【リグミの解説】
「動物体内でヒト臓器、容認」
本日の朝日新聞の1面トップ記事は、「動物体内でヒト臓器、容認」です。国が動物を利用して人間の移植用臓器を作るための基礎研究に「ゴーサイン」を出しました。
ブタの受精卵に遺伝子操作をして、ブタの膵臓ができないようにした上で、人間のiPS細胞(人工多能性幹細胞)を注入。これをブタの子宮に戻し、人間の膵臓を持った子ブタが生まれるか実験するというものです。ブタの膵臓は人間とほぼ同サイズのため、これが成功すると人間の移植用臓器になると期待されます。
生命倫理の問題
この記事と3面の解説記事で、生命倫理や安全面、そして生命操作への歯止めが不可欠という「押え」が書かれています。安全面については、動物の細胞に潜むウィルスが活性化して人間の細胞に感染する危険性を指摘。生命操作については、遺伝子操作に始まり、この実験の全体プロセスが、生命の自然な在り方に種々の操作を加えるもので、どこまで許されるのか歯止めのポイント、ロジックが見えません。
より包括的な生命倫理の問題については、子宮に戻した受精卵を戻すことを認める一方で、出産の条件は議論が必要としています。また、霊長類を用いた研究や、人間の脳神経や生殖細胞を作る研究には、生命倫理の観点から一定の歯止めをかける前提です。
生命操作の問題、生命倫理の問題は、すでに私たちの日常的なテーマです。血液検査による出生前診断、体外受精、代理母出産。これらはiPS細胞を応用した臓器の作成に比べ、話題性は低く、医学的・科学的意味合いも異なりますが、底辺に流れるテーマは同一です。
生命の不思議
「命は授かるもの」。大自然の中にある小さな人間にとって、命は「神のような大いなる存在」から授かるものでした。しかし、あくなき探求心と好奇心によって科学を進化させてきた人間は、気づくと、「命は選別するもの」「命は操作するもの」と位置付けるようになりました。
iPS細胞でノーベル賞を受賞した山中教授は、「特定の臓器の細胞が、あらゆる臓器に変化できるiPS細胞に戻る様子を見ると、今でも不思議な気持ちになる」と語っています。この「不思議」という感覚には2つの意味があると思います。
1つは、不思議な現象を解明したいという科学者の好奇心と探求心です。もう1つは、生命の不思議に対する畏敬の念です。「命は授かるもの」という素朴な生命観を大事にしながら、難病患者を救済する医学の道を切り開きたい。医学的・科学的探究と、生命倫理の自覚の両輪をもって、iPS細胞を活用していきたいというのが、山中教授の姿勢ではないか。そう想像します。
功名心と欲望の先にあるもの
しかし、好むと好まざるとに関わらず、一旦発明され、多くの人が利活用することになったテクノロジーは、思いもよらない形で応用されていく運命にあります。好奇心と探求心は、生命への畏敬の念や倫理観と対であるべきですが、実際には功名心や現世的な欲望が優先される可能性があります。
iPS細胞によって、人類は古の昔から憧れ続けてきたテーマを、ついに現実化できる可能性を手にしました。それは「永遠の命」「不老不死」です。人類最初の物語といわれる『ギルガメシュ叙事詩』は、4000年ぐらい前の古代メソポタミアの地で断片的に語られ、のちに編纂(へんさん)されたものですが、そのテーマはまさに「不老不死」です。
「不老不死の薬草」
暴君であった主人公のギルガメシュは、親友の死によって命には限りがあると知り、「不老不死の薬草」を求める旅に出ます。艱難辛苦(かんなんしんく)の末に貴重な薬草を手に入れたギルガメシュ。しかし、目を離したすきに薬草を蛇に食べられてしまいました。ギルガメシュはさめざめと泣き、失意のうちに王国に戻っていきました。
人類最初の物語が「不老不死」を求める内容で、しかも、すんでのところで手に入れそこねるのは、象徴的です。iPS細胞という素晴らしい発明・発見を手にした人類は、それをどう生かしていくのか。『ギルガメシュ叙事詩』以後も、人間はさまざまな物語の中で、命のテーマを紡いできました。資本主義的な欲望追求のメカニズムによって、金持ちだけが「永遠の生命」を手に入れ、貧しい人々は道具のように使い捨てにされるSF物語も少なくありません。
難病の人々を助けたいという慈悲の心。真実を知りたいという純粋な探求の心。そして生命の不思議に頭(こうべ)を垂れる謙虚の心。あらゆることができる人間は、それを受けとめる「大きな心」も育てる必要があります。
(追記:リグミ・ポータルの「
ストーリーボード公開版」で、物語の役割について「まじめな雑談」をしています。「永遠の命」「不老不死」がちょうど話題になっています。よろしければご覧ください。)
(文責:梅本龍夫)
- 【独自取材】 「G8、貿易交渉を推進 首脳宣言 税逃れに国際ルール」
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130619-OYT1T00020.htm - 【独自取材】 「東大4学期制に 休み長期化 秋入学見送り 来月決定」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130618-OYT1T01692.htm - 【政府広報】 「日韓外相、来月会談 昨年9月以来 関係改善狙う」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130618-OYT1T01677.htm
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
- 【政府広報】 「動物体内でヒト臓器、容認 国方針 移植医療研究に道 生命倫理・安全に課題」
http://www.asahi.com/tech_science/update/0619/TKY201306180474.html - 【独自取材】 「タリバーン、和平交渉へ 声明発表 アフガン政権と」
http://www.asahi.com/international/update/0618/TKY201306180446.html - 【独自取材】 「税逃れ防止へ協調 G8宣言 シリア内戦『早期解決』」
http://www.asahi.com/business/update/0619/TKY201306190001.html
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
- 【独自取材】 「G8宣言 シリア会議開催支持 紛争解決策示さず 多国籍企業の税逃れ監視」
http://mainichi.jp/select/news/20130619k0000m030147000c.html - 【独自取材】 「トルコ100人拘束 デモ関与 メディアなど捜索」
http://mainichi.jp/select/news/m20130619k0000m030096000c.html - 【独自取材】 「破綻前、高利コース 安愚楽牧場 3億数千万円集金」
http://mainichi.jp/select/news/m20130619k0000m040141000c.html
(毎日jp http://mainichi.jp/)
- 【独自取材】 「G8、多国間で新ルール 首脳会談が閉幕 課税回避防止へ連携 TPP・FTAを重視」
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDC1800K_Y3A610C1MM8000/ - 【企業広報】 「信越化学、米で塩ビ増産 シェール革命で原料安く 480億円投資」
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDD180PS_Y3A610C1MM8000/ - 【政府広報】 「国際会計基準に『日本版』 株式売却益など独自仕様 金融庁」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS18046_Y3A610C1MM8000/
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
- 【独自取材】 「換気扇3日間作動 『あえて止めず』 加速器事故 機構あいまいな説明」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013061902000100.html - 【連続企画】 「土地奪われ、命の危険 『戦争に利用、許せない』 ~憲法と、第3部 沖縄の怒り(中)」
- 【独自取材】 「4月以降の75市長選投票率 6割で過去最低 選挙離れ加速」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013061902000101.html
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
【本日の新聞1面トップ記事】アーカイブ