2013.06.07 fri

新聞1面トップ 2013年6月07日【解説】本当のクール・ジャパン

新聞1面トップ 2013年6月07日【解説】本当のクール・ジャパン


【リグミの解説】

毎日新聞の連続企画「イマジン」が「えらぶ」をテーマにしたシリーズを始めました。「世界が愛するKAWAII」から始め、「選択」というテーマを通して日本人、日本文化、日本社会について考察しています。記事の中に興味深い指摘がたくさんあります。
 
「受容と変容」の文化
 
  • 「欧米文化は自文化の押し付け色があるが、スタジオジブリの登場人物はどこの国の人かよくわからない。日本は古来、大陸からさまざまな文化を受け入れ、それを日本風にアレンジする受容と変容の歴史がある」
 
「受容と変容」は、日本を語る上でのキーワードになります。絶対的な原理原則を全面に押し出すと、異質なものを受容するのは難しくなります。異質なものは原理に帰依(改宗)することでしか、存在しえなくなります。
 
日本にあるのは、原理ではなく、異質なもの(異国のもの)への好奇心と憧れ、尊敬の念です。それを受容する判断基準は、「実用性」と「美意識」です。異質(異国)は役立つか、そして自分たちの感性に合うか。もし合えば、徹底して自分たちのものにしていきます。現実生活の中で創意工夫しカイゼンする「変容のプロセス」に、日本のオリジナリティーがあります。
 
今、憲法論議が賑やかです。「現憲法は米国に押し付けられたもの」であることを問題にする視点があります。しかし、「受容と変容」の文化視点から見れば、現憲法を受け入れ、使いこなしてきた戦後60余年の歴史の評価に焦点を当てた方が、建設的で未来志向である気がします。
 
「二項同体」の価値観
 
  • 「戦後に生まれた階級のない社会が育んだ日本の新しい文化は、民族色、宗教色、イデオロギーなどの押しつけもなく、世界の誰にも愛され、楽しまれる。本当に21世紀の文化だ」
 
「階級」「民族」「宗教」「イデオロギー」は、「自分と他者」に断層を設け、正邪や優劣を決めつけがちです。相手を受容せず、むしろ排除するため、「二項対立」の緊張関係が生まれます。クール・ジャパンと呼ばれる日本文化の中で、アニメやファッションは確かに、「階級」「民族」「宗教」「イデオロギー」から自由であることが、世界的に見ても独特の輝きを放っています。そこには地球時代・人類時代の価値観を先取りした要素があります。
 
他方で最近わが国でも、他国・他民族を攻撃対象とした「ヘイト・スピーチ」を連呼するデモが東京・新大久保などで繰り返されています。「受容と変容」の文化を自己否定し、排外的な衝動に身を任せるのは、他者を攻撃しているようで、実は自分たち自身を攻撃する行為です。
 
編集工学研究所の松岡正剛氏は、『日本という方法』(NHKブックス)の中で、欧米的な「二項対立」の価値観と違って、日本は異質なものを併存させ、両方を活用し楽しむ「二項同体」の文化であるところに一大特色があると述べています。
 
中国と緊張関係にあっても、「漢字」(中国字)と「かな」(日本字)の混交文は問題にしません。日本語は、「二項同体」の見事な事例です。韓国や北朝鮮に異議を唱えたいことがあっても、朝鮮半島との政治・文化・風俗の長い歴史的交流の事実は消えません。日本列島と朝鮮半島の間には、「受容と変容」の長い年月が堆積しています。風呂敷の伝統のように、多様なものをやわらかく包む日本のオリジナリティーを忘れないようにしたいものです。
 
多様性の遺伝子
 
  • 「遺伝子の分野では、日本は世界でも多様性に富む国で、『ミトコンドリアDNA』が約20種類ある。これは欧州人の2倍となる。大陸に隣接する日本人は、古来いろいろなルートで人々が移り住んできた。大陸と違い、後から来た農耕民族が、先住民族を追い出すような手荒なこともしなかったため、多様な遺伝子が受け継がれた」
 
