで、米ニューヨーク・タイムズ(100万部)、英エコノミスト(160万部)、英ガーディアン(33万部)、仏ルモンド(35万部)などと並んで、「クオリティー・ペーパー」とも呼ばれ、記事のレベルの高さでは定評があります。
 
ベソス氏がワシントン・ポスト紙のどこにどのような価値を見出し、買収したのかはまだわかりません。ブルームバーグは、「電子商取引業界での成功を経営難の新聞業界に応用できるという賭けに出た格好だ」と報じています。ベゾス氏は発表資料で「ワシントン・ポスト紙が首都ワシントンおよび米国で果たしている役割の重要性を私は理解しており、同紙の価値が変わることはないだろう」と述べています(引用:Bloomberg.co.jp)。
 
 
日本の全国紙は、読売(約1000万部)、朝日(約800万部)、毎日(約350万部)、日経(約300万部)、産経(約170万部)と、世界的にも異例の規模です。どこも経営は楽ではないようですが、特に下位の毎日、産経は長く経営難が伝えられています。米国では、今回のベソス氏のように、資産家が新聞紙を買収する動きが広がっているようです。日本の新聞社の経営の独立性は、今後どう確保されるのか、注目されるところです。
 
「本当のこと」の金銭価値
「本当のこと」(事実、ファクト)を掘り起し、「真実の物語」を読者に提示するのが新聞の使命です。そのためには、新聞記者は、ワシントン・ポスト紙のように、時に経営を賭して、あるいは身の危険を冒しても、スクープをものにする必要があります。そうしたことは、ビジネスとしては、不効率で投資に見合わないこととみなされる可能性があります。
 
しかし、世の中には、「儲かればいい」というという観点では測れない「価値」が存在します。日本の新聞も、発行部数の多さという資産にあぐらをかかず、日本の「クオリティー・ペーパー」と呼ばれるレベルを目指して欲しいと思います。同時に私たちは、「本当のこと」を知るために、応分のお金を払う(投資する、募金する、諸々の支援をする)覚悟があるのか、問われています。
 

(文責:梅本龍夫)



  1. 【政府広報】 「派遣雇用3年後も継続 同一職場 働く人交代なら 厚労省案 無期派遣の業務制限撤廃」
    http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130806-OYT1T01080.htm
  2. 【企業広報】 「中部電、東電管内で販売 三菱系小売買収へ 電力自由化受け」
    http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130807-OYT1T00132.htm?from=ylist
  3. 【調査記事】 「景気『回復している』95% 本社と日テレ主要116社調査 ねじれ解消『評価』80%」
    http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130806-OYT1T01534.htm?from=ylist

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 【企業広報】 「中部電、首都圏で売電 新電力買収 地域越え競争へ」
    http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201308060684.html
  2. 【独自取材】 「『原爆の子』生き抜いた戦後 37人『その後』出版へ 差別の苦しみ 放射線の恐怖」
    http://www.asahi.com/shimen/articles/OSK201308060212.html
  3. 【独自取材】 「『原因究明なき基地設置困難』 沖縄知事」
    http://www.asahi.com/politics/update/0807/TKY201308060749.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 【独自取材】 「原発輸出、周知指針なし 予定地住民向け 政府5年放置」
    http://mainichi.jp/select/news/20130807ddm001020074000c.html
  2. 【独自取材】 「慰安所従業員が日記 『慰安婦、部隊上映の映画見学』 『兵站の命令で、再び慰安婦に』 ビルマなど 朝鮮人男性つづく」
    http://mainichi.jp/select/news/m20130807k0000m040125000c.html
  3. 【政府広報】 「震災で転校、なお2.4万人 1800人減 福島から県外1.1万人」
    http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130807k0000m040044000c.html

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 【政府広報】 「汚染水対策、国費で 福島原発に遮水壁 東電任せを転換」
    http://www.nikkei.com/article/DGKDASDF0600Z_W3A800C1MM8000/
  2. 【連続企画】 「支える苦労と充実感 我ら子育て同盟 ~Wの未来 男も動く①」
  3. 【企業広報】 「中部電、新電力を買収 三菱商事系 首都圏で越境販売 火力発電も新設」
    http://www.nikkei.com/article/DGKDZO58209530X00C13A8MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 【連続企画】 「『戦争で命、奪わないで』生後8ヵ月、広島で被爆 父の跡継ぎ子ども救済 ~耳を澄まして 2013夏」
  2. 【独自取材】 「ヘリ墜落 米軍、同型機の飛行停止 沖縄知事 再発防止を要請」
    http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013080601001314.html
  3. 【独自取材】 「宇宙の謎に迫る次世代加速器 国内招致は『時期尚早』 日本学術会議」
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013080702000110.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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