2013.07.30 tue

フクシマ・センダイ・カルイザワ それぞれの地で考えること(第9回)

フクシマ・センダイ・カルイザワ それぞれの地で考えること(第9回)


髙木 亨

5年の積み重ね(第2回)

 
 高部地区での取り組みは学生が地域に入ることで、地域を元気づける、「活性化」を目指す活動である。さて、一口に「地域活性化」と言うが、何を持ってして地域が「活性化」するのであろうか。到達点はどこにあるのか。2回目はそこを考えてみたい。
 
 高部地区での取り組みは、当初、人口が減り、高齢化が進み、先行きどうなるかわからないという危機感の中、学生の受け入れプログラムに住民たちが手を挙げた。これまで、自分の子どもや孫以外と接することのなかった大学生世代がいきなり集落にあらわれ、どきどきワクワクしてくれたようである。「君らが来てくれることが地域の活性化だよ」。これは最初のときに住民の方から言われた言葉である。単年度の活動が継続できたのも、このような考えを地区の方が持っていてくれたからだと感じている。ゼロがイチになる。それも活性化だといえる(写真1)。

01 大学生事業初年度の聞き取り調査
写真1 この取り組みの原点。大学生事業初年度の聞き取り調査(2009年)
 

 活動を継続する中で、イチはゼロに戻る(日常化してしまう)。となると新たな「成果」もお互い欲しくなる。学生の活動で「成果」は何であろうか。昨年度はお米の売り方を変えて、単価を上げる取り組みをおこなった。小規模であるが、経済的な成果(活性化)を目指した。これとあわせて、都内の商店街で売られているお米の価格を高部の人たちに見てもらうこともできた。前回に書いたとおり、売上は伸び、住民の方も自分たちのつくっているお米の価値について再認識してもらえた。これも一つの活性化、ということができる。イチがゼロに戻る、と表現したが、おそらく、イチになる以前のゼロとは、ゼロの意味が違う、すこしだけ前に進んだゼロだと思う(写真2)。

02 都内キャンパスでの大学祭
写真2 2012年11月都内キャンパスでの大学祭の様子。高部からも駆けつけ販売のお手伝い
 

 しかしながら、「成果」は学生活動にとってハードルをあげてしまうものだと感じている。この言葉が出たことにより、学生たちはプレッシャーを感じていた。果たして「成果」は経済的なものだけなのだろうか。経済的なもちろん大事である。しかし、外の世界を知ること、刺激と日常化を繰り返しながら、少しずつの経験を積み重ねていくという「地域活性化」の「成果」があっても良いと思う。「細く長ーく、交流を続けたい」これも住民の言葉である。日常化しながら継続することの重要性を感じている。交流が日常化、つまり「あたりまえ」になることも地域活性化の到達点の一つと言えないだろうか(写真3)。

03 2012年夏祭り
写真3 2012年夏祭り。震災後初の屋外バーベキュー
 

 「限界集落を活性化したところで何になる」「学生を利用しているだけではないか」という言葉も聞こえてくる。また、地理学の中では地域活性化の取り組みはまだまだ「色物」のようである。直接的には言われないものの、それは地理学の役割か、という雰囲気を感じることがある。しかし、地域活性化の取り組みには、地理学の応用面での可能性があると感じている。実践的な取り組みに、地理学の手法は役に立っている。また、何が使えるのかを学生たちと真剣に悩み考えて工夫をしている。その中で「使える地理学」が見つかってきている。地理学の裾野を拡げるためにも、このような機会を活かしていきたい(写真4)。

04 「ないものはない」
写真4 島根県海士町(あまちょう)のポスター。「ないものはない」これも地域資源(地域資源はたくさんあるのだが、逆説的にとらえるセンスが大事)
 

 昔、「楽しくなければテレビじゃない」というキャッチコピーがあった。「大変だけれど、みんなが楽しくなければ活性化じゃない」、これが大事なのだと思う。小諸で地域活動をしている友人が言っていた「我々はクラブ活動をしているのだ!」と。大人のクラブ活動、趣味のようなもので、同好の人たちが集まって、楽しく取り組んでいる。ついでに、その楽しさが外に伝わればいい。そんな意味で彼は語っていた(写真5)。

05 ディスカバーこもろ
写真5 2012年「ディスカバーこもろ」での一風景。長野県小諸市での留学生のショートホームスティと町歩きのイベント。2007年からはじまり、今年で6回目を迎える。
 

 地域活性化の到達点、それは無いかもしれない。長い長い地域活性化という名の階段を一つ一つ楽しみながら登っていくもの、なのではないかと最近思う(写真6)。
 
06 高部のご夫婦
写真6 高部のご夫婦。2013年田植えでの風景



 
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著者プロフィール

髙木 亨(たかぎ・あきら)

福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任准教授
博士(地理学)、専門地域調査士。
東京生まれ、東京近郊で育つ。
立正大学で地理学を学ぶ。
立正大学、財団法人地域開発研究所を経て2012年3月から現職