日本人の「二項同体」の価値観は、多様性を受け入れ、併存させ、包み込んできた先史時代からの伝統の上に築かれたものなのかもしれません。日本は生物多様性の国です。「動植物は推定30万種あり、南北3000キロにわたる長い国土や大小数々の島々、はっきりとした四季がある国は、世界的にも珍しい」と毎日の記事は解説しています。
 
ところが、日本人は多様性を選択しているかというと、かならずしもそうではありません。互いに空気を読み合い、互いに同質化圧力をかけあいがちです。大多数の人は、無難な服、無難な色を選び、他者と同じであろうとします。日本は一斉に一方向に走る「流行の起きやすい国」です。普段は「真ん中辺り」を好みますが、何かの拍子に、極端から極端に走ります。
 
「二項対立」を成り立たせる原理原則の軸足を持たない日本人は、本来は「二項同体」のやわらかな創造性を保持しています。ただ、余裕がなくなると、「真ん中」からはずれた異質なものをいじめたり排除したりします。さらには「真ん中」のバランスそのものを忘れ、右へ左へと極端に走ります。
 
「日本という方法」は、自分たちを鉄の壁で防衛したり、他者を激しく攻撃するところにはありません。人を価値観の鋳型にはめこむやり方とも対極にあります。「実用性」を判断する生活感覚と、研ぎ澄まされた「美意識」で、多様な世界を楽しむ洗練された感覚が日本です。風呂敷で柔らかく包むその姿は、小さな細胞膜が大きな世界の空気を呼吸する姿に似ています。ここに、本当のクール・ジャパンがあります。
 

(文責:梅本龍夫)



  1. 【政府広報】 「『10年間実質2%成長』 骨太方針 財政再建と両立」
       http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130606-OYT1T01311.htm
  2. 【企業広報】 「通信絶えても避難所案内 スマホに登録⇒画面に方角表示 三井住友海上が災害アプリ」
       http://www.yomiuri.co.jp/net/news0/atmoney/20130606-OYT1T01623.htm
  3. 【連続企画】 「参院選へ『96条』再び活発 ~憲法考」
      

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 【政府広報】 「特許権、会社に移行 『知財戦略』に検討明記 企業研究者らの発明」
       http://www.asahi.com/business/update/0607/TKY201306060511.html
  2. 【政府広報】 「財政再建策、先送り 骨太素案提示 『国土強靭化』は明記」
       http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201306060709.html
  3. 【政府広報】 「大学入試に達成テスト案 教育再生会議 センター試験見直しも」
       http://www.asahi.com/national/update/0606/TKY201306060299.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 【独自取材】 「株高帳消し 東証終値も1万3000円割れ 緩和前の水準に」
       http://mainichi.jp/select/news/m20130607k0000m020107000c.html
  2. 【連続企画】 「世界が愛するKAWAII 好きなこと、ためらわない ~イマジン 第3部 えらぶ1.
       http://mainichi.jp/feature/news/20130607ddm001040080000c.html
  3. 【独自取材】 「円高一時96円台 NY」
       http://mainichi.jp/select/news/20130607k0000m020132000c.html

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 【企業広報】 「ドコモ、通話に定額制 来年度メド、月1000円軸 他社追随も」
       http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD040BJ_W3A600C1MM8000/
  2. 【独自取材】 「『日仏、ハイテクで協力』 オランド大統領 日銀緩和に理解」
       http://www.nikkei.com/article/DGKDASGM0604W_W3A600C1MM8000/
  3. 【連続企画】 「名ばかり農地、どう使う 耕すなら発電OK ~規制、岩盤を崩す エネルギーの明日へ3.」
       http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS0303P_U3A600C1MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 【独自取材】 「予定価格99%で落札 核のごみ、エネ庁7事業 原子力関連法人 直近5年『独占』」
       http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013060702000103.html
  2. 【連続企画】 「増えた国民の義務 ~検証・自民党改憲草案―その先に見えるもの3.」
       
  3. 【独自取材】 「複数回テスト、負担 センター試験廃止 具体像見えず」
       http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013060702000102.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


【本日の新聞1面トップ記事】アーカイブ