【リグミの解説】
参院は「良識の府」
参院選を間近に控えた今、参議院の存在意義が問われています。昨日の「
リグミの解説」では、「1票の格差」是正のための「0増5減」を実施する改正公選法を参議院がまともに審議せず、衆議院で再可決されたことを批判する新聞論調を比較しました。
本日の東京新聞の1面トップは、連続企画「参議院考 2013年夏、選挙を前に（上）」という記事です。衆院は「政権選択の主戦場」であるのに対し、参院は「良識の府」。この基本的なスタンスを再確認できる内容です。
山本孝志議員が残したもの
記事は、2006年5月の参院選本会議で、民主党の山本孝志議員（当時56）が演壇でがん対策と自殺対策の両基本法の成立を訴えた場面を描写。山本氏は自らのがんも告白しました。がんの死者は年間30万人、自殺が3万人で、国の対策を求める声が高まっていましたが、自民党と民主党の対立が激化し、衆院では与野党協調の雰囲気はありませんでした。
一方の参院は、政争から距離を置き、自民、公明、民主など与野党が一年以上前から自殺対策基本法制定への地道な議論を続けていました。山本氏の訴えで立法への動きが加速。参院の呼びかけで与野党が別々のがん対策基本法を提出していた衆院側も歩み寄り、両基本法が議員立法で成立しました。
山本氏は翌年他界しました。その後、参院本会議で追悼演説に立ったのは、ライバル政党の自民党ながら両法成立に尽力した尾辻秀久・参院議員会長でした。「党派を超えて共鳴した場面だった」と記事は伝えています。
現実対応と理想追求
東京新聞は、「『良識』とは、大多数が当然と思う『常識』にも、客観的な目線から疑問を持てる知性のこと。目先の損得にこだわらず、必要なら少数意見も吸い上げる懐の深さが求められる」と指摘しています。
今の政治、経済、社会が置かれている「現実」に対して、大多数の政治家はプラグマティック（実際的、実利的）に対応します。「プラスとマイナス」を秤にかけ、「賛成派と反対派」の動向を見極め、按配のちょうど良い落としどころを探る。これこそが政治の要諦ともいえます。「政権選択の主戦場」としての衆院は、特に「現実」に対するプラグマティックな対応が優先される場ともいえます。
しかし、現実対応だけでは、本当の意味でより良い社会は創れません。政治の大方の仕事は「現実主義」で対処しなければならないからこそ、政治には「理想主義」という対（つい）が必要となります。「良識の府」としての参院のミッションは、過剰な「現実主義」に傾斜しがちな衆院に、「理想主義」の薫風を吹き込み、東京新聞の記事にあったエピソードのように、時に政争を超えた協力体制を実現させるところにあります。
政治家は、「現実」に対応できなければ、生き残れません。しかし、「理想」を追求しなければ、政治家である意味がありません。
（文責：梅本龍夫）
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2013.06.26 wed
