【リグミの解説】
原発新規制基準
東京電力福島第1原発事故の教訓をもとに、原発の安全策を強化した新規制基準が、7月8日に施行されました。さっそく北海道電力が泊1~3号機、関西電力が高浜3、4号機と大飯3、4号機、四国電力が伊方3号機、九州電力が川内1、2号機の再稼働を申請しました。地域で言うと、北海道、福井県、愛媛県、鹿児島県となります。
社説を掲載した4紙のタイトルを比較します:
読売: 「原発再稼働申請 安全確認は公正で効率的に」
朝日: 「原発の規制 木だけでなく森も見よ」
日経: 「原発の安全審査は厳格かつ効率的に」
東京: 「廃炉時代の始まりに 原発の新規制基準」
「再稼働優先」か「安全第一」か
読売と朝日の社説のトーンが好対照です。読売が「規制委は『独善』を排し、電力会社と建設的な対話を重ねよ」と主張するのに対し、朝日は「電力会社に取り込まれないために、現在の80人の審査体制を質、量ともに充実させよ」と警告しています。
また、読売が「安全基準はハード偏重にせず、運転員の対応能力などソフト面も評価し、審査でも現実的な対応をすべき」と早期再稼働優先を示唆するのに対し、朝日は「狭い地域に複数の原発が集まる『集中立地』など重要課題が積み残しだ」と指摘し、新基準がまだ途上のものであるとしています。
日経は、読売と朝日の中間のポジションで、「規制委は、見落としのない慎重で厳格な審査と、人員配置の工夫などで作業の効率化を図ることの両立」を求めています。また、「基準を持たせば事足れり」とする関電などの姿勢や、地元新潟へのていねいな話し合いを欠いた東電を批判しています。一方、東京新聞は、「新規制基準を正しく運用すれば、物理的にも経済的にも、原発維持は難しくなり、日本に廃炉の時代が訪れる」と指摘しています。
「有事」への備えが原発再稼働の条件
東京新聞は1面トップで、再稼働申請をした5原発の30キロ避難区域に位置する62市町村に、安全対策に関するアンケート調査を掲載しています。
・ 「避難計画の策定」=「完了または近く完了」23自治体(37%)、「検討または未了」35自治体(56%)
・ 「避難先の確保」=「完了または近く完了」22自治体(35%)、「検討または未了」37自治体(60%)
・ 「広域の避難訓練」=「完了または近く完了」39自治体(63%)、「検討または未了」14自治体(23%)
・ 「安定ヨウ素剤の備蓄」=「完了または近く完了」4674自治体(37%)、「検討または未了」10自治体(16%)
安定ヨウ素剤を備蓄し、避難訓練は実施しているが、避難計画の全体像を構築し、具体的な避難先の確保をすることや、避難導線の確保(幹線道路の渋滞対策など)に不安がある実態が見えてきます。「有事」への十分な備えができて初めて、原発再稼働にリアリティーが出てきます。
「安全第一」と「経済優先」が、原発再稼働の動きでつばぜり合いを演じています。この事態を見ると、原発を企業経営の通常の原理原則である利益確保(採算の最優先)に委ねること自体が、問題を複雑化していること示しています。
原発の政治責任
政治の責任において、少なくても3つの具体的な動きを早急に示す必要があると思います。第1が「原子力エネルギーの長期政策を具体化すること。特に新規増設が困難な状況では、廃炉40年ルールで次第に原発依存度が下がっていきます。その中で国の総合エネルギー政策をどうするのか。新エネルギー政策は、成長戦略の要に位置づけるものです。
第2が「廃炉のロジックとメカニズム」を明確にすること。これは「廃炉ビジネス」という新産業の育成だと考えるべきでしょう。廃止という後ろ向きな捉え方ではなく、新しい雇用や収益が生まれるという前向きな発想が必要です。そして「廃炉ビジネス」の進展と合わせて、核のゴミの処理という最も難しい問題も、「ビジネス」でどこまで対応できるか、研究開発を合わせて行うべきです。
第3が「原発事業を電力会社から分離し国営化」すること。原発が、一旦事故という「有事」に遭遇すると、コスト面で「異常値」が出る以上、私企業の経営者に判断を一任することはまったく現実性がありません。「安全第一」を要求しながら、業績評価を「収益」で判断する矛盾を解決できないからです。
全原発の完全国営化と段階的な廃炉対応、さらに廃炉ビジネスの育成、そして代替エネルギーとの共存共栄を図ることが、原発再稼働の「政治判断」と一対になるべき「政治責任」であると考えます。
(文責:梅本龍夫)
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