【リグミの解説】
全柔連の上村会長、続投表明
柔道の畳が揺れています。全日本柔道連盟の不祥事が続いています。「女子柔道の指導者による暴力」「助成金の不正受給」「現職理事によるセクハラ」と、どれひとつとっても一本負けに値する事件です。それにもかかわらず、上村会長は昨日、続投を表明しました。
原因を追究できる力
「困難な状況できちんとした改革をやることが私に課せられた使命」と上村氏は語っています。この使命を全うするためには、3つの条件があります。第1が過去の不祥事がなぜ起きたのかを徹底究明する意志と能力です。昨年9月に全柔連が「女子柔道の指導者による暴力」を把握してから、9ヵ月が経っていますが、根本原因を上村氏が理解し掌握した形跡はありません。
ビジョンを実現する力
第2の条件が、全柔連の改革の方向性をビジョンとして明示する力、ビジョンを具体化する戦略思考、そして戦略を個別活動に落し込み、工程表に従って遂行する実務者としてのリーダーシップです。この点での上村氏の能力は未知数ですが、第1の条件に対するもたつきを見ていると、心元ないものがあります。
しがらみのない立場
そして第3の条件が、しがらみのない立場です。改革とは過去の否定です。場合によると、全柔連の価値観の根幹にも切り込む必要があります。名門自動車メーカーの日産が長期低迷から抜け出せなかったところを、最後に救済に入ったのがカルロス・ゴーン氏でした。日産にも日本にもしがらみのないゴーン氏は、日産の改革に大ナタを振るい、見事にV字回復を成し遂げました。
翻って上村氏は、嘉納家が代々支配してきた全柔連において、嘉納家から後継指名を受け初めて創業家以外で会長についた人です。「嘉納家のお墨付きを得た会長には、誰も表立っては逆らえない」と全柔連関係者は語っています(読売社会面)。これでは、本物の改革を期待することは大変難しいと言わなければなりません。
体育会体質
全柔連は、日本に根強くある「体育会体質」を象徴する組織です。日本のスポーツ界全体を揺るがし、国際的信認をも傷つける不祥事を起こしながら、改革が遅々として進まず、その間にさらに不祥事が次々と発覚する。それにもかかわらず、トップは明確な態度を示さず、周囲はトップに物申せないまま、いたずれに時間だけが経っていきます。
バンダイ取締役の松永真理氏は、「体育会体質」の10項目を示し、「2~3個当てはまれば要注意、4個以上は要改善」であり、放置すればリスクが増大すると警告しています(参照:日経ビジネス2013年5月27日号)。このチェックリスト、参考になります。
・ 問題が発生しても活発な議論が起きにくい
・ 不正やパワハラを組織全体で隠蔽しがち
・ 上司よりも先に帰りにくい雰囲気がある
・ 上司の指示命令が絶対で、異論を挟みにくい
・ 上司は説明責任より根性論を振りかざす
・ 遅くまで残業する社員の方が出世する
・ 「ついていきます」と誓うイエスマンで幹部を固める
・ 役員すべてが男性で構成されている
・ 異能・異質な人材を煙たがる
・ 外部から課題を指摘されても、聞く耳をもたない
全柔連の幹部は、このリストを見て思うところがあるでしょうか。日本が世界に誇る武道が危機に瀕しています。
問答できる組織
フランスの柔道人口は日本を上回っていますが、フランスではあえて試合をしない道場もかなりあると言います。親たちが子どもに教えたいのは、礼に始まり礼で終わる柔道の精神だからです。勝ち負けにこだわりすぎると、柔道の精神の疎かになることをフランスの人たちはわかっているのでしょう。
柔道の父・嘉納治五郎は、柔道を学ぶ上で必要なものは「形(かた)」「乱取り」「講義」「問答」だと言い残しています。フランス柔道界は、最後の「問答」を大切にしています。柔道の精神とは何か、礼に始まり礼に終わるとはどういうことか、フランスではその意味を問い、自ら答を探ります。しかし、日本の柔道界は「問答」の精神がすっぽり抜け落ちました。
「問答」とは「対話」です。師匠と弟子が正座で向き合い、互いの目をしっかり見つめ、真剣に問い掛け、真剣に答える。正解はひとつではない。師匠も弟子も対等の立場で、一緒に探求する。そのプロセスで、方向性が見えてくる。それが「問答」であり「対話」です。「体育会体質」は、これと正反対の姿です。全柔連が、嘉納治五郎の教えの本質に立ち返り、「対話する組織」に脱皮できることを願っています。
(文責:梅本龍夫)
- 【政府広報】 「金利安定へ弾力対応 日銀総裁 追加策『今は不要』」
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130611-OYT1T01242.htm?from=ylist - 【連続企画】 「認知症、どこで支える ~Nippon甦れ 共生3.」
- 【独自取材】 「上村会長、続投表明 辞任示唆一転 『組織改革が使命』 全柔連」
http://www.yomiuri.co.jp/sports/news/20130611-OYT1T01187.htm
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
- 【独自取材】 「黒田緩和、正念場 日銀、長期金利抑制策見送り」
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201306110804.html - 【独自取材】 「トルコ、デモを強制排除 警官隊、催涙ガス弾や放水」
http://www.asahi.com/international/update/0611/TKY201306110181.html - 【独自取材】 「今季は飛ぶボールだった プロ野球の統一球 機構が調整隠す」
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(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
- 【政府広報】 「『混合診療』今秋に拡大 まず抗がん剤 規制改革原案」
http://mainichi.jp/select/news/m20130612k0000m010142000c.html - 【司法広報】 「2自衛官、2審も無罪 東京高裁 回避義務認めず あたご衝突」
http://mainichi.jp/select/news/20130611k0000e040198000c.html - 【独自取材】 「南北会談、中止 首席代表 人選折り合わず」
http://mainichi.jp/select/news/20130612k0000m030047000c.html
(毎日jp http://mainichi.jp/)
- 【政府広報】 「『市場、次第に落ち着き』 日銀総裁 オペ、弾力的に 金利抑制、追加策見送り」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC1101I_R10C13A6MM8000/ - 【政府広報】 「特許関連所得で減税 政府検討 研究拠点の流出防ぐ」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0800G_R10C13A6MM8000/ - 【政府広報】 「イラクに円借款1200億円 今年度 日本企業進出を後押し」
http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS1102B_R10C13A6MM8000/
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
- 【連続企画】 「『猪瀬さんは一過性』 役人と蜜月、都政左右 ~見えない都議―6.23選挙(上)」
- 【独自取材】 「統一球、変わっていた 今季から 機構、一転認める プロ野球、とんだウソ 反発力、修正指示」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/sports/news/CK2013061202000132.html - 【独自取材】 「『サザエさん』像に課税 都請求 45年間980万円」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013061202000131.html
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
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