2013.07.16 tue

新聞1面トップ 2013年7月16日【解説】記者の「質問力」

新聞1面トップ 2013年7月16日【解説】記者の「質問力」


【リグミの解説】

「広報」の限界
リグミでは、新聞1面の上位3つの記事に「スタンプ」をつけています(参照:「リグミの解説」2013年7月10日)。 内容が何らかの組織の発表内容をほぼトレースした記事である場合、「政府広報」「行政広報」「司法広報」「企業広報」といったスタンプをつけています。
 
「広報」の本来の意味は「広く知らせること」であり、中立的な言葉です。公にする必要がある情報を開示するということであり、良い情報も悪い情報も等しく対象になります。上場会社では、投資家の投資判断に影響を与える情報を速やかに正確に開示することが求められています。最近は、投資家のみならず、顧客などあらゆるステークホールダー(利益関与者)に影響を与える情報の即時開示が求められる傾向が強まっています。
 
しかし実際には、かならずしも情報開示が理屈通りに成されているとはいえません。「広報」と一対になる「宣伝」という活動があり、開示情報を自分たちの組織の都合の良い方向に操作したいという意図が常に背景にあるからです。「不都合な真実」をどう扱うか。「広報」は、経営論、組織論の重要なテーマとなります。
 
「ファクトチェッカー」の役割
そこで、株投資家にとっては企業業績を分析するアナリストの存在が重要になり、より一般には、新聞などのマスコミの役割が注目されることになります。アナリストやマスコミには、「事実」を正確に掘り起し公開する「ファクトチェッカー」としての役割があります。
 
ところが新聞を読んでいても、政府や行政機関や企業などが発表した「広報」内容をトレースしただけの記事が多いことに気づきました。そこで、タイトルの付け方や記事内容を読んで、新聞社の独自の情報や視点、批評などがない記事は「〇〇広報」というスタンプをつけています。こうした記事は、参照程度に留める利用が妥当だと思います。
 
久しぶりの「スクープ」
そんな中、今日は久しぶりに「スクープ」(特ダネ)と呼べる記事に出会いました。朝日のトップ記事「東電用地買収に裏金疑惑」です。東電が青森県むつ市に建設中の使用済み核燃料中間貯蔵施設をめぐり、西松建設に裏金で用地買収工作を進めていたとする内容です。
 
朝日の解説記事によると、電力会社は一般の会計検査に加え、経産省の監査もあり、秘密資金の捻出が難しいため、建設会社に浦資金を肩代わりさせ、後の工事発注で穴埋めし、土地買収工作を露見させないやり方をとっているようです。コンプライアンス(法令順守)の問題が浮上する話であり、また電力料金に跳ね返るやり方になっています。
 
「広報」は真実を明らかにしない
朝日の取材に対して、東電電力広報部は「当時の役員の一つ一つのやり取りについては承知しておりません」と回答。西松建設は広報部長名の文書で「内容を確認できる内部資料は、弊社には存在せず、回答はできません」。
 
ここに「広報」という活動の限界が見えます。都合の悪い話には途端に、「情報がない、事実確認ができない」という紋切型の回答になります。事実を争う姿勢や、実態解明を真摯に行う姿勢を示さないため、読者は東電と西松について「推定有罪」という印象を持つようになります。
 
新聞の3段階の役割
私たちが新聞などに求めている基本的役割には3つの段階(レベル)あると思います。第1が、世の中で起きているさまざまなことについて、正確な情報を得ることです。「事実」(ファクト)の確認です。ここでは「〇〇広報」というスタンプの記事であっても、一定の価値はあります。ただし、最近は「事実」と称するものの歪みや偏り、過不足をチェックする役割を放棄した記事が多いように感じます。
 
第2として、「スクープ」があります。新聞記者の取材力で隠された「真実」を掘り起こす記事です。「真実」は「事実」の奥に隠されている意図や原因などです。東電や西松の広報回答は「事実」かもしれませんが、「真実」は伝えていません。朝日の記者が次にすべきことは、両社の関係者から「真実」を聞き出し、続報を出すことです。最近は「スクープ」そのものが少ないように感じます。新聞社の奮起を期待します。
 
第3の役割して、「ストーリー」を語ることが挙げられます。そもそもなぜ電力会社は裏金工作をしてまで原発関連施設の土地買収を進めるのか。特ダネ記事を特ダネのレベルに留めず、問題の根幹に迫り、どうすればより良い状況をもたらせるのかを全体観のあるストーリーとして読ませる記事です。
 
「質問力」というノウハウ
第1と第2の役割は、比較的若い現場の記者の頑張りによって達成し、第3のストーリー展開は、編集部を挙げて読者に提示すべき世界観や価値観を明らかにする必要があります。
 
こうした新聞本来の役割、使命を果たすために、記者に求められる基本的な素養は当然、取材力となりますが、その基礎には「質問力」があります。「良い質問」が「良い回答」を引き出します。「質問力」のある記者になるにはどうしたらよいか。そのノウハウの蓄積や継承がされているか。新聞社の力量は、実にこのシンプルな一点から推し量れるのではないかと思います。
 

(文責:梅本龍夫)



  1. 【独自取材】 「新型出生前診断1500人 導入3ヵ月 研究予定の1.5倍 遺伝カウンセリング検証へ」
       http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130716-OYT1T00001.htm
  2. 【独自取材】 「中国成長7.5%に鈍化 4~6月期輸出、投資が不振」
       
  3. 【独自取材】 「TPP 日本、23日交渉入り マレーシア会合始まる」
       http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130715-OYT1T01038.htm

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 【スクープ】 「東電用地買収に裏金疑惑 青森の核燃料中間貯蔵施設 西松建設、2億円肩代わり」
       http://www.asahi.com/national/update/0716/TKY201307150312.html
  2. 【独自取材】 「中国のGDP減速、7.5% 4~6月期 2期連続の成長鈍化」
       http://www.asahi.com/business/update/0715/TKY201307150007.html
  3. 【独自取材】 「UE会長ら訴追勧告 比調査委方針」
       http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201307150458.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 【独自取材】 「謎の集団が双方銃撃 軍とモルシ派、衝突引き金 エジプト、複数の目撃証言」
       http://mainichi.jp/select/news/20130716k0000m030076000c.html
  2. 【独自取材】 「中国成長率7.5%に鈍化 4~6月期 景気減速、鮮明に」
       http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130715-00000037-mai-bus_all
  3. 【連続企画】 「社会保障も成長依存 政権 年金運用先を拡大 ~日本どこへ 2013参院選」
       http://mainichi.jp/select/news/20130716ddm001010034000c.html

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 【独自取材】 「新興国、外貨準備が急減 マネー流出 介入で通貨防衛 G20会議で対応議論」
       http://www.nikkei.com/article/DGKDASGC15007_V10C13A7MM8000/
  2. 【独自取材】 「中国、7.5%成長に鈍化 4~6月期 輸出伸びず生産停滞」
       http://www.nikkei.com/article/DGKDASGM1500D_V10C13A7MM8000/
  3. 【政府広報】 「32年金基金が省令違反 厚労省調査 剰余金、高利リスク運用」
       http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1500I_V10C13A7MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 【独自取材】 「不起訴理由、語らぬ検察 『嫌疑なし』か『不十分』か『起訴猶予』か 識者ら『名誉回復には背一名を』」
       http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013071690070636.html
  2. 【連続企画】 「負担増、家計?企業? 消費増税 各党、分かれる立場」
       http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013071602000123.html
  3. 【独自取材】 「都内『50年ぶり』海水浴場 『水に顔つけない』条件 葛西海浜公園海開き」
       http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013071602000124.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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